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燃えた夏  作者: Karyu
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第百六十五話 オリジナルとチルドレン―Original and Children


 準備は整った。

 六人のルネサンス隊員、萱場流騎、木宮綾夏、倉木静香、刈谷秀明、林果桃、そして西園寺未来は、各々ルネサンス専用スーツに身を包んでいた。

 黒いスーツに身を包んだ六人は屋上で待機しているヘリに乗り込み、オリジナルが確認されたとされる場所へ移動を始めた。

 けたたましく轟く旋回音を、防音ヘッドフォンを隔てて聞いていた六人は、ヘッドフォンに設けられていた通信機能を利用して任務の最終確認を行う。

「いいか皆、後一時間でポイントに到着する。……わかってるな?」

 流騎が最後に重みを置いた言葉に他の五人は意図を察し、意志を込めて頷いていた。

 この任務での最優先事項、それは紅葉青海の救出及びオリジナルの殲滅。まわりまわって、今世界中がオリジナルという脅威にさらされている今、チルドレンがオリジナルを倒すことで世界を安心させ、チルドレン達も政府から一般公開されることとなる。

 任務を無事遂行することができれば、流騎達は己がチルドレンであるということを隠さなくても良くなる。支障を来たすほどのコトではないのかも知れない、だがこれによりチルドレンは普通の生活を送れるということになる。政府の番犬ではなく、自立した一個人として。何にも束縛されることなく。

 そして流騎が発した言葉の真意。それはオリジナル達と戦う際に、もし青海が敵側につくようなことがあれば青海も即座に殲滅対象となること。皆の目には感情の揺らぎが見えたが、それが任務であり彼らの義務であることには変わりない。

 ルネサンスが確認したオリジナル達の居場所は河北省山海関。言うならば中国で代表的な世界遺産、万里の長城の東城が建てられているところだ。

 六人を乗せたヘリコプターは次第に高度を降ろしていく。目的の場へと到着しかけているのだ。

 流騎はダッフルバッグの中から人数分の携帯端末を渡していく。

「これは?」

 刈谷が片手にその端末を握りつつ訊ねる。

「これにはオリジナル達の今時点で解っているデータが入っている。これを参考に戦闘で応用してくれ。いいか、これが最後だ。泣いても笑ってもな。ここで負ければ俺たちにも世界にも明日はない」

 流騎の静謐な声で真実を告げ、残りの五人も力強く信念の篭った表情で頷く。ヘリコプターは目的地に到着、砂塵を舞い上げながら着陸する。

 流騎達一向はヘリコプターを降り、オリジナル達がいるとされる場所まで移動する。ここは山の傾斜が激しい場所であり、万里の長城の壁が高く聳え、まるで城砦を目前にしているような錯覚に陥らされる。

 そしてその城壁を背中に八人の影が確認できた。

 そう、オリジナル達はまるで流騎達のことを待っていたかのように立ち尽くしていた。

「あら、やっと到着したのねシルキ。待ちくたびれちゃったわ」

「る、流水香!」

 妖艶な笑みを浮かべた流水香は舐めるように他の五人の姿をねめつける。その視線はまるで狐のようで、しかし蛇のように圧倒されるものであった。それに加えての美貌は、どこか人間離れしていそうで、しかし、一番人間らしくも感じさせる妖艶さを秘めていた。

「はーい、じゃあゲーム始めちゃおっかー♪」

 流水香の隣の色っぽい服装のモデルの様な女性、いやオリジナルの風花が宣言する。

 風花の声を合図に一気に踵を返す七人のオリジナル達。彼らは城壁の前に行き当たると手をのばし呪文めいた言葉を口にする。

 すると、万里の長城の壁がみるみる内に崩れていった。

「「なっ!?」」

 それを見ていた流騎達は驚きの声を上げ、その光景に見入っていた。

 壁の一部が崩れた後、そこに残されたのは洞窟への入り口のような空間だった。その入り口から奥へは闇が広がり、だがそれにも目もくれず七人のオリジナル達は水のオリジナル流水香を残して行ってしまった。

