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燃えた夏  作者: Karyu
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第二十七話 呼び出し試験


 翌朝7時半、朝の湿った日差しが窓のカーテンの隙間から揺らぎ注いできた。


「ふぅ、もう朝か……。よく寝たな……」


 俺は布団から起き上がり時間にまだ余裕があるのを見て今日はちゃんと朝ごはんを作ることにした。しかし、考えてみたら今は冷蔵庫には何もなかった……。


「はぁ、朝飯どうするかな……。仕方がない、学校に行くとき買って行くか。そうなると、とっとと着替えて行くか」


 俺は昨日洗っておいた制服に腕脚を通し、MBS用の非常時用の携帯と自分の携帯をポケットに入れ、鞄に今日の体操服だけを入れて部屋に鍵を掛け、郵便受けに入っていた新聞を持ってアパートを出た。


 新聞を読みながら昨日行ったコンビニに行く途中に興味深い記事があった。それは、


【昨日午前八時ごろに広島県の比婆山で遭難届けがあり、それを救助に約十人の救助隊が救難活動に赴いた。いまや熱帯雨林化している比婆山で唯一安全である川のほとりで少なくとも二人の人間がいた痕跡がありそのすぐそばの茂みから血痕のついた五人の軍用服が発見されました。遺体は発見されておらず、救助隊はそのまま救助活動を続けましたが結局見つからず断念、その軍用服を持ち帰り血液鑑定をして被害者を割り出すよていです。なお警察は川のほとりにいたとされる二名の人間を重要参考人として探し出す方針であることがわかりました】


 くそ、一体誰だ?遭難届けを出したのは……。だがまあ、昼までにはMBSの方がかたをつけとくだろう。しかし、よく見つかったな……。


 きっと救助隊の中にリベリオンの連中が混じっていたのだろう。少し警戒心が足りなかったな、だがまあ指紋はすべてふき取っておいたし戦闘で飛び散った血や焦げあとは俺がレインシャワーを使って流しておいたから発見される心配はないだろう。


 俺はコンビニにつき外に設置されているゴミ箱に新聞紙を捨て、コンビニでカツサンドとカフェオレを買ってから登校した。


 学校へ歩いていると校門の前でいつもはいない三人の教師が立っていて、生徒達が門をくぐるたびに生徒の顔をまじまじと見ていた。今日は何かあるのか……?


 俺はなに食わない顔でカツサンドを食べ終わりカフェオレを飲んでいたらその三人の教師たちに遠巻きに指を指されこっちに小走りにやってきた。そのうちの一人の男性教師が、


「君が萱場流騎だな」


「ああ、そうですが。なにか?」


「こっちにきてもらおうか」


 といわれ三人の教師に囲まれ俺は職員室まで連れて行かれ職員室にある少し隔離された部屋につれられた。そしてそこには綾夏の姿もあった。その目の前に机をはさんで座っていたのが校長だった。


 俺は未だにカツサンドを頬張っていた。


「やあ萱場君、木宮君の隣に座りたまえ」


 と促され綾夏の隣に座った。


 座席はソファーでなかなか座り心地がよくテーブルは漆塗りが施されていた。


「今日君達に集まってもらったのは他でもない。今朝政府から君たち二人の安全の保証とある実権を与えるようにと言われたんだが、それがとんでもないものでね、今までこの学校歴史以来の出来事なのだよ。それで君達がそれに値するのかどうか試させてもらうのだよ。」


「え、そんなこと急に言われましても……」


 と綾夏はおどおどしていていたので、俺が、


「試すも何も政府から言われたのでしたら即、実行に移すべきですよ。いくら名門のこの学校でさえ政府に、まして国に逆らうなんてばかな真似はできませんからね」


「貴様黙って聞いていれば校長にむかってっ……!」


 と俺を連れてきた一人の男性教師は激怒したが、校長が


「まあまあ坂本先生落ち着きたまえ。萱場君、確かに君の言ったとおり我が校としても政府に立ち向かえるほどの力はないが政府に関係する立場の人間が数多くこの学校にかかわっているのでね、これぐらいの試しは政府からも了承を貰っている」


「なら、とっととはじめてください」


 俺は興味なさそうに言ったのだが内心では少し落ち着きがなかった。そしてカフェオレを飲み終え、ゴミ箱に投げ捨てた。


「それでは質問はひとつで簡単だ。その答え次第でこれからの君たちの処置を決める。それではいくぞ、君たちにとって生きるとはなんだ?」


 若干の間、校長と俺と綾夏、周りの教師達に沈黙が続いた。


 その質問に俺は真っ先に答えようとしたが綾夏の口が先に開いた。


「校長先生、それは自然です。生きるという定義に感情や思想は関係ありません。人間であろうと、犬であろうと、蟻であろうと、植物であろうと、生きています。それに矛盾する点は何一切ありません。そしていつかは滅びます、今までの自然の流れに沿ってです。生きるとは自然であり、それに逆らうことはできないのです」


「おおぉぉ」


 などの感嘆の声やぱちぱちと、周りにいた教師からは綾夏に向かって小さな拍手が向けられ校長も微笑を顔に浮かべていた。


 綾香は少し顔をうつむけ顔をほのかな赤で染め、今度は俺に向かって、


「君はどう思うかね萱場君、君にとって生きるとは何だね?」


「そんなのは簡単です。綾夏の言ったとおり自然に順する点は変わらないが、俺にとって生きるとは死ぬことだ。ごく普通だが、この死も逆らうことができない。さらに死は自分の生きた証を証明します。どんな死に方だったのか、どのように死んだのかそれを解明するとその人の生き方、生きていたという証明ができ、それでいかに他人と違うかがわかります。人は死んでも自然の中に何かしらの形として残る、そこで俺は生きる。それが俺にとって生きるという意味だからだ」


 そして今度もまた周りの教師たちから拍手はなかったものの何人かが頷き校長は目を瞑り考えに耽っていた。 



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