第百七十三話 漢の証、熱き闘志と拳の語る激昂
俺はオロチを呼び出し、技を発動させる。準備が整う。
俺はまたも土熊目掛けて拳を放つ、それに対抗するように土熊も拳をぶつける。俺は力負けして同じように後方へ吹き飛ぶ。右手の甲の骨辺りの皮が裂け血が弾ける。
「威勢が良すぎるな。ここまで力の強いチルドレンは初めてだぜ」
土熊は微笑を浮かべる。俺程ではないがあいつの拳も赤く腫れていた。
「へっ、黙れ。感心している暇があったらととと殺せよ。後悔するぜ」
「………はっはっは。面白い、面白いな、ガキ」
土熊が即座に俺の目前に迫り、その豪腕によって俺は粉々に砕け散る。
「いくぜっ!」
俺は土熊の背後をとっている。やつが今ぶっ壊したのは俺の土人形だ。
「オロチっ!」
俺の背後に仕える八本のオロチの首の内のふたつが土熊の頭部と首筋を噛み、そして砕いた。
「!?」
「俺の土人形だっ!」
激しい衝撃音が背中で炸裂する。咄嗟にガードしたオロチのお陰で俺は直撃を免れる。だが勢いは殺しきれなかったため俺は壁に向かって正面から突っこむ。しかしそれをオロチによって衝突を防ぐ。
「便利な技だな。だが俺にとってはやりやすいことには変わりない」
土熊が俺を上から見下ろす。どんだけでかいんだよこの男。
「へっ、そういうのは勝ってから言え」
俺は皮肉を欠かすことを忘れない。
俺の右脚が土熊のノーガードの脇腹に炸裂する。
「ぐっ! なに!?」
土熊はなんとか踏ん張り、俺と土熊は三角形を成すような位置づけとなった。
今、土熊の視界には二人の俺の姿が映っているはずだ。ま、もう一方が土人形なんだけどな。だが土熊は土人形という事実より、この土人形が存在していることに驚いてるはずだ。
土人形は土の能力を持つチルドレンなら誰でも使える。精巧なものは自分とそっくりの容姿と声を発する。敵の注視を弾くには有効な囮となる。
だが土人形は所詮土人形。単純な動作や言動を命令できるが、土でできているから脆い。なんせ即席で使った土を使うんだからな。だが俺の土人形はそんじゃそこらのとじゃ違うぜ。
俺の土人形は土熊の打撃を喰らっても崩れはしなかった。オロチが咄嗟にガードしたためでもあるが、土人形はチルドレンの能力を扱うことはできない。この土人形は俺じゃなくてオロチがつくってるんだからな。
「オロチ殺人封・八戒戮」
「なるほど。そのオロチとかいう蛇、自我を持ってるみたいだな」
「今更気付いても遅いってんだよ。いくぜっ!!」
俺の土人形が土熊向かって先行する。自分の分身を捨て駒にするのは後味わりぃがこいつに勝つためにはそれしかない。オロチ首二本に乗り、床を疾走する。
土熊は両手を背後の壁に捻じ込み、俺の土塊のように両手を石のアーマーで包み込んでぶつける。当然のように土人形は粉々に弾けたが、そこまで無鉄砲じゃないってこと魅せてやるぜっ!
粉々になった俺の土人形だったが八本の内の一本のオロチの首が未だ実体を有し土熊の左腕のアーマーに噛み付き爆発した。
ドンッ!!
