第六十四話 流騎vs刈谷 刹那
「オロチ、突っこめ!」
刈谷が立ち直り、怒声と共にオロチは残った四頭のうちの二頭が流騎目掛けて突進していった。何の迷いも無く二頭のオロチは一直線に流騎まで伸びていった。流騎と刈谷の間には十メートルほどの距離があったが二頭のオロチの頸部は十メートル以上まで刈谷の背後の空間から伸びていた。
流騎は鋭い反射神経を駆使してこの突進を水平に交わし自分の真横を通り過ぎていくオロチの二頭の長い頸部を嵐龍と水龍を操り噛み砕いた。ガラガラと突進してきた二頭の頸部は崩れ、ただの岩の断片となった。その断片を見ながら流騎は、
「どうやら勝負あったみたいだな、刈谷。残り二頭だけじゃこの俺には勝てないとは思うが?」
「そんなこと終わるまでわからねぇだろうが!」
「往生際が悪いな。少しはまともな考察力と判断力がついたと思ったけどな。ならこれで最後にしてやるよ。嵐龍、水龍、残りのオロチを噛み砕け」
無言のまま流騎の嵐龍と水龍は刈谷の残りの二頭のオロチ目掛けて大きな牙を並べた顎が刈谷諸共噛み砕くほどの勢いで突進していった。そのとき刈谷のオロチの眼が赤く光った。それと共に刈谷は俄かな笑みと犬歯ガ輝いた。
ある異変に気付いたのか流騎は、
「嵐龍、水龍、戻れっ!」
しかし、流騎の命令むなしく、刈谷が一瞬先に動いていた、
「オロチ、我が敵に永遠の儚さを浴びせろ石化眼光!」
刈谷が操る残り二頭のオロチはその赤く輝く瞳を見開き、両の口から純白の閃光を放ち迫り来る流騎の嵐龍と水龍に浴びせた。
その灼熱の閃光が迸った後、嵐龍と水龍は空中で停止していた。両の龍の口は大きく開き刈谷の手前で停止していた。
二匹の龍は巨大な石のオブジェと化していた。躍動感のある胴部の括れ、鋭く規則正しく並んだ牙、敵を捉えたとばかりに訴えかける瞳、風を切り進んでいった背毛のすべてがそのまま石と化していたのだ。
刈谷は流騎が次の行動に移る前にオロチを地面につかせその二頭の頭部にのっかり流騎目掛けて突進していった。オロチは大蛇に相応しく地面を滑るように滑、一瞬にして流騎との間合いを詰めた。虚を突かれた流騎は、
「くっ!」
と後方に跳躍しようとしたがその前に刈谷が自分の背後から剣を取り出した
「もうまにあわねぇぜ萱場! 草薙剣!」
刈谷は横一文字に剣を薙ぎ、後ろに跳躍していた流騎の胴部に命中した。流騎がその衝撃に飛ばされ地面に背中から落ちるときにバン! とスーツ内部の空気爆発音が校庭に響いた。
刈谷は勝ち誇ったという笑みを犬歯と共に顔に浮かべた。しかし、そこで集中力が切れたのか刈谷も地面に前から倒れた。倒れる間に刈谷の二頭のオロチと刈谷の背後に生えていたヤマタノオロチの尾が半分切れた状態のままバラバラに砕け散り、刈谷の背中に生み出された時限という名の空間も閉じた。そして刈谷が地面に倒れたのと同時にスーツの空気が音を立てた。
一方の綾夏と静香の方も決着がつきそうなところまで戦闘はヒートアップしていた。二人とも息を切らしながら極限までに高まっていた神経と神経が両者の間で見えない火花をあげていた。
『ふぅ、さすが静香ちゃん……。強い……。こうなったらあの技を使うしか……』
綾夏は泥まみれになった自分の右手を見つめ神経を集中させた。一方の静香も、
『このまま長引けば私のほうが体力負けしてしまいますね……。ならあの技を使いますか。何もこの戦闘に勝つには綾夏さんを倒せばいいとは限りませんしね』
静香は両目を閉じ精神統一を始め、術を唱え始めた。
「我が右手に宿りし不死鳥よ飛び立て、火の鳥・火焔・鳳凰の火舞矢!」
「第四階位、天の馬ユニサス!」
二人は同時に技を発動させた。
綾夏の右手には横幅四メートルにも及ぶ火の弓が現れ、左手を右手に添えた途端に弓の先端が翼となり巨大な火の鳥が静香目掛けて飛んでいった。
静香は空に手を掲げ雲の間から垣間見える光の帯が静香を照らしペガサスの両翼を持ち、ユニコーンの一角を有したユニサスが白く輝く毛並みを優雅に靡かせ、空間をその優美な四肢で奔り、舞い降りた。そのまま角を前に掲げ綾夏目掛けて突進していった。
燃え盛る綾夏の火の鳥は静香の脇腹を片方の翼で捕らえ、静香のユニサスの一角は綾夏の胴部を弾き飛ばした。そして両者共のスーツから音が鳴り、引き分けとなった。
綾夏と静香はお互いを見つめあい柔らかな笑みを互いに交換し合い、楽しげな笑い声をあげながら二人一緒に校庭のその場に座り込んでいた。静香のユニサスはそのまま天に昇って消え、綾夏の火の鳥は空を凪ぎながら焼滅した。
流騎と刈谷の対決終結。
綾夏と静香の対決も簡潔ながら書かせていただきました。
いかがでしたでしょうか?^^