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燃えた夏  作者: Karyu
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第七十八話 誓い


 流騎達は一般隊員たちに先導され、第一倉庫と書かれた古工場らしき建物の前に車で着いた。外見はシャッターも塗装も錆びて、誰も近づかない雰囲気を漂わせていた。いや、実際にも一般人は近づけないように結界が張られており、結界の張られている地区に近づくと相手の脳を刺激し、その場を離れたくなるような衝動に掻きたてるため一般人にこの場所を知られたことはない様である。


 そして車から降りた一同はシャッターの横に配置されている扉を通り抜けたらそこには外装からとても想像できないほどに清冽であった。壁は全て清流を思わせる透き通る水色で塗られ、天井にはいくつにも連なる蛍光灯で照らされていた。工場の割には天井は低いが面積が広いため狭いと感じることはない。工場はいくつものしきりで区切られ、いくつもの通路にもよってつながれていた。


 流騎達一行は案内されるがまま支部司令室と書かれた部屋に案内された。流気たちが中に入るとそこに一人の男が仁王立ちになって部屋の中央に立っていた。


 男は流騎たちに背を向け部屋の奥に掲げられている鳶という字を見ていた。流騎達が入ってきたのを確認し男はゆっくりと正面を向いた。そこには流騎が前に一度見たことのある顔があった。


「お、お前はトンビ!」


「おお、覚えていてくれたかいシルキ?」


「な、なんでお前がここに? しかも司令室にいるんだ?」


「なーに、実に簡単なことさ。私は先日ハヤブサに任命されここ山口MBS支部の司令官となった。しかし偶然ではあるな、何せ私はあの中国の生命が行われる前には既にここに転属されたのだから」


「ああ、確かに偶然だな。以前あったときには冷蔵……」


「それ以上は禁句だシルキ隊員。私にも沽券というものもある」


 トンビはきざっぽく片手を頭のでこにあてもう一方の手で流騎の言葉を制止させた。流騎は少し怪訝な顔をして、


『だったら、端からあんな登場してくるなよ』


 そう心の中で呟いた。


「しかし、なんだな。そんなにも再開の時を楽しむ時間はなさそうだ。早速で悪いが今夜の2000時の任務について詳しく話しておかなければならない。よいな?」


「わかった」


 流騎とトンビは先に司令室に設置されたテーブルに座り、流騎の横に桃、静香、綾夏、刈谷の順に座り、トンビの横には一般隊員の四人が座った。どうやら一般隊員でもかなりの地位の人間であるらしい。


「それでは2000時の任務時の詳細について話す。先ずは我が政府の軍隊、主に海軍と空軍がこの山口基地から防衛に就く。その約三時間後の2300時に中国艦隊が日本海岸沿いで目視できるほどまで近づいてくる。


 もし目視できるようになった場合、日本軍の防衛任務は終了する。その時点で中国の戦力は半分以下になることが予想されている。詳しいことは極秘とされ私にも知らされていない。しかし、目視できるようになった中国艦隊はそのままこの油谷湾の油谷港から上陸してくる。それを迎え撃つのが我らルネサンス部隊だ。


 ここの地域は我々が、ここより南西の角島はシコン達の率いるリベリオン隊が迎え撃ち、私は賛同しないのだがシルキ、お前の部隊は五人と五十人の一般隊員と一緒にここから西の油谷島の防衛に就くことになっている」


「そうか、任務と成れば仕方がないな。それで、この任務の遂行達成率は?」


「我々の支部は生存率は61%。シコン達の部隊は58%。お前達の部隊は21%となっている」


「なっ!?」


 今まで黙って聞いていた刈谷は身を乗り出した。


「落ち着け刈谷。なにもこれで終わりじゃないんだ。お前もわかってて来たんだろ?」


 流騎はうまく刈谷をなだめ、刈谷もしぶしぶ席に座りなおした。


「それでトンビ司令官、いつ出発すればいい?」


「後四時間後だな。四時間後の1600時に油谷島に出発してもらいたい。そこは昔、軍の訓練所として使われていたが今は破棄されている。普段は立ち入り禁止になっている、といっても何もないのだがな。そこで、お前達が力を発揮できるであろうという上からの配慮とのことだ」


「上も結構手回しのいいことだな。わかった、それまで俺たちは自由行動をさせてもらう。一つ部屋を貸してはくれないか?」


「ああ、いいだろう。おい、案内したまえ」


「はっ」


 流騎達はトンビに敬礼して別れ、一般隊員に連れられ客室と書かれた個室に案内された。

「それではごゆっくりどうぞ」


「ああ、ありがとう」


 流騎達は早速部屋の中に入った。そして扉を閉めるや否や、


「おい萱場、どうする気だ?」


「ああ。きっと上はあわよくば俺達が戦死するとでも思っているんだろう」


「な、なんでそんなことを……」


 綾夏はまたもや不安の渦に入りかけようとしていた。


「大丈夫だよ、綾夏ちゃん。桃達は死なないよ。だって桃達には流騎や秀明君がいるんだから。いざとなったら助けてくれるよ」


 桃は綾夏を優しく抱擁した。


「ああ、その通りだ。俺たちは一人じゃない、五人もいるんだ。俺たちはチームだからな。負けるはずがない」


「そうだな。だったら暴れまくってやるぜ」


「うん、私頑張る」


「そうだよ、その意気その意気、二人とも。この任務成功したら皆で広島風お好み焼き食べに行こうよ。ね?」


「そうですね、生き残れたらいきましょう、皆さんで」


 流騎、綾夏、刈谷、静香、桃の五人の間には暗黙の誓いが交わされた。必ず生きて戻るという誓いが。



暗黙の誓い……。一度でいいからそういったものを友人達と行ってみたいものです。それだけ流騎たちの団結力が偲ばれますね……。

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