第二十三話 綾夏の過去
「え?どういうことだ?」
「ほら、昔私がひきおこしたっていわれてる山火事があったでしょ?」
「ああ、広島大火災の話か。あれは本当に綾夏がやったのか?」
「うん。あの時私は八才で近くの小学校に行ってたんだけど、下校した後家に帰ってみたらお父さんとお母さんが二人とも首をつって自殺していたの……。そして二人の足元に私宛に一万円札が十枚ぐらい入ってて、文字でおばあちゃんの所に行きなさいとしか書かれていなかったの。私のおばあちゃんは流騎くんも知ってると思うけどあの木宮財閥の会長で私の親の結婚を認めず私の親は駆け落ち結婚して私を生んだの。そのことを事前に聞いていた私は親に内緒でちょくちょくおばあちゃんに会いに行って、かわいがってもらってたの。だけど親の自殺でどうしようもできなかった私は夢遊病者みたいに町の中をふらふら歩き回っていつの間にか山の中にいたの。不思議とそこでは落ち着いていられて心がすっきりしたの。そしてそのまま眠ってしまった……。そして起きた時に私の目の前に流騎くんの言ったオリジナルの分身に出会ったの。そして私は否応なしにこの能力を手に入れた、けどまだ力を制御できなかった私は暴走したの。そして近くにあった山小屋に入り込んだ。そしたらそこには十人ほどの男がトランクケースいっぱいのお金を持っていて麻薬の取引をしていたの。そこでも私は暴走してこの手でその男たちを焼き殺してしまった……。それから約五日、山は燃え続けたの。私はただ火の中を歩き続けそのたびに火は広まっていった。そして遂に力が出なくなって意識が朦朧として倒れたの。次に目を開けたときには木宮財閥の御用達の病院の病室で入院していた。それからはおばあちゃんに育てられ今に至るの。多分あの時MBSに何の関与も受けなかったのは私のおばあちゃんの力だと思う。そう思うと今では感謝してる。おばあちゃんは商売第一だったけど私のことは孫として接してくれたから」
「そうだったのか……。なるほど、それなら辻褄が合う。それじゃ、俺がここを片付けておくから綾夏はちょっと休んでな」
「うん、わかった。ありがとう」
「ああ、それとこちらこそありがとな。ナイスアシストだったよ」
「うん」
俺は綾夏を木陰で休ませ早速転がっている死体たちの回収、調査、埋葬に取り掛かった。
俺が五人のリベリオン達の死体を調べていたら興味深いことに気がついた。奴等の言っていた通り、体には蛇と犬の特徴らしき体質が入り混じっていた。蛇の鱗がついた皮膚、蛇のような長い舌、そして蛇のように体のあばら骨が明らかに人間よりも多く存在し柔軟性があった。なるほど、その為にあんな動きができたようなのか……。
しかし蛇とキメラ化した死体の数は二体だった。それともう一体の死体は犬の様な出っ張った鼻に、犬のような体毛が背中にびっしりと生えていて、口の中の犬歯が人より異常に多かった。人間の特徴を残したままの体にもかかわらず構造が少し変わっていた。
森の中で先に倒したもう二人の死体は両方とも犬と融合したということが見るからに理解できた。二人といっていいのか分からないのだが、その犬のキメラ達は顔を覆ってはいたがそれを取り外すと顔が犬のままであった。
キメラを作る技術はMBSでも分かってはいたが、人間型のキメラについてはまだ知られてはいなかった。それに、このキメラたちを見るからにまだ実験段階なのだろう……。薬物投与による脳細胞への影響、中には指や足への神経が切られたようで、それでもあの俊敏な動きがなせられるのだから恐らく軍人であったのだろう。それとキメラによる動物たちの融合で人間を上回る運動能力を経ていた。
俺はMBSにいた頃に少し生物学をかじった程度だが警察でいう鑑識並みの知識は習得していた。それでキメラの作り方も多少は理解できたのだが今の科学では完璧なキメラの合成を成し遂げることはできない。しかし、リベリオン達の作るキメラはほぼ完璧に近かった。いくらかのキメラを本部に持ち帰り研究してもその原因にたどり着く前に合成する際にプロテクトがかかっているのだろう、キメラは溶けて砂に分解される。
なぜならリベリオン達のキメラは殺され、あるいは死んだ場合一時間で砂に分解され証拠隠滅に関しては用意周到であった。だからその前になるべく今のうち調べておくしかない。
くそ、しかしこのキメラ達は実験段階でも良く作られている……。ここまで進んでいるのであるんだったらかなりの戦力が近いうちにリベリオンに集結するだろう。そうなったら厄介だな……。このことは早く報告しなきゃいけないが、当分は伏せておいたほうがいいだろう。
ふぅ、ま、とりあえず今この死体から分かるのはこれぐらいか……。なるべく早く山を下りたほうがいいだろう。もうすぐ昼ごろだから下りてから昼食をとるか……。
俺は死体を誰にもばれないように茂みの中に隠しておいて綾夏のところへ戻った。
「綾夏、気分はどうだ?」
「うん、もう大分いいみたい。人間ってこわいね、初めて人を殺めちゃったときはすごく自分のことを嫌って責めたのに、今じゃあのころよりも罪悪感が薄れてるなんて……」
「確かにな。でもこういうのは慣れなきゃいけない、たとえ自分がいやでも誰かがやらなきゃいけないからな」
「うん、そうだね」
「おっと、そうだった。今日から綾夏は正式にMBSの隊員だ」
「え?じゃあ、合宿の前からじゃなかったの?」
「ま、まあな。あれは一応仮隊員で皆チルドレンはMBSに入るときは一通りの知識を身につけるため合宿はするからな。まあけど、きょうで正式に綾夏はMBSオーパーツ課の隊員グレード8だ。おめでとう」
「うん、ありがとう流騎くん」
ここで初めて綾夏は笑った。
俺も微笑を浮かべながら、
「さ、膳は急げだ。さっさとこの山を下りるぞ」
「うん」
そして俺と綾夏は下山の用意をして荷物、といってもあんまりないのだが鞄に詰めて山を下りていった。二人の間にパートナー以上の絆を強めながら……。
綾夏の過去が明らかにっ!どんどんストーリーっぽくなってまいりましたね。自分でいってて世話ないですが……。