第三十五話 流騎、疲労困憊
ぶるるるるるるるるるる
「うわっ!」
俺は自分の携帯でセットしたタイマーで目が覚めた。
「お客様どうかされましたか?」
俺は切符の点検に見回りに来た電車内の駅員に声を掛けられた。
「あ、いえ、大丈夫です」
ふぅ、いつ体験してもこの感覚は慣れないな……。
もう二時半か、後十分でつくか……。さてと、よく寝たな…………。
「まもなく広島でございます。お客様お忘れ物なきよう御注意ください」
さてと、俺の場合荷物がでかいから先に戸口で待っとくか……。
俺は自分の隣に置いてあったトランクを取り出して電車の左側の出口の前に立った。目の前を通り過ぎる光景は夜の街でしか見ることのない色とりどりのイルミネーションのオンパレードだった。
「たまにはこういうのもいいな……。さてと、タクシーで帰るか?それとも、いや、やっぱり歩いて帰ろう」
俺は独り言をぶつぶつ呟きながらホームに電車が着くのを待った。俺の悪いくせは考えてることを無意識に口に出してるときがあるからな……、気をつけなければ。
電車はそれからまもなくしてホームに到着して俺は駅から出た。ここで借りているアパートは一応人目を避けたところにあるので俄かに薄暗い感じがする。だが、アパートに着くまで徒歩で三十分はかかった。
夜の街を堪能しながら夜風に身を任せていると向こうの方から人のシルエットが道の反対側から向かってきた。どうやら二人いるみたいである。
いかにも俺たちは不良だぜといっているような服装で、地元の公立高校の制服を着ていた。そのまま通り過ぎようとしたがそうは見逃してはもらえなかった、
「おいお前、ここじゃ見ない面だな」
「あ、兄貴こいつあの鳳欄の連中ですぜ」
どうやら背の高く、髪を赤と茶に染め、ピアスを耳に三つずつつけているほうが兄貴分らしい。一方の背の小さくネズミみたいなのが弟子みたいなものか。しかし、厄介だな。この服装で揉め事を起こしたら後々ややこしいからな。
「おい、お前、一年だろ?」
「ああ、それで?」
「ちょうどいい、俺たちは今腹が減ってんだ、金貸しな」
これが俗に言うか利上げってやつか……、こいつらほんとにやることがないんだな。顔は強面だが体つきからして力はなさそうだな……。逃げるか?それとも、やり過ごすか?でも俺の癪に障るな、やっぱりここは……、
「お前に金を貸す義理なんてない。それに俺は今忙しいんだ。邪魔だ、どけ」
「な、なんだと、てめぇ!俺には向かうとはいい度胸だ、おいチュー吉やるぞ!」
「へい、兄貴!」
やっぱり名前もネズミか……。ふぅ、めんどくさい連中ばかりだ。
俺は再びトランクを引きながら歩いた。横やら正面からチンピラどもの殴打や蹴りをかわしながら歩いた。そして歩き出して十分もすると、疲れたのか、膝に手をかけ肩で息をしていた。
「く、くそ、何で一発もあたんねぇんだ!はー、はー、はー」
「これに懲りたらもう二度とやらないこったな。チンピラやってもいいことないぞ」
俺はチンピラの二人をやり過ごし、自分のアパートに向かった。しかし、一体なんだったんだ?考えるだけでおかしくなりそうだな。それにあの制服からしてここからかなりの距離はあるぞ?ふぅ、俺は一体何を考えてるんだ……?
俺はアパートにたどり着いて鍵を取り出して扉を開け、中に入った。ここのアパートはマンション式で階数はそれほど多くはないが幅に広く、それに伴って一部屋一部屋の規模も大きい。俺の部屋は二階にあり、横の壁に郵便受けと部屋の扉には新聞用の受所が設置されている。
俺はトランクを部屋に入り置き、風呂にお湯をためた。湯が入り次第俺はすぐさま湯船に使った。
今日はいろんなことがあったな……。精神的にも理性的にも疲れた……。運動するよりもこの方が何倍も堪えるとは。
しかし、俺にそんな過去があったなんてな。このことも明日というか今日、話さなきゃな。綾夏がどんな顔をするか、見ものだな。笑い事じゃないが笑ってないと俺のほうが持たないし、それに静香もどんな反応をするか……。
俺は髪を洗って、体も洗いもう一度湯船に浸かってからあがった。そのまま今日の準備を済ませ、朝になるまでの三時間で一週間分の遅れを少しでも理解しとくため復習に取り掛かった。
流騎お疲れ様です。ですがまだまだ働いてもらいますので、よろしく。