第七十五話 歪めく世界
「ルネサンス全隊員に告ぐ、先程日本時刻1900時、日本首相滝宗総司が中国政府に拉致、監禁された。これがそのときのニュースだ」
モニターの映像は切り替わり、若い女性リポーターが中国日本大使館前でマイクを手に持ち緊張しきった声で報道していた。
「さ、先程現日本首相でおられる滝宗総司氏が中国政府に日中首脳会談中に拉致、監禁されたとの情報が入りました。中国政府はこの犯行について容疑を是認、首相が中国政府により拘束された瞬間がインターネット上でつい先程流されました。これがそのときの映像です」
またもや映像は切り替わり、滝宗首相と中国現総書記が握手を交わした姿が見られたが中国側の大統領は手を放さず怒声をあげ、会談を行っていた部屋に多数の兵士が入り込み、そのまま滝宗首相を捻り倒し、手錠をかけ部屋から連れ去った。もちろんその場に居合わせた他の日本長官達も連れて行かれその場で翻訳をしていた男性は射殺された。見るにもおぞましい映像であった。
すると今度は中国現総書記が画面に向かい中国語で喋っていたがモニター内には字幕がしかも日本語と英語で表れた。その字幕を読み上げると、
「我々中華人民共和国は日本現首相を拘束した。これは我々からの宣戦布告である。我々は明日日本時間2000時、日本国を占領する!」
と字幕には書かれていた。するとモニターは切り替わり女性リポーターは、
「この声明にここ在中国日本大使館は混迷。ただいま、日本と通信を取り、対策に追われている模様。ただいま生放送中ですが、ここ大使館の周りには現地の中国人が殺到、大使館に石を投げ込んだり国旗に火をつけたりしています。我々もこのままでは危険なので一旦大使館内に避難しようと思います。あっ……! 戦車です、戦車が日本大使館前まで来ました。民衆を追い払うのでしょうか? い、いいえ、主砲が我々に向けられていますっ! に、逃げて……! ザーーーーー…………」
モニターからは戦車の砲弾が女性リポーターとカメラマンに放たれ、女性リポーターの鮮血とカメラが横転し白い煙を上げる戦車の主砲が一瞬みえ、画面は不奇怪な砂嵐を流していた。
そしてすかさずハヤブサの真剣な顔が表れた。
「先程見たとおりだ。明日の2000時中国の軍隊、五十万もの兵士、二千の戦艦、一万の戦闘機、三千もの潜水艦が日本に攻めてくる。今のままではいくらわが国の自衛隊が軍に変換されたとしてもいままで軍事管理をしてきた中国には赤子同然だ。
だがこの国の軍だと攻めてくる中国の戦力を半分に削減することが可能だ。しかもこちらの被害を一割に抑えてな。問題は中国軍の上陸だ。これだと我ら軍の陸上軍隊は適わない。そこで我らルネサンスの本領発揮だ。我々は我々の力をもってして中国軍を海岸沿いで迎え撃つ。今先程全本部、支部にルネサンス隊員の配置地図を送信しておいた。
各本部、支部の詳細は約十分後に再発信される。全隊員は明日の2000時までに各自の配置に就き待機するように。各自の健闘を祈る」
ハヤブサからの連絡は切れ、画面には日本地図と共に中国の進軍してくるルートとルネサンスの配置場所が描かれていた。
流騎たちのスペースは広島のリベリオン部隊と一緒に山口MBS支部に集合し油谷湾で待機とのことであった。
流騎達の間の沈黙は続き、綾夏が先に脱力したかのようにソファの上で腰を抜かしていた。
「そ、そんな……。ご、五十万………」
「くそっ! なんだって中国が日本を攻める理由ってのはなんなんだ?」
刈谷が毒づいた。
「ああ、しかも俺が思うに今回の中国の策略にアメリカやロシアからの援助の類は一切双方にないだろうな。こんな思い切ったことに他国が賛成するわけないしな。
それに日本も自衛隊を解除、軍体制になったからな……。尚更他の国は様子見ってところだろうな。どうせ国連で協議したところで明日の2000時までにあんな爆弾発言しておいて前言撤去なんてことはないだろう」
流騎は幾らか冷静になって現実を受け止め始めた。対する静香もいつもの観察力で、
「しかし中国側の軍の情報がこうも即座にハヤブサ総司令の下に届いたというのが気になります。あの報道は確かに生放送でした、それなのにその報道と同時、あるいは以前から中国側の国家機密レベルの情報をいともたやすく入手なったとなれば既にこの情報の提供者はこの中国の動きを知っていたとなります。なのに、今日になってMBSに情報を提供し、緊急連絡として通達させるよう促すにはいささか遅すぎだと思うのですが」
刈谷は静香に続き、
「ってことは、中国側に裏切り者がいるのか、あるいはルネサンスの中に口止めさせていた奴がいるって事か……」
綾夏はやっと現実を見つめることができたのか、
「そうだね。一体誰がこんなことを陰で操ってるんだろう……」
桃は皆の空気が暗くなっているのに気付き、というより感受し
「でも、私達は闘うしかないんだよ。この国と私たち自身を守るためにね。それは誰が相手でも変わることはないよ。流騎も言ってたでしょ?」
「ああ、そうだな。いまさら考えても何も解決しないからな。だったら俺達が自分達の手で中国を止めるしかない」
流騎の眼には決意が漲り、それを見ていた刈谷も
「ああ、そうだな。俺達が止めるしかねぇんだよな」
綾夏、静香、桃の双眸にも決意の色が濃く現れ始めた。そんな時、スペースのメインモニターが点いた。
「シルキいるか?」
「はい、こちらシルキ。どうぞハヤブサ」
「シルキか。これよりお前達MBS第二広島支部の明日の防衛作戦2000の詳細について話す」
「わかりました。それでは録音開始します」
流騎は静香の方に頷き、静香はメインモニターの録音スイッチを押した。
世界は一体どうなるのか―――?
それは次話を通して明らかになっていきます。