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燃えた夏  作者: Karyu
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第百六十八話 隠される思考、交わらず並行する想い


 私の電雷丸は楼雷の胸を貫通し、矢先が楼雷の背中からのびている。

 でも楼雷は満面の残虐的な笑みを浮かべている。私はその顔を見て、全てを理解した。というよりも全身が震え、痺れる。

 私は電雷丸を手放して後ろへと下がる。下がったと思った。でもそれは楼雷の拳が私を後ろへと吹き飛ばしていたのだ。

「はっはっは。俺が死を恐れると思ったか? 俺は死にたくて死にたくてしょうがなかったぜっ! だがただ死ぬだけじゃねぇ、俺が目をつけた俺よりも強い奴を道連れにする!」

 矛盾している……呆ける視界の中でなんとか意識を保ちながらそう考える。楼雷は死を誰よりも恐れているからこそ、こんなことをしてのける。自分の力の絶対的強さに反比例するように生み出される抑え切れない恐怖が楼雷の倫理感を麻痺させている。

 ゆっくりと楼雷が電雷丸を胸から抜きさして私に向ける。私は後ろの壁を支えに立ち上がり戦闘態勢へと移る。

「いいぜ、いいぜ、いいぜっ! さあ楽しませてくれよ! 俺を殺してくれよ! はっはっはぜってぇ勝ってやるぜ」

 私は楼雷の眼を直視して思考を読み取る。読み取ろうとしたら私の脳内で閃光が走った。

「っ!?」

 楼雷の頭の中はショートしている、そう私の脳が読み取った。オリジナルである彼らの頭が制御されていない? 自我を保てていないの? それとも別の何かが? 

 私は前方で甲高く声無き声で嗤う楼雷を視界に捉えつつ思考を巡らす。そう、私が楼雷にチルドレンにされた日のことを。あの時の楼雷はどこらにでもいそうな今風の若人だった……当時幼稚園生だった私は何の勘繰りもせずに楼雷から力を受け継いだ。そして当時から気味嫌われていた私はその日を境に自分の能力が制御できなくなりMBSに保護された。そして今に至る。その間に楼雷にあったこともみかけたことすらなかった。

 でも明らかに今の楼雷には正常な思考力の作動が見受けられない。オリジナル達の中でも問題が生じてるってことなのかな? そうであれば私はここで倒されるわけにはいかない。

「春雷、華白天拳」

 バチバチと音を立てながら両手の掌に二つの電気の球が生み出される。電気の球は段々と大きくなりボーリングの球ほどの大きさとなった。

 私は楼雷向かって駆ける。そして片手を振るう。

ヒュッ

 空を切る音が楼雷のすぐ横で鳴る。続けては左アッパーを繰り出すもそれもまた交わされる。

 そんな、楼雷の行動は読みきってるはずなのにっ!

「いい動きだな林果桃! 相手の思考を読み取る生来の能力っ!! お前こそが俺を殺してくれる唯一のチルドレンだと思ってたがどうやら思い違いのようだなっ! はっはーーー!!」

 楼雷の一蹴が私の脇腹を捉えて体は横へと飛ばされる。体が壁にぶつかって体全身が軋む。

「うっ……」

 私の能力が見破られていた……? なら、楼雷は私の攻撃をわざと受けた? 謎が謎を呼び楼雷の存在そのものが謎に包まれる。彼は一体、誰なのか? オリジナルなのか? それとも楼雷という人間なのか? でも楼雷という名前自体謎に満ちている。

「やれやれだな林果桃。俺には思考を読み取る能力はないが、自分の思考を抑えることはできる。例えば狂気の念を抱いたりしてな」

「じゃあ、さっきのは全部演技だったってこと?」

「そういうことだが、アレも俺の一部だな。さあ時間稼ぎはいいだろう、そろそろ決着をつけようか、林果桃」

 悠然と歩みよる楼雷は今までとは違う人格でゆったりとした足取りを私に向けてくる。絶望的だ。彼に太刀打ちできる技はあるにはある……でもそれを使うことを私の防衛本能が阻止する。でもこのままじゃっ……。

