第十七話 流騎の過去(2)
山を駆け上がること数十秒あっという間に鳥たちが飛び立った場所にたどり着いた。そこはきれいな円形状に草木がなく半径5メートルほどの砂利が敷いてあった。そして、周りの青々しい木々を背にひとつの小さな社が祀ってあった。社は見るからに年期が入っていることがわかる程度な藻がこびりついており、縄文時代に社を作る習慣があったかどうかは別としてその社の中央の棚には縄文土器のような特徴ある器がおいてあった。
しかしすでにその社には先客がいた。派手なシャツやポロシャツ、ワイシャツを重ね着したような服装に白のカーゴパンツを履きさまざまな長さ、太さのチェーンを巻いていた。さらに腕にはかなりの時計をつけていて、その種類は多種多様であり色鮮やかであった。背は高くなく俺より低く155cm程度で、髪は銀色に輝き華奢な体つきであることが遠目からでもわかった。しかし背を向けているためその人物の性別、顔はわからなかったが、そいつが右手に青白く輝く手のひら程度の珠を持っていた。
トウキは俺より一歩前に出て、おそらくその人物を知っているのであろう、そいつの名前を呼んだ、
「てめえ、ゴウキ!なぜお前がここにいる?」
明らかにトウキの顔には怒りと憎しみを混ぜた形相でゴウキという人物を睨み、大声でほえた。
トウキの怒声が放たれた後、その人物はゆっくりと振り返り、まるでトウキを知っていたかのよう満面の笑みを浮かべこちらに手を振ってきた、
「あっ!トウキにいさ〜ん、ひさしぶり〜、はは」
「おいトウキ。あいつはお前の弟なのか?」
俺はトウキに尋ねた。
「ああ。まあ、やつはリベリオンに入っているがな」
「おい!じゃあ、やつが持ってるのはっ……!」
「ああ、たぶん清流の珠だろうな。こいつは分が悪いな……」
「なんでだよ?お前あいつの兄貴なんだろ?だったらぶん殴ってでも奪い返せるだろ」
「いや、やつは俺よりも強い……。情けない話だけどな。昔俺はあいつにすべてを奪われた、やつは自覚してないとは思うがな」
「おい、じゃあどうするんだよ?」
「しかたがない。シルキ、俺がゴウキの隙を作る。その隙を狙ってお前は珠を奪え、そしてすぐさまこの山を下りろ。わかったな?今のうちにホタルを使えよ!」
「お、おい待てよ!」
と、俺がすかさず叫んだにもかかわらずトウキはゴウキにものすごい勢いで突進していった。 仕方がなく俺はホタル、一種の本部への緊急、あるいは任務用の合図を一種のテレパシー(あるいは念と入ってもいいが)を送り、二人の戦闘に目を見張った。
「うおおお!ゴウキ覚悟しろ!その珠は意地でも返してもらう!」
「はは、なに兄さん本気になってるの〜?いくら兄さんの願いでもこれだけは渡せないな〜。なんてったって、シコン様の命令だからね〜」
「やはり、シコンの仕業か!なぜお前らは珠をほしがる!」
トウキがゴウキめがけて振るった腕は紙一重でかわされた。
「なんでって〜、あんま詳しくはしらないけどMBSをぶっ潰すのに必要だってシコン様は言ってたけどね〜、はは。兄さんもMBSなんかにいないでこっち側においでよ〜いまなら僕がシコン様に取り計らってあげるからさ〜」
「その、必要はいらねえ!大樹の長ククよ、我にそなたの力を宿せ、バラット・リーフ!」
トウキの唱えた直後周りの樹木の葉っぱがいっせいにゴウキめがけてまるで手裏剣の雨のように鋭利に降り注いでいった。しかし、ゴウキは微動だにもせずに巧みに葉っぱを避けてはいたが、かわしきれなくなって高く跳躍し俺に目をつけたらしく俺めがけて腰に巻いてあるチェーンをまるで鞭を操るかのように振り落としてきた。
「いけー、雷のチェーン協奏曲第二番、フラッシュ・ウィップ、はは」
「くそっ、避けろ、シルキ!」
トウキが怒鳴った。
バシッ!!
「ぐあっ!」
俺はもろにゴウキの技を避けようとした際に右手にくらいそのまま3、4メートル吹っ飛ばされた。
「シルキっ!くそ、ゴウキ、貴様!」
「な〜に、兄さんきれてるの、こんながき一人に〜。それにイラつくんだよね〜このがき。こんなに兄さんと仲良くしちゃってさ〜、はは。殺しちゃうよ〜、マジで」
「くそっ!いいかシルキよく聞け!お前は早く山を下りろここは俺が何とかする!」
「うぅ……。いいや、絶対作戦通りいく。俺は大丈夫だ……」
「な〜に、強がってるのかな〜?うるさいから今ぶっ潰してあげるよ〜。はは」
じりじりとゴウキは俺のもとへチェーンをぐるんぐるんと回しながら歩み寄ってきた。
くそっ、どうする……?今のままじゃ俺に勝ち目はない、少なくとも珠だけはうばわなければならない。くそ、手がしびれてうごかねぇ。俺が必死に思考をフル回転させていたら、
「させるか!ゴウキ、てめぇは俺の手で必ずぶちのめす!」
トウキがゴウキに突進しながらまたも拳を振るったがまたもやかわされてしまった。しかし、トウキはそれを見越してのことか俺に目で合図を訴えた。
俺は、合図の意味を察知し、術を唱えた、
「水神海女の神、水速転換!」
俺は、自分の筋肉を一時的に強化し人技を超える脚力を持って、油断したゴウキの右手から清流の珠を奪い取った。
「あっ!」
ゴウキは、少し驚いたがトウキの拳がすかさずゴウキめがけて殴られていくので、俺は背後をトウキに任せ山を下りていった。俺がそのまま駆け下りていく時にトウキが、
「シルキ!いいかっ、なにがあっても生き延びろ!いいかっ、生きるんだ!!」
と怒鳴った。
俺は、両目に薄く涙を浮かせながらも振り返ることなく山を下りていった。そして、ふもとで待機していた一般隊員たちに保護され、それから一週間以上も寝込んだようだ。その右手に清流の珠を放さないまま……。
ここでトウキの弟ゴウキの登場です。
兄弟でチルドレンという因果を負う二人ですが、彼らの過去はどういったものであったのか、それはまた後のお話となります。