第三十七話 球技大会(1)
「じょ、冗談だって綾夏。な、な?そうだろ静香?」
「私に振らないでください。リーダーのまいた種ですから」
「な!?」
流騎くんは静香ちゃんの突然の裏切りに驚いたのか少し、じゃなくてかなり間抜けた顔だった。
「あはは、静香ちゃんって演技上手だね。それとも流騎くんが鈍感なだけか……」
「え?じゃあ、今までのって俺を陥れるための二人の演技か?」
「はい、そうです。昨日綾夏さんと一緒にお話しをしたので」
「えへへ、参ったでしょ。流騎くん、まさか流騎くんも静香ちゃんがここまで乗り気だったとは読んでなかったみたいだしね。大成功」
私は作戦が成功したことで一種の自己満足の嬉しさに身を委ねた。でも、ほんとに流騎くんって単純だな〜。
「お前たち、一体昨日何を話してたんだよ……」
流騎くんの溜息交じりの最後の言葉はあんまり良く聞こえなかったけどその後ぞろぞろと生徒達がやってきて十分もしないうちに席が珍しく今日は全部埋まった。
早々とベルが鳴りHRを告げた。綾夏はいそいそと教壇の前に立ち生徒皆の注目、視線を集めた。
「えー、みなさん、先週はお騒がせしました。それで早速ですが、鳳欄高等学校毎年恒例の球技大会が三日後にあります。そこで今から皆さんがやりたい球技種目を決めたいと思います、今から校内全体で一斉投票しますので皆さん前回同様この投票用紙にやりたい種目を書いてここに通してください」
といって、綾夏は投票用紙が入りそうなぐらいの小さな隙間の開いた駅で見る切符を入れるような箱というか機械が置かれていた。
「それでは、よろしくお願いします」
綾夏は言い、俺は一、二分考慮した。球技大会か……。好きな種目はサッカーなんだがそれだとクラス全員は参加できそうにないな。男女別かな、それだったらいいけど……。ええい、面倒だ、ここは定番のドッジボールにしよう。
俺は紙にドッジボールと書いて箱の中に入れた。そうして三分の後、皆書き終わったのか綾夏が集計をし始め、その結果を正面にある黒板に書いていった。そしてほぼ同時に俺たちの机に備え付けられているコンピューターの画面に綾夏の書いている文字が浮かびだされていく。
結果が、
サッカー(3)
テニス(5)
卓球(1)
ゴルフ(1)
野球(2)
クリケット(1)
ビリヤード(1)
バスケットボール(7)
ドッジボール(13)
アメリカンフットボール(2)
となった。やっぱりドッジボールって人気あるんだな。まあそれはそれで俺の得意分野だけどな。
ただ単に敵にボールをあてていけば勝つなんていう単純なゲーム。シンプルこそ上等。ドッジボール、いい競技だ。
「それではこのクラスはドッジボールということでいいですね?それでは今から発信します」
するとコンピューターの画面でどんどんと集計の結果が棒グラフで行われ、バスケットボールとドッジボールが言い勝負で追いつ追われつの接戦を繰り広げていた。すると最終結果が出たのかドッジボールがグラフの中で一番投票数が多かった。
「さあ、結果が出ましたね。今年の球技大会はドッジボールに決まりました。それでは次の報告に行きます。最近盗難、窃盗の件数が多いので貴重品などの類は自分の机の中かあるいは肌身離さず持っていてください。それじゃ、私からの報告は以上です。何か質問はありますか?」
「はい」
俺は手をあげた。
「はい。なんですか、萱場君」
「球技大会は男女混合なんですか?」
「はい、一応規則ではそうなっています。競技によって変わることはありますけどクラスの団結を深める理由も含まれていますのでたいていの場合は男女混合です。もちろんドッジボールはクラス対抗になりますから生徒全員が参加します。他に質問はありませんか?ないということでしたら校則の第三十七ヶ条をお読みください」
綾夏は生徒委員とした立場で丁寧な物言いでHRを進行させチャイムと共にHRは終了した。
ドッジボールか……。でも三日後ってのも急だな……。きっと練習期間をあまり与えず、でもそれなりに時間を与えるって所をみたらクラスの団結を確かめ、固めるのには充分な時間ってことか。
さぁ、新たな人物ですね。刈谷秀明……彼もS系つまりは……?