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燃えた夏  作者: Karyu
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第十六話 流騎の過去(1)


 ここは鳥取MBS本部の俺たちの部署で一応管轄としてはオーパーツと呼ばれる世界に例のない特殊な武器、道具を管理、保管、捕獲する部である。


この部署にはチルドレンである隊員が俺とトウキをあわせて六人ほどいる。しかし最近は仕事の量がとことん多く、部署でのんびり過ごせるのは待機期間のみである。しかし待機中でもトウキの下についてる俺は休まされることはない。


一応勤務時間内は皆がMBS御用達のスーツを着ている。スーツは一年中を通し黒いのだが中身に防弾チョッキ、サバイバルキット用のサイドポケット、銃弾保管用のポケットなどなどがついているためスーツというよりも軍隊で使う長袖付のベストといったほうがわかりやすいかもしれない。


一応MBS全隊員には銃二丁までが支給されてはいるがほとんどのチルドレンメンバーは銃を使うものもいるが専ら自分の能力に合わせて独自の武器やら小道具を携帯しているため一般隊員との見分けが容易である。


ちなみに俺は銃は持ってはいたがまだ銃の反動に手と腕の骨が耐え切れないため普通の銃と外見が同じの水鉄砲二丁を腰につけていた。


水鉄砲といっても市販でよく見るプラスキック製のものではない。ここ鳥取MBS本部をとり囲う五つの棟の内の一つである様々な研究を管轄する棟の開発班から受け取ったものだ。


その開発班の一人である水のチルドレンのナギサによって作り出されたこの特性鉄砲に弾は装填されない。なぜなら俺の能力に沿うようにこの銃は大気中の水素と酸素を銃の中で分解し、水を時速3000kmの速さで撃ち出すからだ。


「おーい、シルキ。今日のメニューはこなしたか?うさぎ跳び姿勢で一時間耐えるやつ?」


「今、やってるところだよ……。くそっ、足が痺れてきた……。後5、6分で終わる」


「おお、そうか。それは、残念だったな」


「なにが残念なんだよっ……!」


俺は、脚の痺れに耐えながらもあと少しで開放されるため必死に言葉を返した。


「なにがって、そらっ!」


トウキは俺の足めがけてローキックを仕掛け、ものの見事に俺は脚をすくわれ床に尻がついた。


「うおっ!……な、なにすんだよ!」


「プラス一時間な。んじゃ、俺は寝てくるから終わったら起こせよ。ははははは」


と言い残し、早々と自分の机に戻り深々と自分の席に腰を下ろし眠り始めた。


「くそっ!この、髭親父……!」


俺は歯を食いしばりながらきっかり一時間の練習を終えてトウキに借りを返すため寝ぼけ面に踵落としを食らわしておいた。


なにやら後ろでうめき声が聞こえたが俺はかまわず食堂に向かった。いい気味だ……。


 食堂に着くとなぜかその日はいつも以上に賑わっていた。そういえば今日は月に一度のハッスル丼大会だったな……。いい大人があんなにむきになって、見苦しい。


 ハッスル丼大会とは月に一度、食堂の長、雷紋長助さんの作るたった一つの極上絶品の月替わりのどんぶりを勝ち取るためにジャンケン大会を名目を変えて催しているものだ。


まあ、ひとつ変わっているのは一月前に行われた大会の勝者は大会に出られないということである。


俺は、大会に出たことはなかったがMBSに入ったときに雷紋さんにハッスル丼作ってもらい、この世とは思えないおいしさで正に頬の落ちるほどの味であった。


 それ以来、俺は天下のジャンケン敗者で負けは見えているのでいつもどおり日替わりのZ定食を頼んで食べた。今日のメニューは洋食でふわふわのいま話題の半熟オムレツの載ったオムライスと青野菜サラダにマッシュルームポタージュであった。


 腹ごしらえを終え、自分の部署に戻ったのだがトウキの姿がなくあったのは、俺が踵落としで少し壊れかけていたトウキの机のみであった。


そこで俺は自分の机に腰を下ろし、ただただ待機していただけであった。しかし約十分後にカゲフミからの命令で総司令室に呼ばれ行ってみたらおでこに絆創膏をつけたトウキの姿があった。


