第百七十話 闇と光の生み出す輝石、そして失われた輝き
「なぁ、静香。俺たちは生き残れるのか?」
「秀明、昔も同じことを聞いてきましたよね」
秀明が私の隣で尋ねてきます。
「あぁ、俺はそういう勘働かねぇから」
「そういうものでもないですけどね。でも勝機は充分にあります」
「そうか」
秀明は考え込むような視線で廊下へと顔を向けます。
「どうかしました?」
「うーん、静香の言葉を信じたいんだけど、何か妙なことが起こりそうな気が……」
「さっき、そういう類の勘は働かないといってたじゃないですか」
「うーん、でもな……何かありそうだ」
「そうですか」
私は視線を廊下の先へと戻します。
「未来さんも綾夏さんも大丈夫ですか?」
「うん、私は全然。青海ちゃんのことが気がかりだけど」
未来さんが心配げに一旦後ろを振り返ります。
「そうだね、流騎くんも桃ちゃんもどうしてるんだろう……」
綾夏さんも同様に後ろを振り返ります。ですがかなり進んできたため戦況を確かめることはできません。
「私達にできることは早決にオリジナル達を倒し、援護に向かうことです」
私はそう告げます。それが今一番効率的な方法です。
そうして、この中で二回通った同じように開けた部屋に辿り着きました。
「来たか」
「そうですね」
暗い室内には二人の人間の気配……それは私にとってとても馴染みのある声。
「お爺様にお婆様」
「静香、今なんて?」
「私の祖父母です」
「え?」
秀明が部屋の中央に位置する二人を目視します。
「皆さん、先を急いでください。ここは私が押さえます」
「しかし静香、相手は二人だぞ? それにお前は光の力を俺に―――」
「大丈夫です。未来さん、綾夏さん、秀明を頼みます」
「うん、わかった。頑張ってね静香ちゃん!」
「頑張って! ほら、秀明くん、行くよっ!」
「が、頑張れよ、静香っ!」
私を除く三人が先を急いでいきます。祖父母であるオリジナルは私しか見ていないのか秀明達が通り過ぎていくのを無視するように無言で立っています。二人の容姿は二十代、私が以前写真で拝見したのと同じでした。
「お爺様、お婆様……」
私は手を胸のあたりで丸めます。そして一歩近付こうとするとお爺様が手を差し出しました。その手は開き、まるで私を遠ざけようとするかのように。
「静香、お前は我々の敵だ。いくら孫でも容赦はしない」
お爺様、闇千華が暗闇の中でそう口を開いたのが見えました。
「そうですね、いずれこうなるとは思っていましたが残念です」
お婆様の夢光明も次いで告げます。
「な、なにをいわれているのですか?」
私をあんなに愛でてくださった方々が私を拒絶しました。これは、私が越えなければならない未来なのでしょうか? でしたら私は打ち壊すのみです。
「来るか」
「来ますね」
「参ります。惑わしのフローラ」
私は能力を駆使し、敵二人の視力を奪おうと試みましたがそこまで甘くはないようです。夢光明が出現させた光を帯びた剣で私の黒い花弁を切り刻み、中央突破するかのように闇千華が私に迫ります。
私は体を急旋回させて突進をかわし、能力を発動させます。
「幻影の双剣、シャドークロー」
私の両手に影が纏い、それは大きな爪のような形を保っています。
「はっ!」
夢光明の斬撃を受け流しつつ、闇千華による闘撃をかわします。二人相手はきついですね。ですが、これではっきりしたことは一つ。この二人は本気で私を潰そうとしていることです。
「くっ!」
二人による連携攻撃に耐え切れなくなり、後方に吹き飛ばされます。幸いにも体に外傷は残りませんでしたが両手両腕が痺れてくるのがわかります。
「静香よ、お前はなぜ闘う? 己のためか、それとも」
「誰かのため?」
私はよろよろと立ち上がって、二人を見据えます。
「私は自分と他の皆さんの為、闘います」
そう断言すると闇千華が目を閉じ、夢光明も同じ表情をつくります。
「「それではお前は我々には勝てない」」
「いえ、勝ちます」
私はシャドー・クローを解除し新たな能力を発動させます。
「黒智の嬰槍」
言うなれば隊長の技みたいなものですね。黒色の長い槍が私の手中に握られます。
「お前は誰が為に闘う!?」
闇千華は猛攻を繰り出しつつまたも同じ質問を問いかけてきます。
「私はっ……!」
言い返そうとして、言葉が詰まります。私は、誰の為に闘うのでしょうか?
「うっ!」
闇千華と夢光明のコンボ技に錯乱された私は夢光明の放った光の帯に吹き飛ばされました。
「くっ……。闇からの終焉……閻魔の地雷」
私は賭けに出ることにします。この技は数秒後にどこかで爆発が荒れ狂います。それが誰を襲うのかわかりません。
「そこまでの覚悟があるのなら、良いだろう。夢光明」
「はい」
夢光明が私と闇千華の間に割って入り、唱えました。
「光が照らすのは闇、そして収束する闇は光の中に消える」
夢光明がそう唱えると同時に私の発動した技が掌握されてしまいました。そして、はじけたのです……それも夢光明自身に。
「お婆様!!」
「来る出ない静香。これが我々の道なのだ」
「え?」
闇千華は爆発した夢光明を抱きかかえ、床に寝かせます。
「闇千華、それではちゃんとお話してくださいね」
「ああ、わかった」
「静香、いらっしゃい」
夢光明が私を傍へと誘います。私は衝動に任せてお婆様の隣に座り込みます。
「静香、生きるのです。頑張ってくださいね。それとあの男の人とも幸せにね」
「お婆様……」
「それでは、闇千華」
「ああ、わかった。私もすぐ逝く」
「はい」
夢光明は静かに目を閉じ、消えていきました。