第百七十五話 神域、宇宙の彼方へ飛ばされた意識
体が宙に浮く。
意識も感覚もすべてが私のじゃないみたい。
妖精魔と戦ったときみたいな感じ……でも、今は一人。前みたいに流騎くんがいない。
「 」
言葉が出ない。息は、してるのかしてないのかがわからない。目も見えない。何もにおわない。ここはどこ?
寒い、段々寒くなっていく。あれ、何も感じないのに寒いって感じる。これは恐怖なの? 私は死んじゃうのかな?
意識が薄れていくのがわかる。心地よい眠りに誘われていく私の意識は地無き空間を彷徨う。このまま眠っちゃえばすべて終わるのかな? そうだといいな。
でもそんなことはいってちゃいけない。私は、みんなのために、森羅を倒さなきゃ。
「焔火・フレイムヘイズ」
今度は、声が出る。そして技も発動する。私の体を温かな光が包み込む。そして弾け、光が視界を照らす。
まだ宙に浮かんでいる感覚を振り切れずに私は周囲を確認する。そして驚く。
「ここは、宇宙?」
私は森羅の攻撃を受けて、ここにいるらしい。私を取り巻く空間は画像とかでしか見ることのできなかった宇宙。数々の星が煌き、重力の法則を守りながら無規則な惑星が輪を成していく。
「でもなんで私はこんな所に……」
これじゃ帰れない? そ、そんな……。私はここで終わるの?
私の瞳が揺れ、一滴の涙が宙を浮く。
「木宮さんっ!!」
俺の嫌な勘がマジで働きやがった! くそっ!
「森羅っ!!」
「もー、うるさいな。さっきから、本当にうるさい」
不機嫌そうに頬を膨らます森羅の顔は童顔でゴウキのことを思い出させる。
「木宮さんをどうした?」
「ああ、あの子なら宇宙の果てにとばしてあげたよ」
「なっ!?」
「あの子を取り戻したかったら僕を倒さないと無理だよ」
「ならそうするまでだっ!」
俺は土塊を発動させ森羅に疾走する。森羅も蔓のようなものをだして対抗する。幼い顔しやがってなんつー強さだよっ!
技と技がぶつかる時、それは相手の実力が一番わかる瞬間だ。相手が手加減しているのか本腰で勝負してきてるのかすべてが解る瞬間だ。
森羅は明らかに手を抜いている。それもワザと俺を試すかのように。いけすかねぇヤローだぜ!
「いいもんみしてやるぜ」
「いいねーやってみてよ」
「おらっ!」
土塊に化けていたオロチを解除し森羅に噛み付かせる。
「ぐっ!」
「ほら、まだまだいくぜっ!」
俺は徐徐にオロチの数を増やしていく。そして両手には二本ずつのオロチの首が定着する。オロチ達は俺の腕に絡み背中の異空間へと繋がっている。
「面白いね、それ」
「ああ、傑作だろ」
「でも僕にもできたりしたりして」
「なに?」
森羅の蔓が俺のオロチと同じ形態へと変形させる。そうか、疑似能力か。名前がたいそうな奴はすることもたいそうすぎるぜ。だが自分と同じ技との戦いは燃えるぜ!
「いいな、面白いぜお前!」
「君ちょっとうるさいよ」
俺は森羅へと躍り出る。だが一瞬にして吹き飛ばされる。
「なっ!?」
「僕が君みたいな奴に負けるとでも思った?」
「へえ、大した自信じゃねぇか」
さすがにこう何回も吹っ飛ばされちゃ体がもたねぇな。勝負は速攻かよ。
俺は立ち上がる。オロチが慌しく身体をくねらせる。
「どうした?」
『我、敵に匹敵せず。あやつは危険なる存在だ』
「ああ、だからぶっ潰す」
『我、主に問う。力とはなんぞや?』
「力はこういうときのためにつかうもんなんだよっ!!」
『我、主に従おう。命尽くすまで。新たなる技を伝授する』
「頼むぜっ!」
森羅に向かって蹴りを入れる。それを蔓の壁に遮られる。俺はつかさず土塊で壁を殴打する。木を叩くような重厚で乾いた衝撃音が弾け静寂が迎えられる。
「力だけはすごいね」
「それでお前をぶっ潰す!」
「させないよ。僕にはやるべきことがあるんだからね」
「ほざけよっ!」
縦横無尽に放たれる森羅の蔓をオロチが止め、俺は土塊で森羅を狙う。森羅の蔓でできたオロチはすぐに分散し俺の死角から襲いかかろうとする。
「少しは本気だしたらどうだ?」
「君相手に? 冗談を」
「ああ、そうかい!」
俺は残された二匹のオロチの内一匹を出現させずにその力を右の土塊に込めて森羅を蔓の壁ごと叩く。
「っ!?」
「みやがったか!」
「へぇ、なら君もさっきの子みたいに飛ばしてあげるよ」
「あんまし甘くみるんじゃねえよ」
「そんなつもりはないさ。それじゃあね土熊のチルドレン。ビッグ・バン」
森羅の正面に俺のオロチが出現するような異次元が出現する。
なるほど、木宮さんはあれに飲み込まれたって訳か。なら、俺たちもやるぜっ! いくぞ、オロチッ!!
『承知』
「森羅、とっておきのもん見せてやるぜ! ルミナス・ローム。光のみの清浄なる宇宙ってな」
オロチが砕け、そのまま光を帯びていく。粉々になった破片が凝縮し凝固し拡散する。それはまるで銀河のような神々しさを放っている。
一瞬驚いたような表情を森羅は浮かべ、次の瞬間それは笑みへと変わる。
「いくよ」
「きやがれっ!」
森羅のビッグ・バンと俺のルミナス・ロームが衝突しあう。室内は風が荒れ狂い、巨大な質量を持った技がぶつかりあい、消滅した。
「へぇ、僕のビッグ・バンを無干渉にしちゃうなんて。面白いね君。まさか夢光明の力まで受け継いでるなんて。チルドレンの可能性は無限大とかなのかな?」
森羅の奴は愉快に笑っている。
「ああ、俺たちはただお前らに振り回されてるような憐れなガキじゃねぇんだよ。好き勝手しやがって、お前らが何を企もうと俺はそれを阻止する」
「格好良いことばっかりだね。そんな奴、僕は好きじゃないな」
「専らお前に好かれたいなんておもってもねぇよ」
「そう」
森羅の目つきが変わる。俺も集中力を高める。この緊張感、高揚感、俺を狂おすぜ。
自然と笑みが零れた。