「生きとし生けるのはチルドレンもオリジナルも一緒。なんら一般人と変わらない。ただ違うのは自覚と体質の差、なのに俺たちは疎外されるべき存在なんだ。それはどうしてだろうな? 同じ人間なのに、人間じゃない。それは俺でもさすがにわからねぇ。なら俺は俺の生き方を全うする。話が長くなった。さぁ、楽しませてくれよ。お前の血を浴びるのが俺の楽しみだった」

 楼雷の思考は私と類似するものがある。私も狂気じみた感情を持つことがある……でも私と楼雷の思考性は決して交わることはない。なぜなら私は私なんだから。

「やれるもんならやってみたらいいじゃない」

「ああ、そうさせてもらう」

 楼雷が電雷丸を上に掲げて、地面に腰をつき背中を壁に寄りかからせている私に振り下ろされる。私はでも恐怖することなくただ死を受け止めようとした。

 でも私はまだ必要とされているみたい。それは神の悪戯なのか、それとも運命という名の絶対性なのか。振り下ろされた電雷丸は飛来した水の球によって弾き飛ばされた。

「?」

 ゆっくりと視線を水が飛来してきた方向へと向ける楼雷。私もそれに倣う。

「待たせたな桃」

「流騎……」

「ん? 流水香がやられたのか……人妻のくせにはイイ女だったのにな」

 楼雷は仲間の、同じオリジナルの死に何も感じていないのかな? でも、楼雷の眼には微かな動揺が見えた。歪みきっている……この人は、とても悲しい。

 流騎の更なる追撃をかわして私から距離を取る。流騎に助けられながら私も立ち上がる。

「大丈夫か桃?」

「うん、ありがとう」

 流騎の眼を見る。さっきまでの戦いの様子と流水香とのやりとりを知る。

「流騎、大丈夫なの?」

「ああ。それよりもまずはあいつを倒すぞ」

「わかった」

 流騎の眼を通して作戦の内容をも知る。

「いくぞっ!」

「うん!!」

 流騎がヒエロ・ランスを繰り出して楼雷へと牽制の攻撃をしている間、私は電雷丸を拾って下段に構え、駆ける。

「いいねえ、いいねぇ! お前なら俺を殺してくれるかも知れなぇな!! でも俺が殺してやるけどなっ!!」

 またも楼雷が元に戻った。でももうそんな演技に惑わされるわけにはいかない。

「たぁっ!!」

 流騎の突きを楼雷はまたも正面から受け止める。

「流騎、そのまま!」

「ああ、わかってる!!」

「さすがに、二度目はうまくいかないか………っ!?」

 楼雷は動かない、流騎も更に動きを止める。でも今止まるわけにはいかない。

「たぁっ!」

 私は電雷丸をそのまま楼雷の体を斜めに沿って切り上げる。

「ぐっ……」

 楼雷は膝から崩れる。

 私と流騎は一旦距離を取る。

「なぜだっ!? なんで、邪魔すんだ馬鹿野郎……ぐっ……これが俺の血かよ。いまやっと気付かされるなんて俺もとんだ馬鹿だ。バカヤローだぜ」

 楼雷の顔には皮肉げな自嘲じみた笑みを浮かべて自分の掌に付着した血を見つめている。その姿はまるで捨てられた犬のように折れた忠誠心をどこに向けて良いのかわからずに彷徨っているように見える。

「いいぜ、わかった。林果桃にそこの男、行っていいぜ……俺もそろそろ消える。最後に林果桃、教えといてやる。自分の能力を頼り過ぎないことだな。くっ、やっと死ねるのか。長かったな……俺はやっと自由を手に入れたのか? なあ、教えてくれよ、り……ん………―――」

 楼雷はどこか遠くを見上げるように天井を仰ぎ、ゆっくりと目を閉じ細かい分子となって消えていった。



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