第百八十七話 シコンとクキョウ 久しき武芸道
「へぇ、ビワのじいさんが殺られたぜ」
「クキョウ、お前な……」
後方で声がする。
「「!?」」
俺達は一斉に振り返る。そこには二人の人影。背格好や声調から、それがクキョウとシコンだということが識別できる。
「シコン様……」
俺の隣で西園寺さんが呟くのが聞こえた。
そういえば、西園寺さんとシコンは元広島リベリオンだったな。だったら、どうする? ここで、西園寺さんも始末するか?
だが、西園寺さんの真意が解らなきゃ、何もできねぇ。
「み、未来」
木宮さんが、俺とおんなじ風な考え方をしたのか、西園寺さんの腕にしがみつく。
「ミキか……。まさか、俺とお前が闘うことになるとはな」
「そ、そんなっ! だって、なんでシコン様はこんなことっ!?」
西園寺さんが声を上げる。
「俺はカゲフミさんに付いていく事にした。だからだ、邪魔する奴は誰だろうと潰す」
「そんな……」
西園寺さんの気落ちした声が耳に届く。
「覚悟しときな」
そう言い放ちながら、シコンの周辺からは炎が燃え上がり、空気を歪ませる。
クキョウも同じく、攻撃の準備へと取り掛かっている。
「ちっ、やるしかねぇな。やるぞ、静香」
「はい」
俺は土塊で、静香は眼を閉じ、集中力を増す。
一気に決める。
「紅葉さんと海瑠は萱場を頼む。木宮さんは西園寺さんを、林果さんはサポートをっ!」
「オッケー」
林果さんの返事を聞くだけに止まり、俺は突貫を仕掛ける。
「一人でか? なめんなよっ!」
クキョウは俺と同じ能力のチルドレン。だが、スペクタクル二人相手になんかしてられるかってんだよっ!
「静香っ!」
「桃っ!」
「イエッサー!」
俺、静香、林果さんの順番で同時に叫んだ俺達は一斉に技を発動する。
「オロチっ! 閃眼!!」
「黒髪」
「ライトバーンっ」
俺と林果さんが放ったのは眼暗ましの技。そして静香はそのサポートとして、その光を増強させる技を放っていた。
「くっ!」
「っつ!」
「はい、それじゃそういうことでー」
林果さんの声を最後に、俺は萱場を担ぎ、静香と林果さんは木宮さんを助けながら西園寺さんを運ぶ。
俺達八人は一旦戦線離脱をする。いや、しようとした……。
「だが、そうは問屋が降りないんだよな」
「っ!?」
さっきの攻撃が効かなかったのか……? いや、確実に当たった。なら、スペクタクルにとっちゃなんでもねぇってことかよっ!
「大地の盾っ!」
俺はクキョウから俺達を隔てる為に壁を作り出し、時間を稼ぐ。
「なんとしてでも、西園寺さんと萱場はここから離脱させろっ! 海瑠と紅葉さん、頼むぞっ!」
「はいっ!」
「わかりましたっ!」
海瑠が萱場を担ぎ、紅葉さんが戦線不能な西園寺さんに付き添いながらこの場を離れていく。
「それでは、秀明、桃、綾夏さん、私でスペクタクル二人を相手するわけですか……」
「わりぃな。でも、勝てなくはねぇよな」
「そうだね、皆ガンバロ~」
「うん! 絶対に勝とうっ!」
俺と静香がシコンを、木宮さんと林果さんがクキョウを相手にすることにする。そして、即行で片付ける。
大地の壁は難無くクキョウの拳により粉砕されるが、俺達はすでに移動してクキョウの背後を取りに掛かる。
しかし、さすがはスペクタクル……易々と背中は取らせてはくれなさそうだ。
「白虎、円舞石」
俺達へ背を向けたまま、クキョウは口を動かした。
突如として、クキョウの立つ足場の周りの土が岩のような形をしながら浮き上がりクキョウの姿を隠した。
「土塊っ!」
「シャドークロー」
近接用武器でクキョウが出現させた土の塊へと迫った俺達は、打撃を与える。
クキョウを囲んでいた岩のような土は、粉々に砕け散った。それは、俺達が打撃を与えるコンマ数秒前に自ら砕け散り、散乱する砂塵は俺達の視界を奪う。
「玄武、掌杭拳」
深く地面へと沈み込んだクキョウは、地面を蹴り、俺達の腹部に自分の掌拳を放った。
「ぐぁっ!!」
「あっ!」
無防備にその攻撃を喰らった俺と静香は宙に舞い上がり、そのまま後方の大木にぶつかる。
「「っ……!!」」
二人同時に声無き嗚咽が漏れる。
生々しく、透明度が施された唾液が口から漏れる。
このスーツがなかったら、間違いなくあの世行きだったな……。
未だ定まらない思考をなんとか引っ張り出し、構える。静香も同様に、技の提唱を始める。
「へぇ、忍耐力はあるんだな」
「黙れよ、すぐにそんな軽口叩けなくしてやる」
「やってみな。蒼龍、画無描点」
クキョウは両手を地面に減り込ませ、神経を集中し始める。
「くっ! 大地の盾っ!!」
俺は嫌な予感がしたから、すぐさま俺と静香を守るように大地の盾を発動させる。
ほぼ同時に、技同士が炸裂したのか、俺の技はクキョウの技により粉々に砕け散ったがなんとか直撃を免れることができた。
「やべぇな……」
「……………」
ここは、静香に賭けるしかねぇか。俺は、攻撃は最大の防御策をとることにし、土塊を両手に纏いクキョウへと駆ける。
「玄武、岩石掌」
俺の技と似たようなコンセプトの土グローブを填めたクキョウと俺の土塊との攻防が炸裂する。
岩と岩とが織り成す鈍くも巨大な炸裂音が周波を生み出していく。
右、左、斜め右、時には頭を狙いに繰り出されるクキョウのラリーを土塊で往なし、危険を顧みずにクキョウの隙を狙いながら俺も殴打を繰り出す。
徐徐にお互いの体と両手に纏うグローブがちりちりと崩れていく中、俺はタイミングを図ったように後ろへと跳躍する。
そして、次の瞬間、クキョウ目掛けて暗黒の光雲が直撃した。
長年放置しておりましたが、続きが発掘されましたので載せておきます。