第四話 鳳欄高校 転入(4)
そして、その夜、流騎の眠るアパートの地下でなにやら5,6人の影が暗闇の中、密談をしていた。
「おい、手はずは整っているのだろうな」
「ああ、なに、あんな小僧なんぞにわれらが負けるはずがない」
「しかし、やつはグレード10だぞ。侮ると、痛い目を見るのはお前のほうだ」
「心配はない、それにわれらには切り札がある」
「切り札?それは、初耳だな」
「何、こちらもこちらでいろいろとあるのでな」
「まあ、良い。しかし、失敗したときはわかっているのだな」
「ああ、責任は取るさ」
「よし、ではぬかるなよ」
そして、二人の男はそれぞれ闇の中に消えた。
翌朝……。
「ふあああぁぁぁぁ」
大きなあくびとともに俺は起きた。
窓を開けると、昨日見た風景とは違い、太陽は空の上にあがり、町はとてもにぎやかだ。平和だ、何をとっても平和な風景だ。通行人皆が生き生きしている……。そして、俺は背広を着た中年や、自転車に乗っている主婦らしきおばさんや、幼稚園用のバスが走っているのが見えた。
「まてよ……。今、いったい何時だ?」
俺は、この部屋には時計がないのに気づき、携帯を取りだし時間を見た。
08:03
「…………。やべっ!」
5秒ほどの沈黙のあと、俺はすぐさま制服に着替え、冷蔵庫に入っていたりんごをつかみ、アパートを出た。確か、あの学校の始業時間は08:10分だったはず。早く、行かねば。しかし、このままじゃ遅刻は確実だな……。仕方がない、学校二日目で遅刻なんかしたら、なんていわれるか。特にあの未来って女にはな。
俺は、近くの角を曲がって、人目のつかないところで力を使った。
そして、俺はその角の家の塀にとびのり、屋根の上をつたって学校のほうへ向かった。屋根の上には、鳩やら猫がいたが、俺が近くを通り過ぎても身動き一つしないし、通行人も屋根の上を駆け抜ける俺の姿を見上げることもなかった。
まあ、それもそのはずだ。俺の能力を使って俺の体の周りを水素原子と酸素原子に分解し周りの空気と同じように溶け込み、見えなくなるからだ。
そして、学校の校門を飛び越え、俺は学校の中に入りトイレの個室の中で力を解いた。そして何食わぬ顔でクラスに向かった。そして、クラスの扉を開けたとたん、
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーーンゴーン
と、始業ベルが鳴った。
ふぅ。何とか、間に合ったか。と思ったのもつかの間。
「流騎くん、遅刻ね」
と、綾夏が俺の肩をたたき、なにやら笑みを浮かべ、黒板に俺の名前を遅刻者リストに加えた。
「え?何で、俺が遅刻になるんだよ。ちゃんと間に合ったじゃないか」
「だめだよ、流騎くん。ここの規則まだ読んでないでしょ。規則第4―32条生徒は〈全員始業ベルのなるまでに各々の机に着席してなければならない〉ということで、遅刻よ」
「分かったよ、じゃあ、ここの規則が書いてある説明書をくれ」
「いいよ。はい、これね」
と、チップが渡された。
「この中に入ってるってわけか。それじゃ拝見させてもらおうかね」
俺は、綾夏からチップを受け取り自分のPCを立ち上げチップの中身を見た。
「!」
俺は、言葉を失った。何と、その中には全部で213ページにも及ぶ規則が数限りなく並べられていた。本当にこれを全部読むのかよ……。くそ、なんて学校だ。
そして、学校は昨日と何ら変わりもなく過ぎていった。俺はその日、授業には目もくれないで規則を一日中読んだ。
そして、綾夏と二人きりになれるタイミングを待った。そして、最も今日平和であった原因は西園寺未来がいなかったことだ。
放課後、綾夏がクラス委員長ということで最後までクラスに残って作業を終わらせていた。俺は、しばしそれを見ながら、
「クラス委員長ってのは、そんなことまでやるのか?」
俺は聞いた。
「うん、まあね。私こういうことするの好きだし。みんなの手助けができるのがうれしいんだ」
「へぇー、俺なら務まりそうにないな。あ、そうそう、今日未来が来てなかったけど、どうかしたのか?」
「え?あ、うん。未来はね、毎週木曜日には休むんだ。なんか特別な活動に入っているってきいたけど」
「そっか、それならちょうどいい。綾夏、それが終わったら俺に付き合ってくれ」
「え?」
流騎、綾夏に急接近ですね。任務のためですけど……。