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燃えた夏  作者: Karyu
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第百六十三話 動きだす組織―Runesance in Action

私と秀明、それと青海さんはコントロール・監視ルームを奪還。そして隊長と綾夏さん、それに負傷していた西園寺さんが坂城と水のオリジナルである流水香との戦闘を、監視カメラを通して見ていました。

「お、おい、なんだってオリジナルが萱場達に加勢してるんだ?」

 秀明が不思議そうな声で驚いています。それは私も同じですが、

「ですが味方になった……という訳ではなさそうですね」

 画像だけで音声がないのですが、隊長の表情と流水香の妖怪な笑みを見る限り、ただ助けた訳じゃないようです。

「じゃ、じゃあ私達は未来さんたちの加勢に行かなきゃなりません」

 早速この部屋から走り出そうとする青海さんを、私は片手を伸ばして制しました。

「今は、まだいけません」

「なんでですか、静香さん!? 早く助けにいかないと!」

「ああ、俺も紅葉さんの意見には賛成だ。何か考えでもあるのか?」

 秀明も、私の方を、疑問を抱きながら問いてきます。

「はい。現状でもっとも最優先しなければいけないことがあります」

「「それは?」」

 秀明と青海さんが同時に聞き返してきますが私は動ぜず、

「本部への連絡です」

 しばしの沈黙。青海さんはさっそく反論してきました。

「で、でも未来さんを早く病院に送らないと……!」

「それは隊長と綾夏さんがやってくれます」

「でも人手の多いほうがっ……!」

「いや、静香の言うとおりだろうな」

 青海さんは思いがけない秀明の言葉に面食らっています。後は秀明が説明してくれるでしょう。

「え?」

「今、全員で西園寺さんを救出しに行ったら敵の残党にやられる危険性が高くなる。まあ、やられることはないが、発見される割合が高くなるって事だ。それに本部へこのことを報告しなきゃ手遅れになるかもしれねぇしな。それが組織なんだ、紅葉さん。解ってくれるか?」

「………はい」

 話は済んだようですので、早速本題へと切り替えましょう。

「それじゃ秀明は扉の前で見張りを。私と青海さんは本部に連絡を取ります」

「おう、任せろ」

「やれますか、青海さん?」

「は、はい! 頑張ります!」

 どうやら青海さんは理解してくれたみたいです。

 室内の壁に取り付けられた衛星通信機に秘密コードを入力し、ルネサンスの新規緊急コールコードを押します。


 私は、静香さんが通信機越しに喋る単語の意味が解りませんでしたが、なんとなく救援と援護を要請していることは理解できました。

 組織とは、こういったものなのですね。そう実感させられました。だから私は、MIKOTOさんとの約束を果たさなければなりません。流水香さんも動きを見せ始めましたし潮時かも知れません。

 私がそうやって思考を巡らしていると、なぜか突然刈谷さんが話しかけてきました。私は驚いて、

「ひゃっ!」

「わ、わりぃ! 紅葉さん、驚かせたか?」

「あ、い、いいえ。な、なんでしょうか刈谷さん?」

「あぁ、いや、なんか考え込んでるっぽかったからな。相談ごとなら俺に言ってみてくれよ、案外頼りになるぜ」

「あ、はい、ありがとうございます」

 私はぴょこんと一つ礼を返しておく。それよりも、見張りはどうしたのでしょうか?

「い、いや、お辞儀までしなくても、な。なんか、壁とれねぇよなあ……」

 私に話しかけてきた刈谷さんはなぜかちょっと暗くなりつつ、見張りのお仕事へ戻っていきました。お暇だったのでしょう、私はそう結論付けることにしました。静香さんが睨みを効かせているのも、理由の一つに入るのでしょうか?

 今、改めて思うと……静香さんと刈谷さんは良いカップルなのだと思います。なんで今そう思うのかはというと、この場まで辿り着くまでのお二人の連携や意思の疎通がぴったりだったからです。

 お互いにお互いのことを信頼しあっています。これを以心伝心というのでしょうか? 私もネット上の仲でしたが、MIKOTOさんのことをもっと理解していれば、MIKOTOさんは死なずに済んだのではないでしょうか? そんな罪悪感が、今、私の中で葛藤します。

「青海さん」

「は、はい」

 静香さんは通信を終えたのか、私の方へと振り返って私の眼を直視しています。あ、あぁ、そ、そんなに見つめられると照れます……。

「頑張ってください」

「え?」

 私は静香さんに何を言っているのか聞き直そうとしましたが、やめました。静香さんには、やはり何もかもがお見通しのようです。

 だから、私は

「はい」

 と、お答えしました。

「よし、そろそろ行くか」

 私と静香さんの会話が聞き取れなかった刈谷さんですが、絶妙なタイミングで声を掛け、私達は先程メールで綾夏さんに指示された病院へと向かうことにしました。

 私は静香さんと刈谷さんに了承を得て、自室へと一人で向かい必要なものをすべてトランクとリュックに詰めていきます。たくさんの思い出の欠片……その一部を私は鞄へと詰めました。

 私が愛用していたPCに最後のお別れを、手を添えるようにそて終えて私は、お二人のもとへと戻りました。

 そして三人で壊れた人造人間、死体、破壊された家具の中を歩きながら外へと出ました。

「さようなら」

 私は最後にそう呟きながら、修羅場と化してしまった自分の家を見渡します。ここで立ち止まってはいられません。私はMIKOTOさんの意志を継いで。前に行かなければなりません。

 そう、前に。


 翌日、青海の姿が消えた。

 彼女の行方は不明、だがそれと同日に世界は恐慌と混沌に陥れられることとなる。

 そう、なぜならアメリカでオリジナルによるホワイト・ハウスへの襲撃が報道されたからだ。テレビの画面の向こう側に映しだされるホワイト・ハウスからは黒煙が噴きあがり、怒号や喧騒が行き交っていた。

 米軍ヘリであろう機体が何機も上空を舞い、米兵士も数多くモニター上に映し出され戦闘が繰り広げられていた。

 しかし、連射される銃弾の雨の中を悠然と歩く七人の若い男女の姿があった。誰もが日本人らしき顔立ちで誰もが淡く、白い光りを放っていた。七人を包み込む光りはいかなる銃弾や砲弾の数々を弾き飛ばしていく。

そして七人の中に一人の十代の少女の姿があった。そう、青海の姿が―――。



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