第七十四話 パーティ開始
十八時、夕日が地平線に半分ほど隠れたとき、綾夏と刈谷は息を荒げながらスペースに駆け込んできた。
「「はぁーはぁーはぁー」」
二人揃って吐く息のテンポは同じであった。二人とも両膝に両手をつきながら肩で息をしていた。
「どうしたんだ二人そろって? そんなに急がなくても……」
流騎が尋ねようとしたとき、綾夏の顔は流騎の方を見上げその横で立っている桃にすばやく移動した。
「だ……だれ………?」
綾夏は声を吐く息と一緒に吐いた。
「ん、ああこいつは……」
流騎が桃のことを説明しようとしたとき、桃が、
「こんにちは。私、林果桃、桃って呼んでね綾夏ちゃん」
「ど、どうして私の名前を?」
綾夏は怪訝そうな顔を桃に向けた。
「えへへ、どうしてでしょう?」
桃は意地悪そうで天使のような笑顔で答えた。そしてゆっくりと視線を刈谷に移し、
「よろしくね秀明君」
「おい、萱場。な、なんなんだよこいつは?」
「だから、林果桃だってば」
桃は頬を膨らませ子供のような不機嫌な顔で答えた。もちろん八割以上は演技である。このような会話を続けさせるわけにもいかず、流騎が説明した。
「こいつは鳥取MBS本部のチルドレンでグレードは3のモモだ。今日のパーティーの準備を手伝ってもらってた」
「そうそう、私ははるばる流騎を助けに遠い遠い彼方から手伝いに来……」
「嘘付け、宮島からの帰りの途中だっただろ」
「ま、そんなところです」
「そうか、俺はてっきり萱場の彼女かと……」
「はっ? 何でそうなるんだよ……。俺と桃はいわば幼馴染って奴だなMBS内での」
「そ、そうなんだー。あー、よかった……」
綾夏は安堵したようにへなへなとスペースの入り口からソファに座り込んだ。
そんな綾夏の姿を見ながら桃はまた悪魔のようで天使のような笑みを浮かべた。
「なんか言ったか綾夏?」
流騎は綾夏に声を掛けたが、
「えっ!? う、ううん、な、なんでもないよ……」
綾夏は動揺したがなんとか誤魔化したが、桃には綾夏の動揺の正体がわかっていた。
そして刈谷の呼吸が落ち着き始めたころ静香も現れた。静香はスペースに入り桃の姿を捉え、
「桃!?」
珍しく見る静香の驚きの顔が一瞬見えた。
「あっ、静香久しぶり」
「な、なんで?」
「ちょっと野暮用があって、それに今日のパーティーの準備手伝ってたの。ちょうど近くにいたからね」
「そ、そう」
静香は驚きと嬉しさの両方が言葉の中に混じり、口調は変わらずとも静香の顔が普段より若干ほころんでいることに刈谷は気付いた。
「さあさあ、全員そろったことだし始めるか。温かいものはないけど、萎れる前に食べちゃわないとな」
流騎は早速パーティーを始めることにした。
「とりあえずは乾杯するから全員飲み物を取ってくれ」
流騎は既に右手にジュースの入ったコップを持ち、他の四人も諸々の飲料を手に取った。
「それじゃ、まあ、ここの隊長として言う。よく今日まで頑張った、その成果を五日後の十月三日に存分に発揮してくれ。この国の未来のため、俺達自身のために、乾杯」
「「乾杯」」
そしてそれから一時間もの間、五人は仲良く談笑したり個別に話し合ったりした。その風景は普段の高校生達が友人と楽しく過ごしているに過ぎなかったが、この場にいる五人にとっては貴重で最も楽しい時間として脳に刻まれていた。
桃は知り合いでなかった刈谷や綾夏とすぐさま仲良くなり、互いに笑いながら話をしていた。それを見ていた流騎と静香は、
「桃もだいぶ慣れてきたみたいだな」
「ええ、そうですね」
静香は桃の友人としてどこか嬉しげに答えていた。
そんなパーティーも山場を迎え、皆が和やかな雰囲気に包まれたとき、スペース内の警報が鳴った。
「!!」
チルドレンの五人はすぐさまスペースの中央に位置するメインモニターに顔を向けた。するとメインモニターの電源が入り、緊急連絡という文字が大きな赤色で点滅し、音声が五秒ほど繰り返された、
「緊急連絡、緊急連絡。緊急連絡、緊急連絡」
音声が切れたと思った次の瞬間、モニターの画面は切り替わり、MBS鳥取本部総司令のハヤブサの顔が映し出され、
「MBS隊員ないしルネサンス隊員諸君、緊急を要する事態が発生した」
スペース内に緊張感が空気となり張り詰めた。