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燃えた夏  作者: Karyu
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第七十三話 デートパニック??


 少し時間をさかのぼり午後四時半。綾夏と刈谷は昼前に桃と流騎のいたゲーセンにきていた。綾夏は懐から三千円取り出しゲーム用のコインと換金しその半分を刈谷に渡した。


「はい刈谷くん、思いっきり遊んで」


「いや、でもいいのか?」


「いいからっ!」


「わ、わかったっ!」


 綾夏の剣幕は未だに治まらず、ますます険悪になっていくようであった。刈谷は綾夏から逃げるように最寄のレーシングゲームにむかい、綾夏はボクシングゲームをやりにいった。


 綾夏は「ストレス発散、憎い相手をとことん殴り倒せ!」とサブタイのかかれたボクシングゲームマシンにコインを投入し、ゲーム用のグローブを装着した。このゲームは画面に顔無しの人物が現れプレーヤーが画面前に設置されたクッションにパンチを繰り出すと画面の中の人物が段々と小さくなっていくというゲームである。見ている側としてはただただつまらないものだがプレーヤーからしてみれば自分の打撃の強さによって小さくなっていくコンピューターを見るのは精神的ストレスを発散されるということでマイナーながらも人気のあるゲームであった。


 そのゲームを綾夏は二十回分プレイし、一時間たった頃にはいつもの穏やかな表情に戻っていた。その顔に安心感を一時間ぶりに覚えた刈谷は安堵して綾夏に話しかけた。


「満足したか、木宮さん?」


「うん、私なんで怒ってたのかな?」


「いや、俺に聞かれてもな……」


「まあ、いいや。なんか心すっきりしたー」


「そうか、それはいいんだがもうそろそろ時間が……」


「あ、ほんとだっ! 早く行こっ」


「あ、ああ」


 綾夏と刈谷はすかさずゲーセンを出たが、今まで遊んできたゲームのすべてで刈谷と綾夏はハイスコアを出し続けたのだった。それを一日中受付にいた店員は、


「最近の高校生はすごいな……」





 流騎と桃がスペースでパーティーの準備を終え、綾夏と刈谷がスペースに駆け足で向かっている最中、一人の少女は和服で体を包み畳の上で正座していた。


 その少女の名は静香。淑やかな紫の和服を着込み、髪を結った姿はとても高校生には見えず幾らか年上に見えた。


 静香は燃えて輝く夕日を眺めながら、


『最近日も早くなりましたね……』


 などと思いながら今ではもう使われてはいない影時計と暦時計を見比べ、立ち上がった。そして滑らかな足取りで廊下を進み、ある部屋の襖を開け中に入った。


 襖の中は洋風の構造が成されており、一種の違和感が感じられた。しかし、そのことなど気にも留めず静香は着物なのか浴衣なのかわからない中途半端な和服のまま中に入った。


 そして箪笥と思しき家具の前で着替え始めた。静香の肌は顔と同じく白鳳のように白く、清らかであった。そして純情を思わせるような服に着替えた。


 全身を清冽な白で覆い、帽子も靴下までもが白かった。着替えに要した時間は十秒足らず、それは神速ともいえる速さであった。そして静香は必要な携帯品を同じく白いポシェットに入れ部屋を出た。


 その身のこなしに無駄はなく、触れてはいけないような感覚に陥るほどまでの動きを静香はこなしていた。そう、この家の中では静香はそうしてきた、いやそうしなければいけなかったのである。


 玄関に向かう廊下の途中で侍女が付き添い玄関に着くころまでには五人もの侍女が静香の後ろと前に一人の紳士がついていた。そして、靴を履き玄関から出ると三十メートルほど離れた門まで続く砂利道の左右にずらりと侍女たちが整列し目を床に向け、


「いってらっしゃいませ」


 といっせいに声を揃えるだけであった。


 現代では滅多に見ることのないこの環境に静香は驚きもせず、慣れた動きで門の前に止められた車まで歩いていった。そして運転手と思しき人物に扉が開けられ静香は無駄のない動きで乗り込んだ。


 車は軽快なエンジン音を上げ鳳欄高校まで続く夕日に焼かれている道路を進んでいった。





 時刻は十八時十分前、流騎と桃はパーティーの準備をすっかり終え、皆が集まるまでソファの上に座っていた。窓の外では燃え滾る紅の夕日が空を橙に染め完全なる主役を演じていた。


 桃は流騎のことをじーと見つめ、瞬きをしたのかもわからないほど目を見開いていた。


「な、なんだよ桃。俺の顔になんかついてるか?」


「ううん、皆早く来ないかなーって」


「っていうか、お前綾夏とか刈谷のこと知らないだろ」


「うん、さっきまでは。でも今だと知ってる」


「はぁ……。だから俺のこと見てたわけか……」


「そう」


「終わったか……?」


「もうちょっと……今ちょうど流騎が綾夏ちゃんのはだ……」


「そ、それ以上は言うな!」


 桃は舌の先端を唇の間から出し、人を小ばかにしたときのような笑みを浮かべた。その顔を深紅の夕陽で染められながら。



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