第八話 比婆山強化合宿二日目(1)
二日目
明朝3時、俺はうんと早く目覚めた。
まだ日も顔を出さず霧がかすかに俺の視界を防いでいた。
「ふぅ、さすがに朝は冷えるな。さてと、そろそろ始めるか」
軽くウォーミングアップを済ました俺は、自分の足元で静かに寝息を立てている綾夏をみおろした。
「綾夏、おきな」
「スースースースー」
「おい、綾夏、おきろ」
「スースースースー」
「ったく、しかたがない」
俺はフライパンとポットを両手に持った。
ガーン!
森一体に鉄と鉄のぶつかり合った鈍い音が響いた。野生の鳥たちが反射的に周りの木々から飛び立った。
「スースースースー」
「こいつ……。よし、こうなったら。水、召喚」
俺は、手に周りの酸素と水素原子を水玉へ変え、綾夏の顔の上に落とした。
パシャッ
「きゃっ!」
「早く、起きろ。いくぞ」
「え、え?ちょっと待ってよ、まだお日様でてないのに」
「なに、いってんだ。綾夏のための合宿じゃないか。ほら、さっさと荷物まとめていくぞ」
「えー。しぶしぶ」
そして、綾夏の準備ができた直後、また俺たちの登山が始まった。
「ねえ流騎くん、どれくらい奥に行くの?」
「川が見えるまで。まあ、そんなに遠くはないだろ」
「あ、そうそう流騎くん。私変な夢見たんだ。なんか前に襲ってきたあの、モンスターだったっけ。あれの鷹とか猿が襲ってきたんだ。ちょうど、あの石が見え始めたころから」
「へー、そりゃ正夢にならなきゃいいけどな」
と、思った次の瞬間、
キーキーキーキー!
「綾夏、伏せろ!」
「きゃっ!」
俺たちの頭上を無数の影が飛び回りそれぞれが木の枝につかまり騒いでいた。
「よくも俺の兄貴分であった獅子兄を倒してくれたな。今日は俺たち猿軍団モンキーが相手だ。そして俺たちの相棒の鷹軍団ホークスもお前の命をもらいにきたぜ」
「ちっ、お前らも懲りないやつらだな。しかし、何故俺の居場所が逐一わかる」
「ふっ、それは俺たちのボスがお前の居場所がわかるからだ。いつなんどきもな」
「そりゃ、厄介だな。綾夏大丈夫か?」
「え、うん、私は大丈夫。でも、流騎くんは?」
「ああ、こりゃちと多勢に無勢だな。綾夏、ほんの小手調べだ。手伝ってもらうぞ。猿と鷹、どっちがいい?」
「え、でも、私戦ったことなんて……。それに、ここ数年間、私自分の力使ったことないよ」
「なに?ちっ、あの親父なに考えてやがる。まあいい、綾夏。もしここで自分の命を守れないようじゃ、これからの合宿は無しになるからな。生きるか死ぬか自分で決めろ」
「え、そんなー。でも、わかった。やってみる」
一瞬だが綾夏の目が真剣にきらめくのを見届けた俺は綾夏に猿軍団に託し、俺は鷹軍団と対峙することにした。しかし、この大軍は何だ。猿は軽く見積もっても30はいるし、鷹は50もいる。
これは、一気にけりをつけたほうがよさそうだな。
「お前がホークスとか言う連中か。しかしこんな山の中じゃ思うように飛び回れないだろ。この勝負、俺の勝ちだな」
俺が連中をののしった時、ホークスのリーダー格の二メートルぐらいの鷹が、
「な、なにを!よくも俺たちをばかにしてくれたな。お前みたいなひよっこ俺たちの敵ではないわ!」
「ふん、それはどうかな。水神召喚、怒濤雹雨!」
俺は印を唱え、自分の力をわざとして使うための呪文を唱えた。
術を唱えて20秒が過ぎ、
「ふん、何だその呪文は?しかも何も起こらないではないか。はっ!親方は気をつけろとおっしゃったが、こいつはただの腰抜けだ、ものどもかかれ!」
そして、鷹軍団が俺めがけて突進して来た。
「ふん、鷹は短気か、まあ、そちらのほうが俺は助かるんだけどな」
そして、鷹軍団のなかの一羽が、俺の頭上1メートル以内に来たとき異変が生じた。
どこからともかく、雹が降ってきた。しかもそれらに触れた鷹たちがどんどん凍っていった。
「な、なにがおこっているんだ?みな、退け、退けー。ぐおっ!」
鷹軍団のリーダー格がなにやら騒いではいたが、結局そいつが一番最後に凍り、そして地面に落ちたとき粉々に砕けた。
モンスター大軍登場! などと言ってみたものの呆気ないものかもしれませんね。さすがは主人公は強いですね。