第八十四話 刈谷・静香vs天竜
「ぐっ……!」
刈谷は天竜の一撃を受けて十メートルほど吹き飛ばされた。静香がすぐさま刈谷の傍に駆け寄ったが、天竜の方の動きが速く、静香は天竜の右腕の一振りで刈谷から遠ざけられた。
刈谷はなんとか立ち上がったが、天竜から受けた右腕の出血がひどかった。刈谷は怪我を修復したかったが目の前に天竜が迫ってきていたので、動くに動けずにいた。
「ふうううゥ、お前、あまりたいしたことないなァ……。つまらんぞォ」
天竜の両手には巨大な五本の爪が覆い、その先端には先程の刈谷の血と、静香の血が垂れていた。
刈谷は静香の居場所を再確認して、少しでも静香から天竜を遠ざける為、
「土爆!」
と叫び、刈谷は足元に無数に存在する砂を手で握り天竜に投げつけた。
「ふん!」
飛来してきた土爆を天竜は巨大な右手の爪で叩き落したが、その直前に土爆は爆発し、天竜の視界を五秒ほど遮った。
天竜は慌てもせず視界いっぱいに広がる砂が舞い落ちるのを待ち、前方にいる負傷した刈谷を見たが、刈谷はその場にはいなかった。
天竜は周りを見回したが刈谷の姿はなく、弾き飛ばした静香の姿も見当たらなかった。すると、いきなり天竜の立ちふしている砂浜の砂が渦を巻き始めた。
「?」
天竜は不思議に思い、自分の足裏で広がっていく砂の波紋を眺めていた。すると波紋はますますその直径を広めていき、広がるにつれ天竜の足は砂の中に引き込まれていた。
天竜は足を引き抜こうとしたが、全筋肉を行使しても足は砂から引きあがらず、どんどん砂の中に引き込まれていった。
「なんだ、これはァ!?」
天竜は両手の巨大な爪で波紋の広がる砂を切り裂いたが、砂を切り裂けるはずもなく刻一刻と天竜は引き込まれていった。
多少動転していた天竜ではあったが冷静さを取り戻したのか、前方にいる刈谷を睨んだ。いつの間にか刈谷の腕の傷は治り、両手を砂に伏せていた。
「これが、お前の必殺技かァ?」
「いや、ほんの小手調べだ」
刈谷は傷は治ったものの出血した量がひどく、顔が蒼白になりながらも憎たらしげな微笑を浮かべた。
「そうこなくてはなァ……」
対する天竜も歓喜の表情を浮かべ、何を思ったのか両手の爪で自分の足目掛けて振り下ろした。すると天竜の膝まで使っていた砂から上、すなわち膝以外の天竜の体は砂の波紋から逃れた。
「なにっ!?」
刈谷は予想もしていなかった天竜の行動に混乱し、冷静さを失っていた。
対する天竜は膝から下の切断面を自分の雷の力だ一気に焦がし、出血を止めた。そして空気中に存在する僅かな電子を利用して、自らの体を対極の電子で覆い、宙に浮くことに成功した。
天竜の行動に驚嘆した刈谷は未だに両手を砂の上についたままであった。
「死ねェーーーー!!!!」
天竜は両手いっぱいの爪を広げ、刈谷目掛けて突っこんできた。
刈谷は迫ってくる天竜を呆然としながら眺めているだけであった。そして天竜が両手を刈谷目掛けて振り上げたとき、
「刈谷さんっ!!」
静香が刈谷の目の前に躍り出てエイン・シャッテンで天竜の攻撃を防いだが、あまりの威力の高さに静香のエイン・シャッテンは打ち破られ静香は威力は減ったたものの多数の血を噴出しながら刈谷の真横を一直線に吹き飛ばされた。
「倉木さんっ!!」
刈谷は後方を振り返ったが静香の姿を捉えたのは一瞬のみであった。
「よそ見してんじゃねえよォ!!」
天竜は静香を吹き飛ばしたあと、そのまま刈谷に突っこんできたのであった。そのため刈谷は無防備のまま天竜の突進を喰らい、全身の骨がきしみながら砂浜の上でなんとか体制を立て直した。
刈谷は前方で宙に浮いた天竜をねめつけた。その目には怒りと憎しみが渦巻いており、以外にも思考は澄んでいた。
「一瞬で決めるっ! オロチっ!!」
刈谷の雄叫びに守護神は応え、オロチは異空間から刈谷の背中から現れた。
「ほほうゥ、面白いィ」
天竜は驚きながらもどこか楽しそうな表情を刈谷に向けていた。刈谷はその瞬間を見逃さなかった、天竜の感心が自分ではなくオロチに向かった時点で刈谷は既に勝負に出ていた。刈谷は天竜に向かい一気に加速、目にもとまらない速さでオロチを天竜の両手に噛み付かせた。しかし、見切っていたのか天竜は後ろに避け、その際に左手で幾らかのオロチの頭部を粉砕した。しかし天竜の右手は刈谷のオロチの一つに噛み取られていた。
天竜も集中力を戻し、目の前の刈谷に視線を戻したが、刈谷の姿はまたもや消えていた。
「どこだッ?」
天竜は頭を後ろに回そうとしたが、天竜の動きはそこで硬直した。
「な……なにィ!?」
天竜は苦悶を吐いたが自分の体に何が起きているのかわからないまま絶命した。そして天竜の体は思い音を立てながら砂浜に落ちた。その体は砂に落ちても一ミリも動かず硬直していた、いや石化していた。
刈谷は石化した天竜を見下ろした、すると背後にいたオロチが貪るように天竜を噛み砕いていた。
刈谷はオロチにかまいもせず静香の横たわっている場所へと駆け出した。
刈谷と静香のタッグ対天竜でしたが、静香が重症を負ってしまいました……。
しかし刈谷は成長しましたね。綾夏同様、感心します。