第六十一話 新技考案(2)
新技考案中・刈谷の場合
『ふぅ、サンドピッチには着いたもののまだおれ自身の力量はわからないからな……。土塊でどれくらい土を纏えるか試してみるか。今までは片手五十キロ分が限度だったからな。一体あのケースでどれくらい上達したんだろうな……』
刈谷はそう思い思いっきり良く陸上競技の走り幅跳び用のサンドピッチに両拳を突っ込み、
「土塊!」
と叫び砂の中から両拳を抜き取るとその周りには運動会の大玉ころがし級分の質量の砂が刈谷の手首から先にはまとわりついていた。完璧な級の形をした特大サイズの砂のグローブは当の本人である刈谷自身を圧倒させていた。
「なっ……!?」
重さにして片手二百キロもの砂の球はその重さを感じさせないような鋭敏な動きを刈谷の両腕が動くたびに披露していた。
『こりゃ、すげぇな……。なるほど、あの倉木さんも自分の力を使ったときに一瞬動揺していたわけがわかった気がするな。まるで自分の力じゃないように感じるからな……』
この時刈谷は自分の観察力の向上にまったく気付いてはいなかった。
『よし、これなら結構いい技が出来るかも知れねぇな。それにしてもどういったのにするかな……。出来れば威力の高いのを重視したのが俺には一番あってるからな。土龍の強化版が一番理想的だな……。その為には……』
刈谷は両手の土塊を解除してそれを球体のままにしておき、その球のうちの一つに腰をかけて考え事にまた耽った。
新技考案中・綾夏の場合
『うーん……どうしよう? やっぱりさっき考えたとおりファイアー・アローを改良して、でもどんな風がいいかな……。やっぱり必殺技って言うんだから外見もかっこよくなきゃだめかな? 良く漫画とかで見る感じのようなのがいいのかな? うーん……炎竜に出てきてもらうのもなんだし……』
などと綾夏は焼却炉のあたりで考え込んでいたとき、木々の中から小鳥のさえずりと共に一羽の赤い鳥が飛び立っていった。それに見とれていた綾夏は、
「これだっ!」
新技考案中・静香の場合
『限られたスペース内での訓練といってしまいましたがいくらなんでも校内での力の作用は避けた方がいいですね。それなら屋上に行きましょう』
静香は思考の中でも丁寧な言葉遣いで自分を促し、屋上まで足を運んだ。屋上では以前刈谷と流騎が戦闘した荒々しい痕が一目みてわかった。不可思議な角度に湾曲したコンクリート、拳のような形をしたコンクリートの塊がオブジェのように置かれ、屋上は散々たる光景であった。
「ふぅ……」
静香は小さな溜息をつき、あまり被害の少ない屋上に出る扉から三十メートルほど離れた場所まで歩いた。
『さて、ここまで力がついたという事はやはりあのCNCは効果があるということですね。いくら吐き戻したくなるほどの味というより刺激だったとはいえ……。ですがこれならあの技を完成できそうですね』
静香は両目を細め神経を集中させた。すると静香の周りでは何か黒い光と白い光の帯が絡まったり分離したりしながら静香の背後の方に集まっていった。
新技考案中・流騎の場合
「うーん」
流騎は鳳欄高校専用のプールに向かう間に大きく背伸びをした。
『さーて、どうするかな。いくら俺が刈谷より実力は高いって言っても戦うとなると力負けする可能性があるからな。俺も大技の一つはこの機会に作っておかないといけないな』
流騎は地面を向き、手頃な大きさの石を蹴りながらプールの方まで歩を進めていた。そしてプールに着く十メートル手前で思いっきり小石を蹴ったとき、流騎のスーツの長ズボンから左足首に巻きついていた包帯に気付いた。
『そういえば、カゲフミのおっさんが言ってたな。この包帯を取ったら風の力が使えるようになるって……』
流騎は即座にその薄汚れて少し擦り切れた包帯を足首から取った。すると奇妙な印が浮かび上がった。黒い刺青で何か宗教の紋様みたいな印が刻まれてはいたがその印は包帯を取ったら緑色に輝きゆっくりと体の中に溶け込んでいった。
どくんっ!
「ぐっ!」
左足首の印が体の中に溶け込んだ直後、流騎は一瞬体全体が唸ったような感覚に陥った。そしてその後何事もなく流騎は自分の身体に触れ以上がないか確認したが、外見上特に変わった部分は見られなかった。
『な、なんだったんだ、今のは?でも、何かからだの奥から漲ってくるものがある。本当に風が使えるようになったのか?試してみる必要があるな』
流騎はプールの前まで着て、飛び込みブロックの上に立ちプールの水に向かって力を使ってみた。すると無風状態であったプールの周りに風が発生し渦を巻くかのように回り始めた。それに呼応するようにプール内の水もその風の回る方向に渦を巻き始めた。そして流騎が意識を集中させ力の作用を強めたら風は勢いを増し、小型の台風が生じ、プールの水が風と共に巻き上がっていった。そして、流騎が力を弱めると共に風はやみ、空中に巻き上げられて水もゆっくりとプールの中におさまった。
『なるほど、カゲフミのおっさんの言っていたことは正しかったな。これなら結構な大技が出来そうだな』
流騎はそのまま飛び込みブロックの上に座り込み、大技のことについて没頭し始めた。
スポット当ててみました。でも第三者視点のままにします。わかりませんが、いつかまた変わると思いますけど。勝手極まりない作者をどうぞ許してやってください。