第七十一話 前夜祭準備
モモの本名は林果桃。流騎と同じく鳥取MBS本部の環境系を任されている部署の隊員でグレードは3。流騎には力的にはだいぶ劣るが、あるモモの特殊な能力の為に流騎は桃に模擬戦ですらも勝った試しがなかった。背は165cm強、大人しくしていれば間違いなく道を歩いているだけでスカウトされるの間違い無しの程の顔立ちをしていた。
桃は実戦では実力を発揮するのだが、ある事情により桃は他の隊員達と距離を置いており、その事情により他人からも距離を置かれるようになっていた。しかし、流騎と静香とは小さな頃から一緒にMBSで修行を積んでいたため仲はよく、唯一心を開くことのできる人物であった。しかし流騎は静香とは今まで面識はなかったので同じ鳥取MBS本部でも会うこともなかったので流騎は静香の名前を桃から聞いたことはあったが実際に同じクラスに居るということは知らなかったのであった。今回桃は任務で宮島に来ていたのだがその任務も終わり、その帰りに流騎の連絡があり急遽来ることにしたのだった。
そうして流騎は桃に引っ張られながらも広島市唯一のデパート街、広島セントラルに着いた。人込みの中に入るとさすがに若者といっても大学生ぐらいの人も多く案外流騎たちは目立ちもしなかった。
『なるほど、桃が俺にこの格好をさせた理由がわかったな。そういえば未だに桃は対人恐怖症だったな……。それでもこうやって外出しようとするんだから強くなったよな……』
流騎は桃の意図とその桃の決断に少し心打たれ、なるべく今日のデートは桃の期待に応えられるようにしたいと決心した。
「それで、まずはどこに行くんだ?」
流騎は桃に聞くと、
「そうだねー、桃は折角広島に来たんだから広島やきがたべたーい。広島風お好み焼きがいいー」
「朝飯まだだったのか?」
「ううん、でもそうだね。それじゃゲーセンいこっ!」
「おいおい、朝からゲーセンかよ……。まあ、いっか」
桃と流騎は近くのデパートのゲーセンに行った。それから八時から昼の間までずーと流騎は桃のシューティングゲームにつき合わされた。桃の射撃の腕前は流騎のを軽く凌駕し圧倒的スコアを連発しまくった。
周りには否応無しに人だかりができ、桃が新スコアを打ち出すたびに周りから歓声が上がった。
流騎自身ただただ桃の華麗なる銃捌きに傍で見とれるだけであった。そして、桃は充分に満足したのか、
「流騎、いこっ」
桃は流騎の腕にしがみつきながらデパートから出た。その間、周りからの視線が二人に集中していた。二人とも目深に帽子を被っているため、正体がばれることはなかったが周りからは明らかに高校生だと言うことがわかってしまっていた。
しかし、それをよそに桃と流騎はお好み焼き屋に入っていった。そして注文を終えて運ばれてきた生地や具を鉄板の上で焼き始めた。俺もそんなにお好み焼きを作ったり食べたことがなかったので適当に焼いていたら、難なくおいしく食べれたが桃の奴は手馴れているのか見事なお好み焼きを作り上げていた。
「すごいな桃、器用で」
「流騎が不器用なだけー」
などと言いながら可愛らしい顔で箆を使い器用にお好み焼きを頬ぶっていた。そして食事も終わり時間は一時となった。
「そろそろ戻るか、準備とかしないといけないし。なぁ桃?」
「うん、そうだね。でも流騎さ、準備って言うけど準備するものはそろってるの?」
「あっ……」
「やっぱり、それじゃ今から買出しに行こう」
「ああ、わかった」
そして桃と流騎は近くのデパートに入り、大量の食料と飲料水を購入した。その中には、ポテチ、ビスケット、煎餅、チーズ、グミ、アイス、から揚げ、サラダステッキ、手巻き寿司に、おにぎり、炭酸飲料、お茶、ジュースなどなど手軽食べれる軽食を購入していった。
そしてそのすべては流騎が持つことになった。重量的には十キロを越すのだが流騎は平然とした顔でそれを両手に担いでいた。むしろ袋の方が先に悲鳴をあげそうなほど、大量の食料が袋に詰め込まれていた。
そんな格好で街中を恋人らしく歩く二人を遠くから眺めていた人物が一人いた。それは綾夏であった。
綾夏は未来との約束を終え流騎のパーティーの手伝いに向かおうとしていた所、たまたま流騎と桃が楽しく並びあって歩いている姿を目撃したのだ。綾夏は流騎が大量に詰められた袋をみてパーティー用の食料だということは理解できたが、その横で楽しく馴れ合っている少女の存在理由についてまでは理解できなかった。
そして綾夏は知らず知らずのうちに二人の後を付いていった。その行為は他人から見てもストーカーだと間違えられるような動きで、じーと二人の背中をみながら電柱や看板の後ろの回り込んだりといった怪しげな行動を繰り広げていた。
そんな綾夏を偶然CDショップから眺めていた刈谷は、
『木宮さん、一体なにやってんだ? あんなことしてたら捕まるんじゃないのか?』
と思っていた矢先、綾夏の背後には警官が立っていた。
「君、一体何をしているのかね?」
警官が綾夏の背後から尋ね、驚いた綾夏は後ろに振り返りそのままバランスを崩し背後の電柱に頭をぶつけた。
「いたっ……。う、うぅぅぅ…………」
あまりの痛さか綾夏は泣き出してしまった。警官も自分のせいで泣かされているのかと周囲の視線が痛く、困惑していた。
刈谷は仕方がなしにCDショップを出て綾夏のところに向かった。
またなにか一波乱ありそうでなさそうな、というわけで次回お楽しみに^^