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燃えた夏  作者: Karyu
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第百七十一話 祖から孫へ、託される信念


「ありがとう、夢光明」

「お爺様、お婆様は……」

「ああ、わかっている」

 闇千華は私の頭に手を乗せ、オリジナルにもかかわらず手の温もりが伝わってきました。

「静香、お前は誰が為に闘う?」

 三度目の問いかけ……。ですが、私の答えは未だ出てきません。

「私は……」

「そうか……だがそれで良いのだ。お前には真実を伝える必要がある、わかったな?」

「はい」

 私は座りながら闇千華を見上げます。

「我々の力は弱くなっている。それもこれも森羅が原因なのだがな」

「森羅……森のオリジナルですか?」

「ああ、森羅は我々の力を吸い取ってしまった」

「え?」

「森羅を止めるのだ、静香。あやつはここで何かをなそうとしている。それを止めなければ世界は終わる」

「っ……!」

「世界は常に変わり行くものだ、そしてこの瞬間も一人の男によって世界が変わろうとしている」

「はい……」

「だがな、己の信念は変わることが無い。たとえ世界を変革するものでもその信念は正しいのだ。良いか、信念を抱いたら決して諦めるな」

「はい」

「頼んだぞ……。これで我々の信念も叶った」

 闇千華はその場にしゃがみこみ、胸を押さえて息苦しそうに呟きました。

「お爺様っ!」

「久しぶりに無茶をしたかもしれんな……悪い気はしない、しないな。この世界、お前達チルドレンに託す」

 淡い光を発しながら闇千華は消えていきます。段々と体は透けていき、闇千華は私の頬にその手を乗せ、消失しました。

「お爺様、お婆様……わかりました。私は闘います、信念が指し示す未来(みち)を信じて」

 辺りを闇が包みます。私の力では闇を凝縮、拡散できても光を生み出すことはもう叶いません。ですが闇の中でも私にはすべてが見えます。

 私は立ち上がり、歩き出します。

 森の力を有するオリジナル森羅……彼はこの戦いで何を想い抱き、何を遂げようとしているのでしょうか?

「私は誰が為に闘い、戦うのでしょうか?」

 自問し、答えは出ません。誰が為……双考えると秀明の姿が思い浮かびます。でもそれは違う……私は秀明の為に闘いません。それは秀明も一緒でしょう。そして気付きます。

「私達は己と闘い、誰かを守る為に戦う……」

 そう、それは矛盾しているようで心髄の真実。己を鍛え、その力を誰かの為に行使する。それが私を支える信念なのでしょうね。

 私の歩は次第に力を強め、秀明達の方へと急ぎます。知らず知らずの内に私は走っていました。


「後三人か」

 俺は走りながら呟き、隣からも声が上がる。

「うん、そうだね。みんなを信じるしかないからね」

「うん」

 西園寺さんと木宮さんは口早にそう答え、何百メートルと続く廊下の先に入り口が見える。さすが万里の長城だけあって長いな……。

 俺は疾走しながらも一つ前の部屋を託してきた静香のことが気がかりだった。いくら身内だろうと、向こうはオリジナル……俺たちチルドレンは対抗しなけりゃならない。

 それに静香は二人ものオリジナルを相手にしなきゃいけない……心配だ。静香を信じないとかじゃなく、心配だ。

「おっ、きやがったぜ」

 ドスの効いた声が俺にぶつけられる。見ると俺たちはまたもや同じような部屋に到着した。中央には二人のオリジナル。

土熊(どばく)風花(ふうか)!」

 俺は叫んでいた。

「あら、刈谷秀明くんじゃな~い♪」

「ふん、あの時のガキか」

 どうやらこの二人は以前遭った時と変わらないみたいだな。けどどこかしら疲れているような印象がある……。

「ここは刈谷くんと私で相手しなきゃないみたいだね」

 西園寺さんがそう言い俺の隣にやってくる。

「ああ。木宮さん、頼んだぜ」

「うん。二人共頑張って」

「大丈夫だよ、私が負けるなんてありえないしー」

「俺も負ける気はそうそうねぇぜ。燃えてくるぜ!」

 俺は意識を集中させる……その先にいるのは俺をチルドレンにした土熊と由梨をチルドレンに変えた風花。体からは怒りが漲ってくる。

「行くぞ、西園寺さん」

「まっかせなさい。それじゃごついほうは任せるね」

「ああ、あいつは俺がぶったおす!」

 木宮さんはすでに気配を殺して奥へと進んでいった。どうやらオリジナル達は本格的に俺たちを足止めする気はないようだ。

「威勢のいいガキ共だ。やっぱりお前は器が違ったな秀明。俺はこの日を楽しみしていたぜ」

「ふん、由梨の仇……ここで取ってやるぜ!!」

 俺は両手に土塊を復元させ、土熊に迫る。土熊は余裕の篭った笑みで俺の土塊の攻撃を受け止めた。

「ぐっ、結構やるじゃないか、ふんっ!!」

 俺はそのまま土熊の腕力の言うがままに振り回され吹き飛ばされる。俺は壁に足から着地して、そのまま駆ける。力だと土熊には敵いそうにないな。だが負けるわけにはいかねぇんだよっ!

 俺は壁を蹴り、右拳を土熊向けて放つ。それも土熊により止められる。

「まだまだっ!」

 土熊は拳を俺の土塊へと向け、激しい衝撃音が響く。鈍音が鳴る、手に直に土熊のパンチの威力が伝わってくる。

「くっ!」

「ふんっ!!」

 俺の土塊は砕け、力負けした俺はまたもとばされる。今度は受身も取れず壁に背中からぶつかる。右手は赤く腫れ、土熊の大きな拳は健在していた。へっ、やっぱ力じゃ勝てねぇか。俺の背中は未だ痺れている。背骨に直接の打撃は避けるべきだったな。

「オロチ、大地の癒塊」

 土熊は右手を開き、閉じ、ぶらぶらとさせる。ちょっと効いたみてぇだな。なら勝機はある。

「ふぅ、見ないうちに成長するんだな。ガキってのは育つのが早いな」

「あぁ、ガキはつえぇんだよ」

「ふっ、一丁前にものを言うな」

 土熊の左拳が俺の左頬を殴る。

「ぐっ!!」

 俺は右へと吹っ飛び、部屋の隅まで追いやられた。

 へっ、やっと体が動きだすぜ。俺は立ち上がりオロチを呼び起こした。



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