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燃えた夏  作者: Karyu
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第百八十六話 琵琶、敗れる その終焉は物静かさの中


「ほお、成長したようだな」

「一応、あんたとは同ランクなんだがねっ!」

 一閃したヒエロ・ランスは、ビワの着用している振袖の一振りで弾き返される。

「あんた、一体何着てんだ」

「極秘である」

「そおかよっ!」

 またもヒエロ・ランスを一閃するも、同じように弾き返される。振袖とは思えないほどの頑丈さに、俺はどう対処するか色々と策を並べていく。

 ビワはかなりの歳であるはずなのに、そんなことを感じさせないような身のこなしだ。

 海瑠の方は、まだ少し時間が掛かるみたいだな。

 幸い、この本殿にはビワしかいなかった。いや、もしかすると罠か? だが、首領を倒せば問題はないっ!

「やりおる」

「そうかよっ!」

 俺達は斬撃を繰り拡げ、清水の本殿内は荒らされていく。倫理的に気が引けるが、こんな奴等を野放しにする方が危険極まりない。

「千切れ氷針(ミルアイシクル)

 ヒエロ・ランスを分解、幾千にも千切れた氷の塊がビワを襲う。

「白翁水蓮」

 ビワの目の前に現れた白い蓮の盾によって俺の攻撃は防がれる。だが、これが狙いっ!

「海瑠!!」

「はいっ! 弾けろ、エレク・フォ・バンプ!!」

 海瑠がチャージしていた電気の球がビワへと放たれる。一直線上にいた俺は、水速転換ですばやく回避し、俺の千切れ氷針を受け止めていたビワは直撃を喰らう。

 巨大な量の電気は留め止めなく本殿の中を破壊し、俺達が戦闘を繰り広げていた際の大量の水までもが蒸発し、一気に爆発した。

「ぐっ!」

「うわっ!!」

 俺と海瑠の声が重なり、咄嗟に展開させたプロテクシオン・ロゥにより俺は風爆を受けるのみで済んだ。しかし、爆風は凄まじく、俺は本殿の外へと飛ばされた。

 すぐに立ち上がり、立ち込める水蒸気の中、俺は海瑠の影を白い蒸気の中見つける。

「大丈夫か、海瑠っ!?」

「う、ぐ、は、はい」

 腕を引っ張り上げて立たせる。

「これだと、目視は無理だな」

「そうですね」

「気を引き締めとけよ」

「は、はい!」

 俺は目を閉じ、水蒸気の中に他の生命反応があるかどうかを調べる。水蒸気内の水素を通して熱の変化量を知ることで誰がどこにいるかを把握することができる。

「ビワは、生きてるな……」

「そ、そんな!? 直撃したはずですよね!?」

「ああ、だが、生きている」

 ちっ、伊達にスペクタクルじゃないってことか。だが、かなりダメージを負っているのは確かのようだ。

 水蒸気が消え去り視界が取り戻される。跡形もなく爆発した本殿の中央に鎮するようにビワが仁王立ちしている。

「この程度か、小童共よ」

 明らかに怒気を含んだ口調……。やばいな、切れてるのか? 

「海瑠、死ぬなよ」

「はいっ!」

 俺と海瑠が身構え、ビワと対峙する。

 ビワが何かを唱える為、詠唱を読み上げているかと思うと、一筋の閃光がビワの脳天を射抜いた。

「なっ!?」

「え?」

 一線の光はそのまま虚空へと残光を照らしながら消えていく。

 一体誰がっ!?

 俺と海瑠は同時に後ろを振り返る。そこにいたのは、右手を銃の形に構える桃の姿と、その後ろに控えていた残りの五人だった。

「お前達……」

「隊長も情けないですね、一撃で仕留められないとは」

 静香の毒舌が耳を(つんざ)く。それに続いて刈谷も。

「まったくだ、絶望した! 絶望したぞっ!!」

 これみよがしと、刈谷は手の乙を額に当て、天を仰ぐ。ちゃんとその顔には不敵で冗談めいた笑みを忘れずに……。

「お前らな……」

 溜息交じりに苦笑する。

 俺はつくづく幸せな奴だよ。

 知らない内に、俺は自分の右手を海瑠の頭に乗せる。そして、

「わ、せ、先輩っ!?」

 くしゃくしゃに髪を掻き回す。

 海瑠は俺を慌てふためきながら見上げてくるが、俺の顔を見てすぐに柔らかな笑みを浮かべてくる。

「しっかし、まあ……ぐっ」

 いきなり、俺の体全体が無気力になったのか、俺はその場にも立っていられなくなり大勢を崩す。な、なんだ? 

 綾夏が近寄り、俺を支えてくれる。

「大丈夫、流騎くん?」

「ああ、綾夏、すまないな。ちょっと、休むわ」

 ビワとの戦闘で使い過ぎた能力のツケが回って来たみたいだ……俺は、そのまま凭れるように綾夏の肩に倒れる。

 くそ、世話ないったらありゃしない……。だが、あんな戦闘で、力は消耗していないはず……。

「し、流騎くんっ!?」

「先輩っ!」

「おいおい、萱場、もうギブかよ」

「だらしないです、隊長」

「ちょ、秀明君も静香ちゃんも毒舌……」

 西園寺の焦り交じりの声が聞こえてくる。

「大丈夫だよ、未来ちゃん。二人共全然そんなこと思ってないから。むしろ二人がチョー心配してるし」

 桃の宥める声が聞こえてくる。

「桃、余計です」

「えへへー」

「……」

 多分、青海が一番付いて来れないだろうな、海瑠に続いて……。だが、心配してくれているのはわかる。目を瞑りながらでもわかる。

「でも、なんだってまた? 流騎なら、こんなに力消耗するわけないのに……」

 桃が俺の思考を読み取りながら、俺が最も疑問視している点を代弁する。

「ああ、俺も謎だ……」

 重くなって開けなくなった瞼を閉じながら、口を開く。

 俺はどうしたっていうんだ?



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