第百八十一話 舞台は京都、清水が示す勝機への奈落
「先輩っ!」
「お前……カイル!」
「はい!」
俺がヘリから降りると同時に駆け寄ってきたカイルの姿を見て、俺は安堵感とともに焦燥感も覚えた。
「よく生きてたな」
「はい、由梨さんのおかげです。他の皆さんは、殺されてしまいました……」
「そうか、よく、頑張ったな」
俺はカイルの頭に手をのせる。今にも泣きそうなカイルの髪を撫でる。
「辛いかもしれないが、付いてきてくれるな?」
「はい! 頑張りますっ!」
「よし」
カイルの力強い返事を聞き、屋上を見回すと他にも見知った隊員達の姿が見て取れた。数は少ない、だが生きていてくれて本当にありがたい。
「グガン、エンジュ、トーチもいるのか……」
こんなに心強い仲間はいないな。やれる、やってみせるさ。ただ殺されるのを待つなんて性に合わない。
「それでは私は皆様のことをすべてコードネームで呼ばせていただきます。矛盾しているかも知れませんが今まで皆さんが慣れてきたやり方でいきます。今から私がクライアントですので。よろしいですか?」
俺たちは一橋の言われた通りにビルの中の講堂へと場所を移し、ステージ上で一橋の演説が始まっていた。
講堂、ホールにはざっと見ただけで三十人前後のチルドレンの数が見て取れる。資料だけでみたことのある他の県の隊員も見て取れた。
「それでは皆さん、それぞれの部隊の隊長に従い任務を続行させてください。皆で守りましょう、私達チルドレンの居場所を。日本を。世界を」
「おおぉぉぉーーーー!!!」
雄叫びが、ホール中に響き渡る。チルドレン達が持つ、天性の覇気が体を震撼させ、奮い立たせる。俺たちの血は、互いに惹かれあう。その力は集まれば強大で、散れば互いを求めあう。
「こんな状況だからか……いいな」
「なにしんみりしてやがんだ、萱場」
隣で刈谷が上機嫌な歓声を上げている。まあ他の面々もまたしかりだ。
「それでは、参りましょう」
一橋の宣言の下、俺たちは託された一橋と俺たちの想いのままに任務を開始した。
京都市、五条を辿れば清水寺が見えてくる。
時は夜。綺麗な三日月が路上を照らし、京都の町に古来よりの影を強調する。俺のグループは先遣隊として奇襲をかけるのが任務だ。面子は俺、綾夏、静香、刈谷、桃、青海、西園寺、そして海瑠だ。
西園寺は意識を取り戻した直後であったが、治療が万全だったためと西園寺自体丈夫なためすぐに復帰できた。
「なんか、こんな大所帯じゃすぐばれるんじゃないのか?」
刈谷が小声で囁きかけてくる。というよりも刈谷のつけている小型マイクにだが。それを一橋から支給されたイヤホンで聞き取る。さすが日本、天下の一橋……超一流物ばっかだよな。
「ああ、だが陽動も兼ねてるからな」
「そうですね、ですが敵本拠地が清水というのも皮肉ですね」
「だよね。でも私、清水寺行ったことないから楽しみ」
「そ、そうですね! 私も初めてです!」
「私はたくさん来たかな~」
「桃も来たー」
「ぼ、僕も去年の修学旅行で……」
さ、さすがに八人もいるとうるさいな………。ま、頼りがいのある連中だ。失敗するわけにはいかないな。
俺たちが清水寺に辿り着こうとするや否や、空中から巨大な火の玉が飛来してきた。
八人はそれぞれに避け、態勢を立て直しながら上空を見やる。
清水の舞台に十数人の人影が見て取れた。
「どうやら敵さんのお出ましのようだな」
「ああ、そうみてぇだな」
「それではさっさと終わらせましょう」
刈谷と静香が先行する。おいおい、早いっての。
「じゃ、海瑠遅れるなよ。綾夏と西園寺も頼む」
「は、はい!」
「OK。了解~」
「うん、未来行くよっ」
刈谷と静香は、もうすでに清水の骨組みを伝い、上へと疾走している。
俺と海瑠もそれに続き、綾夏と西園寺は違うルートから上へと昇る。残された桃と紅葉は、俺たちの援助に徹する。
「水速転換」
「俊光!」
俺と海瑠は技を唱え、猛スピードで刈谷と静香に並び、上から迫る攻撃を掻い潜り舞台へと躍り出る。
「あらあら、こうも簡単に潜入を許すなんてね」
「そうですね。案外紅さんの指導が甘いんじゃないですか?」
グラマー女とゴスロリ少女が余裕綽々といった装いで俺たちを見据える。恐らくこの二人が幹部役なのだろう。前線に二人しか配置しないとは、なめられたものだな。
「へぇ、あんたらがビワ忍隊の幹部ってわけか」
刈谷が犬歯を光らせながら好戦的な態度を取る。それを冷ややかに見守る静香。
「ほら、蜜柑のせいで正体ばれちゃってるじゃない」
「私のせいにしないでください。それに今ばらしたの紅さんじゃないですか」
「うっ、確かに」
そんな小コントを傍観している暇などないので、俺は海瑠と一緒に先を急ぐことにした。
「行くぞ、海瑠」
「え? で、でもいいんですか?」
「大丈夫だろ」
「は、はぁ」
俺は紅と蜜柑というチルドレンの傍を駆け抜け、海瑠も続く。
「あ、ちょっと! ま、待ちなさい!」
「紅さんの馬鹿」
「あ、言ったわね!」
「事実です」
後ろへと視線をとばすと、この二人のやりとりに刈谷は戸惑っていたが静香の冷静な態度に助けられていた。
今はビワを討つのが先決だ。俺は海瑠を引きつれ、清水の本殿へと突入した。
清水寺は昔からの風貌を残したまま、中身は完全な改造が施されていた。そして、本殿の中央にビワ一人が鎮座していた。長白髪の似合うビワは、漆黒美麗漂わせる袴を着こなし、更にその威厳さを増している。
「また会ったな、ビワ」
「まさしく。それでは始めるとしようかの」
「話が早くて、ありがたいな」
「敵同士、語る必要などないであろう?」
すべてを見透かすような態度と、閉めきった瞼の奥に宿る瞳は確実に俺の死を捉えている。
「ああ、まったくだ」
俺は右手にヒエロ・ランスを復元させ、海瑠は精神を集中させる。
「いくぞっ!」
俺は矛先をビワに向け、突進した。