 流水香は一行が過ぎていったのを確認すると流騎たちの方へと振り返った。

「さあ、ここから先は通すわけには行かないわね」

 流水香は先程開かれた入り口の前に立ちはだかりそう宣言した。

「あ、青海ちゃんはどこですかっ!?」

 綾夏は緊張感の込もった声で流水香に尋ねた。

「アミ? アミなら、ほら、ここにいるわよ?」

 流水香は掌の上に小さな水球を出現させ、それをそのまま流騎たちの方へと投げた。投げられた水球は徐々に膨らみ、流騎たちの所へ到着する頃と同時に弾け、中からびしょぬれになった青海の姿が現れた。

「あ、青海ちゃん!!」

 綾夏と未来が二人で急いで青海を介抱する。どうやら死んではいないらしい。青海は微かにだが呼吸をして、数秒の内に咳と共に目を開いた。

「み、皆さん………!!」

 青海はがばっと身を起こし、綾夏と未来から距離を取った。

「あ、青海ちゃん?」

 困惑したような表情を浮かべる綾夏を直視する青海の表情には、喜びと後ろめたさがごちゃまぜになった色が窺えた。

「アミ」

「流水香さん?」

 青海は背後にいた流水香に振り返り、またも驚きの表情を浮かべる。

「流水香さん、ど、どうして!?」

 流水香は妖艶な笑みをつくり、アミの方に顔を向けたがその視線はアミに向けられてはいなかった。

「もう用無しなのよ、あなたは」

 口にされた言葉は冷たく、そしてなんの感情も含まれてはいなかった。

「そ、そんな……」

 青海はおぼつかない足取りで流水香から後退する。その表情には驚愕と喪失感、そして虚無感で染められている。

「おい、流水香! お前、紅葉に何を吹き込んだ?」

 流騎は青海を庇うように前に出て、流水香を問い詰める。

「あら、人聞きの悪い。それに私たちは何もしてないわよ。アミの方から私たちに会いに来たんだから。でもさすがに驚いたわね。いとも簡単にわたしたちの潜伏先が見つかっちゃうなんて」

「なんだと?」

「アミは私たちに頼んだのよ。この世界にチルドレンの存在を公表してほしいってね」

「「!?」」

 その場にいた青海以外のチルドレンは驚きの声をあげた。

「アミは私達を利用しようとしたのでしょうけれど、まだまだ子供だったってことね。チルドレン、それは決して親を超えることのできない存在なのよ。結果論はそれだけど、アミがあなたたちを巻き添えに加えようとしなかったのは確かのようね。でも今となっては関係ないけれど」 

 流水香はそう言い終え、両腕を流騎たちに向けて伸ばした。

「ウォーターインパルス。華麗に舞いなさい。水はすべてを浄化する力なのだから」

 突如として流水香の周囲に現れた水球は全部で七つ。丁度流騎達と同じ数である。

「くっ、いいかみんな! ここは俺が受け持つ! 俺が隙を作ったら六人で他のオリジナル達を追えっ! わかったか!?」

「ああ!」

 流騎は他の隊員の声を聞き届けることなく、流水香と対峙するために全神経を集中させる。

「ウォーターインパルス。華麗に舞え。水はすべてを浄化する力なり」

 流騎は流水香と同じ呪を唱え、それを聞いた流水香は動じることなく一層と妖しい笑みを深める。

 流騎の周囲に現れた水球は流水香と同様に七つ。それらが次の瞬間、衝突し、爆音を撒き散らす。

「萱場、死ぬなよっ!」

「隊長、勝ってください」

「流騎くん、勝ってね!」

「青海ちゃん、行くよっ」

「はい、お願いします!」

「流騎、勝たなかったら私が殺すからねー」

 残りの六人はそれぞれに流騎へと言葉を残し、流水香の後ろに空く長城への入り口へと駆けて行った。



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