第六十九話 前前夜祭
時は九月二十八日、東京上京三日前、スペースにていつもの四人が集まり、ソファに腰を下ろしていた。
「さてと、残るところ後三日になったわけだけど皆よくやった。俺もよくやった。ということで明日は息抜きをすることにした」
流騎が提案をし、綾夏は
「やったー! お休みだー」
「ふぅ、やっとゆっくり休めるのか……。長かったな……」
刈谷は溜息交じりに言いながらも安堵感を感じたのか自分の背をソファに任せ深く座った。
「そこでなんだが明日は各自自由行動だ。だが夕方にはここに戻ってきて決戦前の前夜祭をしようと思ってる」
「さんせーい」
「ふん、仕方がねぇな」
刈谷も綾夏も言っている言葉は違えども意思は二人とも賛成のようである。
「倉木さんはどうするんだ?」
刈谷はこの二週間ほど静香とタッグを組んでいたせいかお互いの気持ちを察するほどまで絆を深めていた。
「はい……私も賛成です。私も少し疲れましたし明日はゆっくりと療養させてもらいます」
「そうか。いいな? 時間は明日の夕方六時だ。俺はそれまでに準備とかしておくから三人ともゆっくり休んで来い」
流騎はそう言い、
「それじゃ、また明日な。あ、そうだ、今日を持って合宿は終了だ。各自自宅に帰宅あるいはここにいてもいいが明日の朝以降は俺が準備とかで忙しいから出て行ってもらうことになるけどな」
「うん、わかった。それじゃまた明日ね流騎くん。刈谷くんと静香ちゃんもまた明日ね」
綾夏は立ち上がり自分のトランクを取り出し、携帯を取り出して迎えを呼ぶために連絡を取っていた。
「それじゃ、俺も帰るか……。それじゃな萱場。せいぜいちゃんと準備しとけよ」
刈谷は冗談交じりに笑い、鞄を背中の右肩に担ぎスペースから一番先に出て行った。
「それでは、私も失礼します」
「お、そうか。でも家に連絡とかしなくてもいいのか?」
「ええ。夜ですから影を通って帰ります」
「そうか、そうだったな静香はそういった芸当が出来るんだったよな」
「ええ、それでは隊長。それと綾夏さんまた明日」
「うん、じゃあね静香ちゃん」
静香は自分のトランクを取り出しスペース内にある影に溶け込んでいった。一瞬にして静香、トランク諸共掻き消えた。
「うわー、すごいね静香ちゃん。私もあんなことできたらいいのにな……」
「まあ、静香は結構異例なチルドレンだからな、俺もそうだが。それに静香の場合はかなりああ見えて努力家だからな、あの技を使えるのも五年近くは掛かってたからな」
「へぇ〜、そうなんだ……。すごいなー。あ、それじゃ流騎くんバイバイ。明日手伝えないけど頑張って」
「ああ、じゃあな」
そして綾夏も自分のトランクを持ってスペースから出て行き、流騎は綾夏が校門から車に乗るまでをスペースの窓から見送っていた。綾夏が無事に車を乗って出て行ったのを見て、
「さてと、俺も寝るかな……」
流騎は毛布を取り出し、ソファの上におき、シャワーを浴びにいった。
流騎はシャワーにうたれながら色々と考え事に耽っていた。
『ふぅ、なんとか今日で課題はクリアすることができたな……。しかしこの一ヶ月間、この国が動き出そうとしているのに俺達の周辺では危険視するほどの出来事は無かった。ゴウキとの戦闘は奴の独断で行われたことだ、それに訓練もなんの隔たりも無く終わった。いくらMBSとリベリオンが休戦状態だといってもこの静寂な平和はなんだ? 嫌な予感がする……。
それに、本当にルネサンスはこの国を乗っ取ろうとしているのか? 実際に乗っ取る気でいても直に手を下そうとはしていない。特にMBSの司令官たちはチルドレンでもないいわば政府の人間だ……。
まあ、でも実際この国の情勢は良くも悪くも無いからな。いやむしろよくなったほうかもな、あのクーデター事件以降は……。そんなに過去の記憶は無いが昔の資料を読んでみると今は発展しつつあるな。それにしても明日はどうすっかな……。俺がパーティーって柄じゃないけど、仕方が無いな……モモに頼むとするか。ちょうどあいつも広島に来てるはずだしな……』
流騎は約十分ものシャワーを浴び終え、ジャージのズボンを履いて、上半身にタオルを掛けながらスペースの筋トレルームに設置された浴室から出た。そしてそのまま自分の携帯を取り出し、電話帳を開きその中からモモと書かれた名前を押した。
流騎は携帯を耳に当て向こう側が電話を取るまで待ち、
「モモ、今大丈夫か?」
「あ、シルキ? どうしたの?」
流騎の携帯の向こう側からは可愛らしい少女の声が返ってきた。
「明日暇か?」
「うーん、どうだろう。今ちょっと忙しいからなー、でも大丈夫だよ。どうして?」
「ん? ああ。今俺が二つめの支部任されてること知ってるだろ?」
「うん、シズカも行ってる所でしょ?」
「ああ、それで東京に行く前に前夜祭みたいなパーティーすることにしたんだが、俺が準備しとくって言ったんだ。でも俺は考えてみたらこういったことしたことなかったからな、困ってるんだ。それでモモに手伝ってもらおうと」
「あ、そうなんだ。わかった、オッケーだよ。でも条件がいくつかあるけどね」
モモの携帯の向こうで嬉しそうに笑った気配が伝わってきた。
シルキたちも少しゆとりを持ちながらも新しい人物の登場かも?
ここ最近ビワやクキョウの周りで新キャラが多かったですが当分は無視してもらってかまいません。