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燃えた夏  作者: Karyu
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第百八十五話 シコンとクキョウ、突然の場


「ふぅ、なんとかなったね」

「はい、そうですね」

 私の横で青海ちゃんが安堵の声を漏らす。私達はさっきまで、清水の舞台まで垂直に駆け上がっていく四人の援護に徹していた。

「それじゃ、私達も行く?」

「はい」

 私と青海ちゃんは綾夏ちゃんと未来ちゃんが通って行ったルートを取って、上へと目指す。

「結構、暗いですね」

「青海ちゃん暗いの苦手?」

「い、いえ、そ、そんなわけないですっ!」

 単純でわかりやすいな、青海ちゃん。

 私は悪戯心を働かせて青海ちゃんの右手を握る。

「え?」

「ごめんね、青海ちゃん。桃、暗いの怖いの……」

 うるうると瞳を湿らせて、ちょっと屈んで青海ちゃんを見上げる。

「わ、わかりました! 私に任せてください!」

「青海ちゃんっ……!」

 私は目を輝かせて青海ちゃんの勇姿を称えるような表情を浮かべる。青海ちゃんは私の左手を握って、率先して私をリードしてくれる。

 やっぱり、かわいー。

 私達の周りを鬱蒼とした森、というか林が囲んでいる。塗装はされているから道はある。看板の示す指示通りに進むと、私が飛ばしておいた電子粒流結界が敵の反応をキャッチした。

「青海ちゃんっ!」

「きゃっ!」

 私は青海ちゃんの口を右手で後ろから押さえて、木陰の中へと隠れる。

「ど、どうしたのですか?」

「ちょっと、静かにね。敵が近くにいる」

「えっ!」

「しっ……」

「す、すみません」

 私は敵の位置を正確に把握するために神経を集中させる。敵との距離、10メートル弱、人数は二人。どうやら会話をしているようなので、他の電子をその位置へと飛ばす。

 徐々に、ノイズ交じりだが二人の会話が聞こえてくる。

「なんで俺達が京都にまで来なきゃならないんすか?」

「そう言うなって。カゲフミさんの命令だ」

「だからって、こんななんにもねぇ所に……」

「京都の方が北海道より寒くはないだろ」

「俺、寒いの好きですから」

「そうか、まあ任務だから仕方がないだろ。行くぞ」

「あーあ、やってらんねぇ~。って、俺はどうでもいい」

「そんな事言うな。そしたら俺がお前を殺さなきゃならなくなる」

「別にそれでもいいっすよ~」

 ふざけている様なクキョウの口調からは、しかし、真剣染みた色を残している。

「クキョウ、頼む。もうちょっと付き合ってくれないか」

「シコン……あぁ~っ!」

 くしゃくしゃと髪を掻くクキョウ。

「悪いな」

「いや、もういいです」

「悪い」

 この二人はスペクタクルのシコンとクキョウ……。この二人がここにいてカゲフミの名前が出てきたということで辻褄はすべて揃う。でもスペクタクルの二人が私達に気が付いていない訳が無い……。だからこんなに敵の近くで悠々と喋っていられる。

「青海ちゃん、逃げるよ」

「はいっ!」

 青海ちゃんはチルドレン成り立てだけど、実力はある。この嫌な空気に感付いてくれたみたい。

「圧像電残、ルミニアスケープ」

 辺りを眩いばかりの線香が迸る。私達は手を握り合ったまま、駆け出す。

 そして、間髪入れずに、すぐ後ろで爆撃が轟く。

「くっ」

 シコンの舌打ちが聞こえたが、今はそれに構っている余裕は無い。私達は只管(ひたすら)、清水へと道を急ぐ。

「くらえっ!」

 今度はクキョウの業が発動されて、自身が発生する。

 青海ちゃんがすかさず、

「水渦・氷花・華弁・花菱・浮花。浮きし桜花よ、水仙花!」

 と、術を唱える。

 私達の足は宙へと十数センチ程浮かび、そのまま向かっていく方向へと移動していく。

 足元を見ると、氷で出来た大きな水仙の花が宙に浮かび、私達を運んでくれている。

 後ろの方では未だに戦闘の音が途絶えないけど、私達に攻撃が当たることはない。

「?」

 青海ちゃんが疑問に思ったのか、一旦後ろを向いてから私を見上げてくる。

「私の技はね……うーん、解り易く言うと、私達二人の残像を空気中に焼き付けてきたんだよ。向こうからしてみれば私達が無数に現れてて困ってるだろうね」

 私は、ちょっと舌を出して見せておどけてみせる。

「す、すごいですね」

「そう? 青海ちゃんのこの技もすごいよ。ありがとね」

「い、いえ、これぐらい……」

 おーおー、耳まで赤くしちゃって。

「これ結構快適だよね」

「そうですか?」

「うん」

 私達は何とかスペクタクルの二人を撒いて、無事清水を登ることができた。折角なので、このまま本殿へと向かおうとしていたら、綾夏ちゃん達と出会った。

「あ、綾夏ちゃーん! 未来ちゃーん!」

「あ、桃ちゃんっ!」

「桃ちゃーん!」

 二人が手を振ってくれたので、私も振り返す。

「青海ちゃんもっ!」

「青海ちゃーん!」

「は、はい!」

「そこはそういう返事じゃないでしょ~」

「す、すみません!」

「やっぱり、青海ちゃんは青海ちゃんだね~」

 私はしょぼってる青海ちゃんをぎゅっとぬいぐるみ抱きをして、綾夏ちゃん達と合流する。

「うわー、いいなーそれ」

 未来ちゃんが羨ましそうに私達の乗る水仙花に見やる。

「えへへ、いいでしょ~」

「あの、そろそろ解いてもいいですか?」

「あ、ごめんごめん。それじゃ、行こっか」

 私達は四人で本殿へと向かった。

 まだ本殿からは距離はあったものの、本殿で起きた爆発音と水蒸気はこの場からでも見て取れた。



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