第三十話 静香の過去
「それではまずは放課後のことのですが、支部の下準備を済ませたいと思っていますのでご協力お願いします」
「あ、ああ、それよりシズカお前のグレードはなんだ?」
「はい、私はグレード9です」
「グレード9! わ、わたしよりも上なんだ……」
綾夏は少し落胆したように嘆いた。
「それでお前の能力はなんなんだ?」
俺は静香に尋ねた。
「はい、私の能力は光と闇両方を使えます」
「光と闇を両方だと? 今までそんなチルドレンがいたという情報はなかったぞ……」
「はい、それでしたら少し私の生い立ちをお話します。私は倉木家家元の長女です。長年続いてきた日本伝統である花道、茶道、武芸、日舞などに関しましては名門中の名門です。私にこの能力を与えたのがもちろんオリジナルなのですが、そのオリジナルが私の祖父と祖母でした。私の祖父と祖母は闇と光を司ったオリジナルでしたが自らの分身を作り出しその能力を私がまだ五つの時に与え、姿をくらませました。私の祖父と祖母はすでに百歳を超えていたのですが分身を作り出したおかげで本体の居場所はわかりませんが分身たちはそれから二十年ほど生き続け私に能力を授けた後消えました」
「でもそれならおかしくないか?そのオリジナルの分身たちはシズカの生まれる前からすでにいたはずなのにシズカはなぜその事情を知っているんだ?」
「それは私の母自身もチルドレンの一人であったからです。母も私と同じように二つの能力を授かりそのまま私がちょうど五歳のときに姿を消しました。そしてこのことは倉木家の名に響くと言うことで誰にも私たちの能力が知られることはありませんでした」
「なるほど、だがおかしいな。たかが支部にグレードの高い隊員が三人が集まることはそうそうないんだがな。それに親がチルドレンだったと言う例も今までなかった」
「へえ、そうなんだ」
綾夏はチーズケーキのホールを食べながら言った。しかし綾夏の興味はもはや静香の生い立ちや俺の問い掛けよりも目の前のチーズケーキに向けられていた。
「それに、もし能力を隠していたのなら何故MBSに入ったんだ?」
「はい、それは私の祖父の遺書が一年ほど前に見つかりMBSの存在が記され頼れる人物がいるとのいうことで入りました」
「その人物ってのは誰だ?」
「はい、今の鳥取MBS本部の総司令カゲフミのお父上に値するお方です。何でも私の祖父の部下であり弟子でもあったようです」
「そうかそれなら多少の辻褄は合うな……。それとその言葉遣いはどうにかならないか?俺はちょっとそのそういう話され方に慣れてないんだ……」
「そうですか、それなら仕方ありませんね。それでは今度からはコードネームではなく本名で話すことにしましょう。その方が随時安全ですからね」
「ああ、そうしよう。俺もそうする」
「じゃ私は静香ちゃんって呼んでいい?」
「ええ、いいですよ綾夏さん」
「よし、それなら放課後は忙しくなりそうだな」
「うん、そうだね」
「そうですね」
俺は静香の顔を一秒だが凝視した。静香は端整な顔立ちをしていていかにもお嬢様って感じだ。いや、お嬢様って言うよりは大和撫子並みの顔をしている。
髪は長く肩と腰の中間辺りまで伸びている。艶のある紫紺の髪を結わずに流している。身長は綾夏より五センチほど高い。俺より低いが女子だと一番背が高いぐらいだ。両目はなんでも見透かしてしまいそうな感じがした。
「なにか?」
静香が俺の視線に気付いたらしい。俺はすぐさま、
「い、いや、別に」
俺は咄嗟に左手にあるミックスサンドを頬張った。
その後、俺、綾夏、静香の三人で昼飯を食べ終わり教室に帰った頃にはちょうど次の授業の始まる三分前であった。
授業は一週間居なかったせいか、内容も解説もチンプンカンプンであったがなんとかやり過ごすことができた。さすがは有名校……、やる授業内容が明らかにすでに大学レベルだ……。
まあ、わからなかったのはせいぜい英語と古文ぐらいだったけどな。
そんな感じであっという間に放課後になった。そこで綾夏と静香と一緒に静香に連れられ「S系クラブ」と書かれた教室にたどり着いた。妙だったことはその教室は扉がひとつしかなく窓はすべて暗幕で隠されていて明らかに怪しい雰囲気を醸し出していた。
静香は扉の横に配置されていたセキュリティプログラムにカードを翳し、その後すぐに扉が自動ドアのように開いた。中に入った途端に部屋全体の電気が照らされた。
「ここが新しい俺たちの支部か……。結構狭そうだな」
「いえそんなことはありません。結構設備も整ってますし広いですよ」
とにかく俺たちは部屋の中に入った。
「うわー、すっごーい。なにこの広さ……。教室の中に部屋が三つぐらいあるよ」
「ああ、それにしてもすごいな……。こんな経費まで下りるもんなのか?」
「はい、何かしら思惑があるのだと思われますけど今は感謝するべきですね。私も三日前にここを任されたのですけど最初はびっくりしました」
「それで、今後のここでの活動は?」
「はい、それは今から説明しますけど立って話すのもなんですからこっちに談話室がありますからひとまずそこに行きましょう」
またも静香の案内で俺たちは教室と言うのか部室の一番窓側左に設置されていた談話室と書かれた部屋に入った。
するとそこには小型方の自動販売機、コーヒー用のポットなどが配備され、部屋の中央に檜で作られただろう重量型のテーブルに椅子にホイールのついたものが五つほどあった。部屋の大きさは奥行き八メートル、幅六メートルぐらいはあった。しかし、たった部員三人のためにここまでやるのだろうか……?
静香の過去編です。出てくる人物の過去編は終わりましたかね?過去編は必須ですよねっ。