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燃えた夏  作者: Karyu
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第八十六話 爆発、そして消失

 

 悲痛な沈黙が続く中、静香は急かすように刈谷に呟いた。


「えっ?」


 刈谷は信じられないと言った顔をして他の三人を見上げた。


 綾夏は事の成り行きがわからずしどろもどろしていたが流騎と桃は刈谷の目を見て頷いた。流騎は綾夏を落ち着かせようと、


「いいか綾夏、チルドレンの能力継承の際、必ず異性同士と決まっている。そして継承側の好意あるチルドレンにしかその能力を受け継がせることしかできない。やり方は接吻だ」


「えっ? 接吻?」


 綾夏は小さく驚いて、静香と刈谷を交互に見た。


「そうだ、接吻。キスだな。それをすれば刈谷は静香の能力を使うことができる。静香の命の代償としてな」


「そ、そんなことができるんだ……。でも……」


「ああ、MBSのチルドレンの実験体で研究したことでわかったことだ。チルドレンはオリジナルの影あるいは分身から能力を受け継ぐ際、遺伝子を変えられてしまうことがわかっている。あるいはチルドレンとなる人間には既にそういう遺伝子があるのかどうかはまだわからない。だがその遺伝子を構成するDNAの核酸塩基、五種類存在している。


 アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシンが核酸のベースとなっている。しかしチルドレンの遺伝子、核酸塩基を調べたところ新たな塩基オリオンが見つかったんだ。その塩基は特殊で自分の同類を引き寄せる効果を持っているらしい。そして今静香が刈谷にやろうとしていることもそのオリオンの特殊さからできるものだ」


 刈谷は顔を軽く紅潮させていた。普段の刈谷ならもっと赤いのではあるが今時点の状況が刈谷の理性を安定させていた。


「は…やく…、か、り…や……」


 静香は空気に溶けてしまいそうな声を必死に口を動かし、発した。


「ああ、わかった」


 流騎、桃と綾夏の三人が見守る中、刈谷は静香の頭を近くに抱き寄せた。静香は血の気の失せていく頬をほころばせ、薄い朱色に染まっていた。普段なら気まずくなる雰囲気でも前者の三人は複雑でありながらも暖かに見守っていた。


 刈谷は軽く静香の唇に触れた。自分の唇が触れた時点で静香は顔を一瞬遠ざけたが、すぐさま刈谷の唇と重ねあった。そのくちづけは世界で一番悲しくも胸に一瞬灯火は灯るような優しい余韻を流騎達に残した。


 静香から一粒の涙がゆっくりと流れ落ち、それを確認した桃は、


「秀明君、今度は静香の涙を舐めて。そうすれば貴方は静香の能力を受け継げるから」


「わかった」


 刈谷はゆっくりと静香の口元から潤う目元に口を移動させ、静香の片目にも軽くくちづけをした。


 静香は刈谷が自分の能力を受け継いでくれたことを確認した直後意識が途切れた。


「し、静香っ!」


 刈谷はその時静香を下の名で叫んだが当の本人は意識が既になくなっていた。流騎、桃、綾夏と刈谷は静香の体を見下ろしながら悲愴に浸かっていた。


 しかしそんな静寂と別れの間を現状は与えてはくれなかった。流騎のMBS隊員用の携帯がなりだし、それに出ると支部で待機しているハヤブサからの連絡があった。

「こちらハヤブサ。シルキ聞こえるか?」


「ああ」


「中国軍に支部が落とされた」


「なにっ!?」


「私は今、支部の保有する隠し倉庫の中にいる。中国軍はここを制圧し、日本中の所々の支部を落としているそうだが、本部はまだ健全である」


「それじゃ、ここはおとりだったのか!?」


「いや、お前達が交戦したと思われるチルドレンは他の支部でも確認されている。しかしその全員が倒され、あるいは捕獲された模様だ。しかしいくらなんでも中国軍の人数が想像を絶していたため長期戦を挑んでいた箇所はもうすでに落とされていった。それだ半時ほど前までの現状であったが、いまでは撤退を開始しているらしい。悪いがお前達には至急、支部に戻ってきてもらいたい」


「わかった、だがシズカが重傷を負っている。継承を済ましたのだがまだ息があるため援……」


 流騎の立っていた地点の五十メートルほどしたところで砂浜が爆発した。


「!?」


 四人共にいっせいにその地点を振り向いたが次の瞬間流騎たちが立ち尽くしていた地点も地面の砂が盛り上がり爆発した。立て続けに何発もの爆発がおき、あたり一面は砂が舞い上がり、視界が完璧に遮断された。砂浜に散乱していた中国側もMBS側の死体も爆発と共に舞い上がった。


 三十秒後、爆発は終了したが刈谷の傍に横たわっていた静香の姿が消えていた。


「なっ!?」


 刈谷は辺りを見回したが、見渡す限りの舞い上がった砂と無数の死体が散乱しているだけであった。流騎と桃、それに綾夏は刈谷の傍に集まったが刈谷の姿を捉え沈黙に浸るしかなかった。


 刈谷の立ち尽くしていた地面には静香の吸収されなかった赤い血がゆっくりと砂の間に染み渡っていった。



次回、最終話です。

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