俺が部屋に入ると、


「おいシルキ、この借りは必ず返すから覚えてろよ」


トウキは俺を睨みながら吐き捨てたが俺はもちろん無視してカゲフミに用件を聞いた。


「それで、今回の任務は?」


「ああ、お前たち二人には広島の比婆山にある縄文時代に作られたといわれる神の社に奉られている清流の珠の入手を頼みたい。最近シコンら他のリベリオンたちが動き出し、日本中に奉られている縄文時代の珠を集めているとの情報があった。珠はすべてで8個、そのうち4つはリベリオンにとられ2つはこちらで管理している。その2つはいま先ほどハガネとトーチの二人が入手して来た。そこで、お前たちにはこの清流の珠を持ってきてもらいたい。これらの珠はいま科学班が分析しているがチルドレンの力を高める能力があるらしい。その為、できるだけこちらもリベリオンよりもなるべく早く入手する必要がある。では、よろしく頼むぞ」


「わかった」


「了解」


 と、俺とトウキが部屋を出た後、俺たちはすぐさま広島へ向かうため本部を出た。


そして一般隊員に送られながら米子駅へと向かった。


「なあ、シルキ。ここに広島までの電車代があるんだが、この金額からすると一般車両で行くしかなくなる」


「それでいいだろ」


「いや、俺はよくない。そこでだ、俺は二人分の電車代でグリーンシートの席をひとつ買う」


「……?そしたら一人しか乗れないぞ」


「ああ、だからシルキ、お前は自分の足で広島へ行け」


「はっ?おい、ちょっと待てトウキ。なんで、俺がっ……」


と俺が反論するよりも早く、トウキが、


「当たり前だろ、経費削減のため二人分の席は買えない。お前はランニングでトレーニングできる、俺は快適に広島までいける、一石二鳥じゃないか。よし、決まりだな。それじゃ、早速俺は行くからじゃあな」


と、あっさり言い捨てて自分だけ足はやに駅へと向かってしまった。


MBS用の車もこの後任務がありまわさなければならないので使うことができなかった。


「くそ、やっぱりあの蹴りのことを根に持っている……。仕方がない、俺はヒッチハイクで行くか。誰が走って広島まで行くか、つくまでに五回は死ぬぞ」


 そして、難なくいろいろな人に乗せてもらい広島についたときにはトウキはもうすでに到着していて幸せそうな顔で牡蠣ラーメンを食べていた。いったい、どんな味覚をしているんだ、あいつは。


「おい、トウキ……お前なに幸せそうな顔してラーメン食ってんだよ!早く任務に行くぞっ!!」


俺は肩で息をしながら吐き捨てた。


「なあ、シルキよ。なぜお前は俺より年下、ちび、後輩、部下、ばかのくせにそこまで俺にため口で話せる?もう少し俺を上官らしく敬ったらどうだ?」


「ばかは余計だ。それに、お前に尊敬語やら丁寧語なんて使ったら俺の立場がなくなるだろ」


「うむ、まあそうだな。俺からしてみてもお前に敬語で話されたら気色悪いからな。それじゃ、シルキここの御代よろしく」


と、さっさとまた足早に席から立ち上がり駅のホームを出て行った。


「おい、トウキ!払ってから出て行けっ……くそっ。お勘定いくらですか?」


「二千円だぜ坊主」


「げっ、二千円!俺の後一週間分の生活費が……。トウキめ、殺すっ!」


俺は二千円札一枚を忌まわしい空のラーメン容器の横にたたきつけてトウキの後を追った。




 そして俺の一方的なトウキへの責めは目的の比婆山に着くまで続いたが、トウキのやつはまったく耳を傾けず自分の世界にのめりこんでいた。


 トウキ。本名、近藤兜貴は彫りの深い顔立ちに黒柳色の長髪を腰まで流し、まったく不釣合いなリボンひとつでまとめていた。肌は日に焼けたような褐色ではあったがもともとから黒いらしい。目はなぜか日本人であるはずなのだがダークグリーンで、顔立ちは全体的に引き締まっていた。


 ようやく比婆山のふもとに到着したときいっせいに野鳥たちが山の森林から飛び出した。そして、いやな予感を覚えた俺たちふたりは急いで山の傾斜を駆け上がった。



流騎の過去編です。

流騎が多少しっかりしている部分があるのはトウキのことを見ていたからでしょうか。きっとそうかもですね……。

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