第五十五話 対ゴウキ(3)
「大丈夫ですか、リーダー?」
「ああ、悪いな静香」
「いえ、これも任務の内ですから」
「はは。こりゃ手厳しいな」
流騎は静香にも手を借り立ち上がった。
「こうなったら四人で攻めるしかなさそうだな」
「ええ……!」
静香と流騎は左右に分かれた。
「はは。四対一か……それでも僕はかまわないよ、むしろそっちのほうが僕はやりやすいからね。モルト・テンポ・ルバート・ストリングス、クインテット!」
ゴウキは隠し持っていた鋼のチェーンを四つ取り出し流騎達四人目掛けて放った。チェーンは無造作に辺りに飛び出したかと思うと徐々に四人に迫っていき追い込むように攻撃し始めた。
流騎はヒエロ・ランスで、綾夏はフレイムレイピアで、刈谷は土塊で、静香はエイン・シャッテンで自分の身を守っていた。ゴウキの攻撃はすさまじく段々と四人は追い詰められていった。
「おい! くそっ、このままじゃやばいぞ!」
刈谷は他の三人を急かしたてたがまだ余裕の表情を浮かべていた。
「ああ、そろそろいいだろ。刈谷、行くぞっ!」
「おう!」
刈谷はゴウキのチェーンを思いっきり土塊で弾き飛ばして、両拳をまたも地面にもぐらせた。
「出でよ、大地の盾!」
すると、刈谷達四人の前方に高さ三メートル幅十メートルにも及ぶ土の壁が地面から盛りあがった。そしてそれに続くかのように流騎はその壁を一躍で飛び越え自分のヒエロ・ランスをゴウキ目掛けて投げた。
キーーーーン……!!
とゴウキは四本のチェーンを引き戻し防いだが、それ以降動かなくなった。
「あれ? 動かないよ」
ゴウキは少し信じられなさそうな表情を浮かべたがすぐまた冷静になった。
「それは光針影止のせいです」
静香が冷静にゴウキに言い放った。
「光針影止?」
ゴウキは全腕力を使って空中で静止したチェーンを動かそうとしたがびくともしなかった。
「ええ、この技は物体の影に無数の光の針を刺すことでその物体を動けなくする技です」
静香は淡々と自分の技をゴウキに説明した。そう、綾夏の時間稼ぎのために……。
良く目を凝らして見てみるとゴウキのチェーンの影の中には光り輝く無数の細い針のようなものがあった。
そしていつの間にか刈谷の作り出した壁は消え、その後ろ側では綾夏が弓道の構えのポーズをとっていた。
「わが拳よ炎となりて我が弓矢となれ! ファイアーアロー!」
綾夏のファイアーアローは一直線に放たれゴウキ目掛けて飛んでいき、ゴウキの胸を射抜き、焼き尽くした。
「!?」
ゴウキは避けれたはずの攻撃を避けず、チェーンを握り締めたまま身を燃やした。全焼する顔には柔らかな笑みを浮かべ、
「に、にいさ……ん………」
ゴウキは膝から倒れ右手でチェーンを掴もうとしたが外しそのまま顔の方で倒れ、絶命した。
そしてゴウキが倒れたのと同時に夕日が完全に沈み、影のなくなったゴウキのチェーンは空中から落ち、ジャラジャラと音を鳴らしながらまだ燃え続けるゴウキの体の上に落ちた。
「こいつがあのシコンの元右腕の男か……」
刈谷はゴウキの死体を見下ろしながらボソッと言った。
「ああ。この右手の傷もこいつにつけられた……こいつの鎖によって」
「けど、本当にこれでよかったのかな? いくら敵って言っても私達とそんなに年は変わらないのに……」
綾夏は少し罪悪感のこもった風に言った。
「ええ。でもこれでよかったのだと私は思います。顔を見ればわかります」
静香は言い、
「ああ。これでこいつも帰る場所ができたからな。それじゃ後片付けをしなきゃならないな、ほら刈谷とっとと穴を作れ」
「俺に命令するな!」
刈谷は反抗しながらも人一人が入れるぐらいの穴を作り出した。その中に流騎はゴウキを横たわし、ゴウキのチェーンを一緒に埋めた。
『ゴウキ、安らかに眠ってくれ。悪いがお前の慕うシコンはこの俺の手で倒す。あいつもお前同様俺にとっちゃ一種のけじめなんでね』
流騎はそう胸に思いながらゴウキを埋めたあたりを一瞥し残りの三人と共にスペースに向かって歩き出した。その帰り道、流騎はできるだけ、特に綾夏と刈谷(初めての実戦で)の心境を穏やかにするために
「そういえば綾夏、さっきの技は?」
「ああ、うん。フレイムレイピアっていうんだ、昨日思いついたんだけどファイアーアローと似た感じでつくれちゃった」
「そっか。それに刈谷、お前も技の種類が増えて俺は嬉しい限りだ」
「うるせぇな……。おまえに言われなくても俺も色々考えてんだよ」
「そうか、そうか。それと静香、ありがとな。面倒な役やらしちゃって」
「いいえ、これも任務ですから。それに、私はこういう役得嫌いではありませんし」
「でも静香ちゃんの技ってすごいよね」
綾夏は静香のほうに近寄りながら賞賛の声をあげた。
「いいえ、そんなことはありません。私の技はほとんどが補助系ですし……」
「それでも、すごい威力だよ」
「あ、ありがとうございます」
静香は軽く頬を朱色に染めたがあたりは暗く誰にも見られることはなかった。しかし静香の心境は穏やかではなかった、なぜなら自分の行動でここまで賞賛されたのは初めてだったからである。
四人が再びスペースに戻る頃、辺りは微かに残った地平線の向こうに沈んだ夕陽が残した紅光が空を紫紅の色で染めていた。
ゴウキとの戦い、壮絶でした。歪んだ兄弟愛、それとも素直すぎる兄への愛というものを書いてみたかった感でゴウキには悪いですがこういう結末に終わらせていただきました。