第四十一話 刈谷秀明(1)
俺はそのまま食堂に向かった。チャイムがちょうど鳴っていたから生徒の数はそれほど多くはなかった。俺はカレーパンと焼きそばパンを買い、そして牛乳を瓶毎買って屋上に向かった。
屋上に向かう途中に誰にもつかれないように注意を払いながら屋上に出るときのための非常階段を開けた。非常階段は屋上用に取り付けられていて屋上から逃げ遅れたりヘリコプターによって救出される時の為ように設備されていた。その為屋上にはヘリポートがあり、かなり広い。
屋上に出る扉まで階段を上ると扉の前にひとつの人影が見えた。刈谷がすでに扉の前で壁に寄りかかりながらおにぎりを口に頬っていた。何故刈谷が扉の前で待っていたのか不審に思うとセキュリティプログラムが扉の横に配置されていた。
「よう萱場、屋上に行けっつってもこれじゃ入れそうにねぇな。さすがの俺でもこれを壊すと後々面倒なことになるからな」
「その必要はないな」
俺はセキュリティカードと名付けた、政府から配布されたカードを取り出し、セキュリティプログラムに翳したらランプが赤から緑に変わった。
「おい、何でお前そんなの持ってるんだよ?」
「今からわかるさ。それ、開いたぞ。来ないのか?」
「行くさ」
俺と刈谷は扉をくぐり屋上に出た。外は風が靡いていたが心地のいいものだった。太陽が夏らしく鋭く照らしていた。屋上を囲っていた二重フェンスに寄りかかり俺はカレーパンを一口食べながら言った。
「刈谷おまえS系だったよな?能力はなんだ?」
「俺は良く知らねぇけど土が自由に扱えるな。その成分を操れるのかどうか知らないがコンクリートだって自由に扱える」
「そうか。だったら、ちょっとみしてくれよ。俺をコンクリートで殴れるくらいのコントロールは出来るだろ?」
「そんなことしたらお前が死ぬだろ」
「俺を甘く見てもらうと困るな。ドッジボールでも見ただろ?俺がお前より強いってことがな」
「てめぇ、言わせておけば。なら、喰らえっ!」
刈谷は両手を屋上のコンクリートの床の上に置き、その手の位置の一メートル程先からコンクリートが盛り上がり拳のような形を作り俺のほうに飛んできた。大きさにして大玉転がし用の大玉より一回りでかい。明らかに普通の人間なら殴られ、この屋上から弾き飛ばされ地面につくよりも先に即死するだろう。しかし俺はまだ死ぬわけにもいかないし増してや普通の人間でもない。
「水の守護神マーキュリー。われを守りたまえ。プロテクシオン・ロゥ」
術を唱えるや否や周りの水分が凝縮し始め俺をコンクリートの拳から防ぎ、受け止めた。
「なっ!?」
刈谷は混乱しきった顔で俺を見ていた。そして俺は水速転換を使い、刈谷の後ろを一瞬にしてとった。俺の姿を見失った刈谷はきょろきょろと周りを見ていたが、
「俺の勝ちだな、刈谷」
「!?」
刈谷は後ろに振り向き、俺と刈谷の顔が至近距離で迫った。
「これが俺の能力だ。水を扱える能力。それに風も扱えるらしいがまだ試したことはないけどな。それに今日はお前を俺の組織に勧誘しに来た。どうだその気はないか?」
俺は単刀直入に言った。刈谷は以前混乱していたが、
「お、お前なに言ってやがる?そんなこと急に言われて、はいオッケーですなんていえるわけねぇだろ?」
「まあ、そう怒るな。とりあえず飯の続きをするか」
俺は口にくわえたカレーパンを食べ終わり、牛乳を瓶から飲んで、焼きそばパンを食べ始めた。
「おい、萱場、とっとと続きを話せ。俺はもう落ち着いた」
「ああ、わかった。それで入る気はあるか?」
「それはまだわかんねぇな。一体そこはなんなんだ、それに何をするんだ?」
「ざっと説明すると、お前や俺のような能力を持つ人間のことをチルドレンという。お前もきっと聞かれただろう、この腐敗した世の中を生きていけれるかどうかということを……」
「ああ、もしかしてお前もそうなのか?」
「ああ、そうだ。それと俺たちのほかのチルドレン達は他の能力を使える。土、水、風の他、火、雷、森、闇、光がある。そして俺たちが誕生する理由はお前にこの能力を与えた人物、オリジナルという人物たちだが、はこの世の奇怪現象によって生まれた。様々な異常気象や地球温暖化傾向の今の世界で今まで現れたことのない生き物、病気、増してや人物までもが生まれ、生み出されている。それを秘密裏に処理するのが俺たちの組織だ。だが今はちょっと厄介な事情が絡んでるんだけどな、それに今の異常現象は自然だけが関与してない傾向に段々入ってきているからな」
「な、何でそんなことがわかるっ!?」
「お前が俺の昔にちょっと似てるからだよ。それでどうだ?今はここを拠点にして俺たちは活動してる。綾夏や静香も俺たちの組織の一員だ」
「なに?そうだったのか……。ちょっと考えさせてくれ……」
それから俺は五分ほど待つことにした……。その間に焼きそばパンと牛乳を食べ終えた。すると、
「萱場、俺は入る。お前を見てると何かと楽しそうだからな。俺はこの三年間こんな学校で終わるわけにはいかねぇ」
「そうか、そりゃよかった……。だが一応やらなきゃならない書類もあるけどいいか?」
「ああ、充分承知だ」
俺は軽い笑みを浮かばせ、刈谷に手を差し出した。すると萱場も自慢の犬歯を目立たせながら笑い、俺の手を思いっきり握り返した。すると陽射しが妙に柔らかに感じられた……。