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燃えた夏  作者: Karyu
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第百六十六話 明かされる真相

ここからは終盤へ向けてのラストスパートの部となります。


一気に駆け抜けてしまいましょうw


「あらあら、いっちゃったわね」

「最初から俺を足止めさせることしか頭になかったんだろ?」

「何もかもお見通しってわけ? かわいくないわね」

「あんたにそれを言われるとは思ってもなかったね」

 俺の目前で悠然と立ち塞がる流水香は、先程から笑みを崩さない。こいつだけは性に合わない。だが、チャンスだ。こいつをここで潰す!

 先程の技同士の衝突で、辺りには霧散した水蒸気が立ち込めていた。

「それじゃとっとと片付けるか。今ここであんたを倒す」

「やれるものならやってみなさい。あなたを生み出した私に敵うと思っているのかしら?」

「やってみなければわからないこともあるだろ? 氷人の刃、ヒエロ・ランス」

 流水香から生み出された……? 違う、俺はある施設で……。だが、俺は知っている。俺は流水香を知っている。くそっ、頭痛がする。今は目の前の戦闘か。くそっ。

俺の右手に、氷で出来た長い槍が出現する。

 同様に流水香の左手にも氷で出来た槍が具現化される。しかし流水香のヒエロ・ランスは俺の以上に透き通るような美しさが存在していた。槍そのものが流水香を表現するかのように。

「水神海女の神、水速転換」

 俺は小さく呟き、流水香との約十メートルの間を詰め、ヒエロ・ランスを横に一閃する。

「甘いわね」

 俺が薙いだ斬撃を流水香は余裕で受け止める。そして、手首を捻っただけで俺のバランスを崩し、柄のほうで俺の腹部に突きを入れる。

「ぐはっ」

 俺は軽々と突き飛ばされ、口から胃液が吐き出される。俺はヒエロ・ランスを杖に立ち上がり、流水香を見る。

 圧倒的だな。だが、負けるつもりはない。

 俺はヒエロ・ランスを流水香目掛けて投擲する。一直線に延びる氷人の刃は流水香の頭部へと目掛けていたが、流水香はまたしても己のヒエロ・ランスを使って軽々と弾いて見せた。

 だが俺はそれを目視している余裕はなかった。あれはただの時間稼ぎだったのだから。

「深き海原より蘇れ、水龍!」

 突如、俺の頭上に水の胴体を大きくうねらせる大蛇、否、龍の姿が現れる。水龍の水の眼は静かに流水香の姿を捉えている。

「あらあら、もう勝負をつけようっていうの? せっかちなのね。いいわよ、受けてたちましょう」

 流水香に正面切って勝つことは不可能だろうな。あいつにはそれだけの自信がある。だからこそそこに生まれる隙をつく。一発勝負の大賭博だ。俺らしくないかもしれないな……でも、やるしかない!

「いけっ、水龍」

 俺の檄に応え水龍は流水香へと突進していく。対する流水香はその場から一歩も引かず、同じように水龍を呼び出す。

 二匹の水龍が対峙し、俺と流水香は互いを視認できなくなった。

 今しかないっ!

 俺は流水香へ突進する自分の水龍と並行するように駆ける。すぐ傍で互いの水龍が激突し、巨大な水の塊が横から殴りかかってくる。だが、今ここで止まるわけにはいかない。

 俺の姿をすぐ傍まで来ていることを確認した流水香は少しではあるが目を見開き、半歩後ろに下がった。ヤバイな、感付かれたか? だが、止まるわけにはいかないんだよっ!

「数多の自然界における超常よ! その力、我に示さん! 風水斬!」

 俺の右腕と左腕を取り巻くように陣風が生まれ、その流れに乗るようにして水の粒子が纏わりつく。流水香との距離がゼロとなったとき、俺は腕を交差させて力を解き放った。

 凝縮された風と水の威力は俺にすら容赦なく吹き荒れる。俺は自分の生み出した風に吹き飛ばされ、長城の壁の一部に背後から突撃した。

「ぐっ」

 背中に激痛が走り、視界が定まらない。流水香がいるはずの場所ではまだ水と風による爆発が続いていく。

 やがて爆風も治まり、感覚が戻ってくる。脊髄への打撃は予想以上に脳にも来ている。

 そして、そこで俺が見たものは驚愕の域を超えるものであった。

「な、なに?」

「あなたの勝ちね、シルキ」

「その体は……」

「これは私達オリジナルの罪なのよ。私が消えるのも時間の問題ね。あなたに全てを語らなきゃね」

 流水香の体はまるでテレビの砂嵐のように、体そのものが揺れていた。まるで電磁気を纏っているように流水香の体は脆かった。

「全てだと?」

「ええ。シルキ、あなたは人工的に水の力を得ることのできたチルドレンだということは知っているわね?」

「ああ」

 俺は昔カゲフミのおっさんに告げられたことを思い出し、頷いた。

「でもあなたは私にチルドレンにされたことを覚えている。どうしてだかわかるかしら?」

「!!」

 言われてみれば、そうだ。俺は人工的にチルドレンにされた……にもかかわらず流水香に会ったことを覚えている。俺の記憶が改竄(かいざん)されているのか?

「それはね、あなたは元々チルドレンではなかったのよ」

「な、に?」

「人工的にチルドレンを創り上げる技術はまだ達成されていなかったということよ」

「なんだと?」

「冷静になって考えてもみなさい。そんなことが可能なら半年前の中奇戦での被害はあれだけではすまなかったはずよ」

 その通りだった。流水香の言っていることが真実であれば中奇戦の時、あれぐらいの被害で済んだのはやはり双方にいたチルドレンの数によって左右されていた。

「なら、俺は何をされていたんだ?」

 だがそれなら新たな疑問が浮かぶ。五才の頃までとある研究施設で過ごしてきたというのは一体どういうことなのか。

「シルキ、あなたは小さい頃人工的にチルドレンを生み出す研究ではなくて、いかにオリジナルを殺せるかを研究されるために使われていたサンプルだったのよ」

「なん、だと?」

「あら、もう時間がなくなってきたわね……。お別れね、シルキ」

「なっ、ま、待て、流水香!!」

「もう少しあなたと一緒にいてもよかったかもしれないわね。義流との約束は守れそうになかったけど」

「義流……誰だ?」

「あなたの父親よ」

「な、なんだとっ!?」

「それじゃあね、シルキ。あなたたちなら私達を止められるかもしれないわ」

「おいっ、待て! 消えるな、流水香!!」

「ありがとう、流騎……私の―――」

 だが俺の叫び虚しく、残像が霧散するように流水香の姿が消えていった。流水香が最期に見せた慈愛と後悔の念が入り混じった笑み、そして流水香のこれまでの人生を物語るかのように流れた一筋の、今までで最も人間らしく、温かみを感じさせる涙が地面へと落ちた。

 俺にとってそれは切なく、そしてそれに気付けなかった自分に対する怒りと嫌悪感で掻き乱される。流水香はもういない。

 戦闘のため残された傷跡は何も語ることはなく、ぽつんと俺だけをその場に残した。流水香は何も残さず消え去り、ここで水のオリジナル流水香の長い一生は幕を閉じた。人ならざる力を経て、チルドレンを生み出すことでしか存在意義を見出せなかった流水香の枷はここで終わりを迎えたのだ。

「くそ、くそ、くそっーーー!!」

 俺の悲痛の叫びが長城聳え立つ山中で反響し、また何事もなかったかのような静けさで覆われていった。



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