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燃えた夏  作者: Karyu
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第百七十六話 結束の時、森羅死す

 目の前に森羅の姿が現れる。咄嗟に身を屈めて森羅の蔓による横薙ぎを避ける。

「へぇ。やっぱり僕も本気でいくよ」

「はじめっからそうしろ」

 地面に腕を沈め土塊を出す。そしてそれを森羅の足元へとぶつけるが避けられる。そして次の一瞬で俺の右腕が宙を彷徨った。

「まずは一本」

 俺の右腕が土塊を装着したままどさりと床に落ち、そして崩れる。

「?」

「後ろ、だよっ!」

 俺は両手の土塊で森羅の背中を叩く。

「くっ!」

 森羅が蔓を使って吹き飛ばされながら天井へと着地した。

「へぇ、土人形か。小細工ばっかりだね」

「それでお前が倒せるなら本望だ」

「生意気だね君」

「お前ほどじゃねぇよ」

「幻鏡樹木」

 森羅が術を唱える。そして俺は舞い弾ける蔓の猛打をくらって地面へ倒れた。

「ぐっ!」

 見えなかっただとっ!? 咄嗟に打ち身を使ったため何とか立ち上がる。

 くっ、右脚がやられた。隣の壁に左手を使って寄りかかる。

「どう?」

「燃えてくるな」

「そう、僕的には戦意喪失を期待してたんだけど。この明らかな戦力差にね」

「ほざけよ」

「そうするよ。幻鏡樹木」

 土塊を展開させる。見えないなら防ぎきるまで!

「無駄だよ」

 そう、森羅の言うとおり無駄だった。森羅の蔓は俺の土塊諸共ぶっ壊し俺は吹き飛ばされる。

「かはっ!」

 腹にもろに蔓を喰らう。ルネサンス専用スーツじゃなきゃ腹なんてもうねぇぞ、くそ。つえぇ。

「刈谷っ!」

 俺が入ってきた入り口のほうへと視線を向ける。

 そこには萱場を始め林果さん、静香、紅葉さん、そして西園寺さんの姿があった。萱場は西園寺さんを背負っている。息をしているところを見るとどうやら大丈夫みたいだ。

「遅かったな」

「勝手に負けてるからだよ」

「うるせぇ!」

 林果さんの皮肉を一蹴する。痛いところばっか狙いやがって、勝てねぇんだから仕方がないだろ!

「さあ、一暴れするか。桃は紅葉と一緒に西園寺を頼む」

「アイアイサー。頑張って綾夏ちゃんを助け出してきてね」

「頑張ってください、皆さん!」

「わかっています。覚悟しなさい森羅」

「あれ、多勢に無勢って奴かな、これ?」

 森羅があどけない態度を取る。

「多勢で一人をやっつけるってのは性じゃないが、覚悟してもらうぜ森羅」

 流騎が西園寺さんを林果さんに任せて俺の傍へと一瞬で近寄る。

「いいよ、何人でも。雑魚は雑魚だからね。いくら屯っても雑魚は雑魚のままなんだよ」

「それではその雑魚の強さをお教えいたしましょう」

 静香もいつの間にか俺の傍に来ていた。

「それでは参りますか」

 静香の目は本気だ。俺も見習わなきゃな。

「それじゃ、いくか」

 萱場がヒエロ・ランスを復元し、森羅の首元狙って横に一閃していた。

「あっぶないなー」

 それを余裕の表情で下に屈んでかわした森羅の頭上を狙って流騎がヒエロ・ランスを刺す。だがそれは森羅の蔓によって防がれる。

 そこに静香の遠距離攻撃用が森羅を直撃する。よろめきながら蔓を使ってガードした森羅は態勢を立て直す。俺は土塊で森羅を有無を言わせずに襲い掛かる。

「うっ!」

 森羅がまたもよろめく。そこに今度は萱場と静香が近接武器で応戦する。

 余裕をぶちまかしていた森羅の表情に苦渋が見え始めてきた。

「バーム・ダウン!」

 森羅が跳躍して静香の1打と萱場の一閃をかわし、蔓を俺たちに向けて放った。

 蔓はあらゆる角度から俺たちに迫り、俺はガードを取るしかできなかったが静香と萱場は蔓の軌道を見極め森羅へと攻撃を繰り出していた。

 すげぇな二人共。

 だったらここは俺はサポート役に回るか。

「地動震戒」

 両手を地面に付ける。森羅が足を固定している天井を揺らして足場を崩す。

「!?」 

 重力下に解き放たれた森羅はゆっくりと降下していき、タイミング良く二人の攻撃がクリーンヒットする。

「くはっ!」

 地面に背中から落下した森羅を俺たち三人が囲む。

「どうした、もう終わりか?」

 萱場が森羅を見下ろしながら言い放つ。

「なんで? どうして? 僕はこの世で一番強いはずなのに!」

 森羅が手も足も出せぬ状態と判った時点で勝敗は決していた。泣き崩れながら森羅は自分の両手を見つめ、震える。

「それはお前が仲間を信用してなかったからだろ」

 萱場が冷めた目で森羅を見る。

「そうですね。少しは闇千華と夢光明を見習って欲しいものです」

 静香が多少怒気の篭った声で宣言する。

「それじゃ早速木宮さんを返してもらおうか」

「くそっ、くそっ、くそっ!」

 森羅の体が緩やかにだが確実に消えていく。

「これで終わりですか。呆気が無さすぎます」

 静香は森羅に背中を向け、西園寺さんのほうへと歩を向ける。

「なんで、僕はこんな………ごめん、ごめん、みんな」

 森羅はそう呟き、消えていった。そして木宮さんが横たわったまま戻ってきた。

「さて、帰るか。これで任務終了だ」

「なんだか呆気なかったですね」

 静香が興味なさげに溜息まじりに呟く。確かに、そうだったかもしれない。これでチルドレンはもう生まれないんだな。

「でも森羅はここで何をしようとしてたんだ? なんだかでっけぇ石版みてぇのがあるけど」

 紅葉さんは木宮さんを看病する。そして静香が目を細めながら石版を見入る。

 そして、

「これは……!」

「どうした?」 

 萱場が欠伸をしながら振り返る。そういや、俺もねみぃな。

「この万里の長城の下に怪物が眠っています」

 静香の静謐な声が室内に響いた。



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