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燃えた夏  作者: Karyu
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第百七十二話 風と雷、流される星屑の行方


「あら、あなたとは初めて会うわね」

「そうだね、私も風のオリジナルと会うのは初めてだよ」

「へぇ、あなた……楼雷のチルドレンね。うふふ、イジメがいがありそう♪」

「やれるものならやってみなよ。いくよっ!」

 刈谷くんは土のオリジナルと戦ってる。何気に押され気味っぽいけど手出ししたら怒られそうだし、それに私も自分の役割を果たさなきゃ。

 私は両掌に星型の手裏剣を出す。そしてそれを風花むけて放つ。でも風花はそれを緩やかな動作でかわす。いくら投げてもそれを優美なる自然な動きでかわす。

 それはまるで風のように掴みどころの無い動き。

「そんな小手先の技じゃ私を倒せませんよ♪」

 瞬時として風花が目の前に現れる。

「早いね」

「あら、見える?」

「うん。私の動きは光の速さってね」

 私を見えない風の刃で切り裂く風花、でもそこに私の実態はなくただの残像。私は風花の背後に回っていた。

「星鋸!」

 星型の巨大手裏剣を手の甲辺りで回転させながら風花の背後を斬る。星鋸でも、そこに風花はいなかった。風花の体は風のようになんの手応えもなく、私の星鋸が名前の通り空を裂く。

 そして背後に気配。私は後ろを振り向くと同時に右手の星鋸を振るう。

「あら、やるわね♪」

 私の星鋸を風花の実体無き刃が受け止める。不可視の刃はカマイタチを生んでいるのか、私の手は見えない風によって切り刻まれていく。

「うっ!」

「ほらほら、うふふふふ♪」

 私は風花のほうへ一歩踏み出す。そして両手の星鋸を交差させる。

「あら、大胆ね♪」

 風花は私から距離を取る。私は星鋸を更に巨大化させる。その直径は一メートル半に及ぶ。ほとんど私の身長ぐらいなんだよね。扱いにくいけど一番強力なんだよね。

「あらら、触ったら切れそうね」

「切れるだけじゃないんだけどね」

 私は雷光を使って足の速度を上げる。一瞬にして風花の背後を取る。

「いっけー」

「あら、間に合わない」

 私の星鋸が風花の実体を斬る。でも手応えがいまいち感じ取れない。私の技が相殺された? さすがオリジナルだね。

「やっぱり、森羅は身勝手よね。力が出ないじゃない」

 ? なにを言ってるのかな? 力が出ないんだったら好都合。

「それじゃ、いくよっ!」

「でもさすがに遊びもこれまでね」

「え?」

 私の視界が動転する。無数の風に吹き巻かれ私は宙に浮かぶ。そして、カマイタチによる攻撃を私は全方向から受ける。私の両手の星鋸は多少のカマイタチを防ぐものの風による攻撃は物体を避けて目的を狙う。

「くっ……。はっ………!」

 私は地面に音なく倒れる。全身を切り刻んだ傷から血が滲んで溢れ出す。血が、無くなる……。

「星霜の憂い、加護の慰輝」

 私は傷口を焼いて止血する。そして皮膚が徐徐に癒着を開始する。でも失われた血は戻らない。軽い目眩を覚えながらも立ち上がる。

「あら、まだ立てるの?」

「あはは、私そんなに脆くないんだよね」

「そう。じゃあ次で楽にしてあげるわ♪」

「そうはいかないよ」

 私は意識をなんとか保ちながら、術を唱えて体の細胞から力を搾り出す。

「銀雷白き波乱、瞬電の舞い!」

 勝負は一瞬で着いた。

 私を襲った不可視のカマイタチは私の体を更に深く抉っていた。でも倒れたのは私じゃなくて風花の方だった。

「なんで?」

 風花のか細い声が伝わる。良かった、技は効いたみたい。

 私が星鋸を使ったのはただ切る為だけじゃない。無数の星の粒子を星鋸から散布させてたんだから。それはさっき私が放った技に呼応するように設定されている。

 詳しく説明すると私の使った技は広範囲を包み込む雷電攻撃。それはこんな室内で使うと私も攻撃を受けちゃうけど私が散布した小さな星はそれをある特定させた場所に集中する。だから風花が立っていた場所には普通の人間が即死するほどの電撃の痕が見え、辺りは焦げている。

 そして驚いたことに風花の姿が段々と透けていく。でも私にできることは目を見開くことぐらい。もう、立てる力も出ないや。なんとか止血は済んだけどこれじゃ後どのくらい持つのかな?

「あらら、私ももう逝っちゃうのね。楽しかったのかな、私の人生は? あ、まだ名前聞いてなかったわね。教えてくれる?」

 風花の目が私を見つめる。私は口を動かす。でも言葉が出ない。

「そう、未来ちゃんって言うの。ごめんね、痛かった? でも未来ちゃんなら大丈夫ねこのぐらいのことじゃ死なないわあなたは。芯がとっても強そうだから♪」

 霞んでいく視界の中で風のオリジナル、風花は微笑し目を閉じる。私の視界も次第に暗闇へと暗転していく。

「じゃあね。それとありがとう。私を。私達を枷から解放してくれて」

 暗くなった視界の外で風花の優しい声が鼓膜を震わす。

 そして風花の気配が消える。

 私の意識は糸のように細くなっていく。いつ切れてもおかしくはない。私の人生、充実してたのかな?

 こうやって、オリジナルを倒せたことで世界は救われるのかな? 駄目だな、私。柄にもないこと考えちゃって。でも脳はそんなことしか考えさせてくれない。

 私がチルドレンになったのは中学生の時。

 その力を楼雷からもらった時、私の力は暴走した。そしてそれを治めてくれたのがシコン様だった。今思えば、どうして助けてくれたんだろう?

 そうして私はリベリオンに入った。そしてその頃から私は世界から身を離すことにした。それで丁度出会ったのが綾夏だったんだよね……。

 人と違った力を手に入れた私は行き場を失っていた。だからちょくちょく学校もいかずにぶらぶらしてたときに私とは違う意味でみんなとは違う立場にいた綾夏と出会ったんだよね。

 ああ、駄目だ。意識が遠のいていくのがわかる。体を巡る血液が冷えていく体温を温めようとしてくるのがわかる。これが生きてるってことなんだろうな。それが終わろうとしてる。やだな、私まだ死にたくないよ。死にたくないっ……。

 でもそんな私の想いを聞き届けてくれない体はどんどん生気を遠のけさせていく。

「あぁ、死んじゃうんだ……私」

 遠のいていく私の意識の中で、耳に届く音が私の意識を引っ張る。

「西園寺さん! 大丈夫かっ!?」

 そう、それは刈谷くんの叫び声だった。



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