爆音が辺りを揺るがす。俺は爆煙の中に突っ込み土熊の腹部へアッパーを土塊の状態で振り上げる。だがそれは予測されてたみたいだ。オロチでガードしたものの顔面向かって迫ってきた土熊の拳に俺は距離を取らざるを得なかった。
「小賢しいな」
「黙れよ」
「上等だ」
土熊が拳を合わせ、ガツンガツンと音を鳴らす。しかし左側のアーマーは所々損傷している。勝敗はすぐ決まるか。
「次の一発で決める」
「ああ、そうするか。一騎討ち、俺の若い頃の夢だった」
「どんだけおっさんだったんだよあんた」
「今も昔もそういわれるな」
「そうだろうな」
短いやり取りを終えた俺たちは気を高める。オロチ(残り七本)も呼応するように邪気が収束している気配が背後からぴんぴん伝わってくる。
ああ、そうだなオロチ。俺も燃えてきたぜ。
「蛇流昇天拳!」
とぐろを巻くように俺の右腕全に隊に絡みついたオロチを従え、俺は土熊に殴りかかる。
「衝流破撃拳!!」
対する土熊の両手に装着されたアーマーが膨張、俺に目掛けて拳が放たれる。
岩と岩のすさまじい衝突音が鈍くも激しい衝撃はを連動させる。
徐徐にひび割れていくオロチ、だがその目はまだ死んでねえ。俺も同じだぜ、こいつをぶったおす!
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
怒気を力に変換させて出す! 出し切る! 硬きは確かに土熊じゃなくて風花にあるだろう、だが由梨は、由梨はてめぇらオリジナルによってめちゃくちゃにされたんだっ!!
「ぐっ! ぐおおおぉぉぉぉ!!」
土熊の拳から伝ってくる力がでかくなっていく。けどな、俺も負けるわけにはいかねぇんだよっ!!
俺は高揚しきっていた。ここまで臨場感の味わえる戦場はねぇぜ!
しかし俺の意気込みに反するようにオロチの頭部が粉砕されていく。
「終わりだ、ガキ! いや秀明っ!!」
「それは俺の台詞だ! オロチィィィ!!!」
俺の腕を取り巻く残り二つのオロチの眼が赤く眼光を光らせる。オロチは開口し、中から眩い閃光が迸り、土熊に直撃、辺りを光が包み込んだ。
丁度その時、西園寺さんの技も発動したらしく、光が止むと空気が電気を帯びてピリピリと震動していた。
「ふぅ……。勝ったのか」
俺の眼前に土熊が石化状態となったまま動かない。一瞬安堵し、それに歩み寄り手を乗せる。そして異変に気が付いた。
『主よ、下だ』
オロチがそう言い切るや否や俺は上へと跳躍し、天井にへばりついた。俺がいた床からは土熊が飛び出してきていた。しかし奴の右腕は石化している。
「驚いたぜ、まさかここまでとはな」
「まだ生きてんのか……化けモンだな」
「それはお前にも言えることだ。来い」
土熊が構える。
俺は天井から一気に土熊に迫り、土塊に変形させたオロチをぶつける。それは一瞬の出来事だった。土熊の胸はことごとく粉砕されて彼方へと吹っ飛び壁に衝突した。
「「なっ!?」」
それは俺と土熊が同時に発した言葉だった。急に土熊が弱くなった?
「くっ、森羅、貴様っーーー!!!」
土熊の悲痛な叫びが空気を震撼させ、土熊の体が粒子となり消えていく。
「秀明」
「あ?」
「俺の代わりに森羅の野郎をブッ飛ばせ」
「言われなくてもそうするぜ。あばよ、おっさん」
「ふん、最期まで気に喰わないガキだったな、お前は」
「ほざけ」
「礼は言っておく…………風花」
その言葉を最後に土熊の気配は霧散し、気付けば風花のも消えていた。そして西園寺さんの気配も消えかけていく。
「くっ!」
俺は振り返り西園寺さんのもとへと駆ける。
「西園寺さん! 大丈夫かっ!?」
癒塊を施しながら、西園寺さんの頭を膝に乗せる。出血がやばい……。
「大丈夫か?」
「うん、私のことはいいから綾夏をお願い」
「だが―――」
「いいの、私は。お願い刈谷くん、綾夏を……」
西園寺さんの手が急速に冷えていくのがわかる。
「くっ!」
西園寺さんを残りの奴らに任せるしかないのか? くそっ!
「わかった。オロチを一匹置いていく」
「ありがと……」
「オロチ、療治土棺」
西園寺さんの傷口を覆うようにオロチの一部が付着し、西園寺さんの不完全の回復の技をカバーする。これで、なんとか時間は保つ。
「いいか、諦めるんじゃねぇぞ西園寺さん!」
「うん……」
西園寺さんの儚い笑みを残して俺は綾夏さんの後を追った。