第八十話 侵攻開始……
時刻は2000時、中国軍の侵攻が始まった。中国側の勢力は当初の五十万を超え六十万に達していた。しかし滋賀MBS本部のチルドレン隊員が任務開始二時間前の1800時に中国側のデータバンクのハッキングに成功していた。それにより中国の作戦行動と戦力を把握することができた。そしてその情報を中国側のインターネットに流し、極秘に日本政府に送っていた。
中国側の情報を獲得した日本軍は1930時までに大幅なプランの変更を行い、MBS系統の配備はそのままにし、軍の配置を変更。中国側に奇襲攻撃をするとの声明を宣告した。
その結果、中国は2030時、日本海で日本海軍と空軍による不意打ちと誘導攻撃を開始。日本側は中国の当初の計画を大幅に崩すことに成功した。中国側の当初の計画は部隊を日本海で四つに分けそれぞれを北海道側、中国地方山口県側、九州地方佐賀県側と沖縄を大きく迂回して関西地方の和歌山県側を攻めるというものであったが、日本軍の電撃攻撃により軍の勢力は三割に減少。中国側の撤退命令は出ず、そのまま日本軍の包囲網を突破し日本国土の上陸に予定を大幅に遅れ翌日の0100時に上陸した。
中国側は最後の最後で軍の人数を十万増やしたため燃料や食料の確保が間に合わず、前線に出た中国軍の戦艦の燃料では中国に帰るまで持たず、日本に上陸するまでの片道分の燃料しかなかったのである。
日本軍側は自軍の損傷を一割以下におさめ中国軍が日本に三十キロ以内に近づいた時点で撤退した。そして山口県の油谷湾に攻めてきた中国軍の戦艦十隻が上陸、流騎達の油谷島には戦艦三隻、中国軍兵士二万人が続々と海岸から攻めてきた。
流騎達のいる防護壁では各自のトランシーバーから怒号が行き交い、銃声が乾いた空気に響き始めた。
「はじまったか。お前達耳を塞いどけよっ!」
流騎はバズーカ砲を二つ肩に担ぎ、防護壁から顔を出し、二百メートル前方に群がる中国兵に向かいバズーカ砲を発射した。
バズーカ砲から飛び出した二つの砲弾は空気中で目視はできないが冷凍され、大きさが二倍、三倍以上にも膨れ上がった。そしてその威力は絶大。中国兵士を数えるだけで五十は吹き飛ばした。その威力に一瞬、中国兵士の間に沈黙が流れた。
それを見計らった流騎は、
「綾夏、静香、いまだっ!」
と叫んだ。
「我が右手に宿りし不死鳥よ飛び立て、火の鳥・火焔・鳳凰の火舞矢!」
「闇の使いケルベロス、光の使いユニサス、敵の血と魂に飢えよ」
綾夏の両手から放たれた鳳凰は中国兵士を焼き殺し、鳳凰は焼けいく兵士の体の上を踊りながら燃やし続けた。
静香の命により地底の影から現れたケルベロスは中国兵士の群れに飛び込みその屈強な三つの顎で兵士達の体を噛み砕いていった。異型の生物を目のあたりにした中国兵士は銃をケルベロスに向け連射したがそれら銃弾はむなしくケルベロスの影の体をすり抜けるだけであった。
そして星の見えない暗雲に覆われた空から一筋の光が垣間見えた。その光の筋に見とれていた兵士たちは天空から一頭の純白の馬を見たはずだ。一角を頭部から生やし、両肩から透き通るように輝く羽をのばしたユニサスは、しかし次の瞬間地上の中国兵士達の心臓をその自慢の角で突き刺していった。
戦闘開始から十分、油谷島の海岸は阿鼻叫喚と化していた。兵士を狂うように踊り焼く鳳凰、猛々しく獰猛に人間の肉体を喰らい尽くケルベロス、優雅にそして正確に心臓を貫くユニサス達の支配する戦場は最早一方的な殺戮と化していた。
この修羅場を作り出した綾夏と静香は物静かそうな双眸で自らみちだした光景を眺めていた。
「こ、これでいいんだよね? これであの人たちも中国に、自分の国に帰ってくれるんだよね」
綾夏は震える声で縋るように静香に問うた。
「ええ、いくら愚かな人間でも自らの命を自らの手で断とうとする人間はいません。彼らも人間であるならばすぐさま投降する事でしょう」
「ああ、これで約千人は死んだだろう。これでやつらも……!!」
流騎は目の前で起きた光景に目を見張った。何故なら兵士たちは一向に下がらず次々と補充されるかのように新たな兵士達が海岸の浜辺に進行してきた。
「くそっ、投降の意志なしかよ。おい萱場今度は俺達が行くぞっ」
「ああ、やるしかなさそうだな」
「いくぞっ! メデューサの呪い!」
「海の嵐、オーシャンストーム!」
刈谷が術を唱えると浜辺の土の底から巨大な人間の頭部と思わせる物体が浮上した。しかしその土塊からは蠢く無数の太い髪の毛と思わせる部分が現れた。その土塊からできた頭部はメデューサの頭部であった。蠢く髪の毛の全てが土で作られた蛇であった。メデューサの蛇たちは周辺の兵士達を頭部から噛み砕いた。そしてゆっくりとメデューサの土の両瞼が開かれ、恐らくは浜辺の白い貝殻を集めたであろう瞳が現れ光り輝いた。その光を直視した中国兵士たちは次々と体が麻痺し動かなくなり、体の全細胞が硬直したまま息絶えていた。その光景は無数の兵士達がまるでフィギュアのように様々なポーズを取って、無造作に並べられているかのようであった。
そして流騎の唱えた術は中国の戦艦が待機する海の上で発生した。流騎の唱えた術で海のいたるところに渦が生じ、段々とその渦は広がっていった。その流れに逆らえないのか、戦艦はどんどんと渦中の中に引き込まれ、遂には海の藻屑となって消えていった。流騎の術で消えた戦艦は七隻、最早中国側の敗北は明らかであった。
しかし流騎達の損傷も激しく、戦闘に参加していた三十人の一般隊員の大半は遠距離射撃で応戦していたが、そこに砲弾を打ち込まれたためほぼ壊滅状態となっていた。
中国側の兵士達は自分達の戦艦から白光弾が打ち上げられるのを見て、ぞろぞろと自分達の戦艦に帰っていった。
それを見ていた刈谷は、
「案外あっけなかったな」
「うん、そうだね。でも、なんか嫌な予感がする」
桃がそういい終わった直後、
流騎達が何の攻撃を行っていないのに、中国側の戦艦の残り三隻が爆発、炎上したのであった。
火蓋が切っておろされました。
しかし、中国軍側もなにか内乱めいたものが
感じ取られます。
これはあくまでフィクションですので私の小説に出てくる中国は私個人が設定付けているだけのものです。