第百五十八話 周到なる襲撃―prepared attack
くそ。なんとかしないと、このままだと全滅だな。
俺は心の中で舌打ちをしつつ、俺の腕を拘束しているSPの一人を一瞥したあと、坂城の方へと振り返った。
「そ、そんな! 皆さんいい人ばかりだったのにっ! どうして!?」
紅葉はまだも混乱した様子で、坂城に問い詰めていた。
「ふん、紅葉青海。お前は私の出世の駒となればよいのだ。おい、こいつを連れてけ」
「はっ」
坂城の命令でまた一人のSP、今はビワ側のリベリオンか……。まったく、ビワ。昔、一度しか会ったことがないから上覚えだが、確かにあいつは一筋縄な男には見えなかった。
だが、ここまでとは。日本元首相の一人娘を人質に取って、その領地まで乗っ取ろうなんてな……。
だが坂城はある一点を見逃している。今の俺たちの現状を見ているだけで自分が勝った気でいる。
さしずめ、坂城と数人はチルドレンではあるが残りは一般人だな。といっても相当な訓練は受けてる。というよりも、人間なのか? 顔をゴーグルで覆っていて、並んでいる連中は身動き一つすらしない。
紅葉はリベリオンの一般隊員に捕まる前に、その手を振り払い坂城に縋った。
「な、なんで!? なんで坂城さんが、そんなことを……!?」
「ええい、黙れっ!」
坂城は右手の甲で紅葉の右頬を叩く。
「くっ!」
紅葉は数歩後ろへ頬を赤くさせながら下がり、
「青海ちゃん!」
と、西園寺が束縛されているのに抗いながら紅葉の名を叫んでいた。
西園寺は、無理もないか。あいつはリベリオン側だったし、シコンに就いていたんじゃビワやクキョウのことを知っていただろうしな。
「女のガキはうるさいな、どこへ行っても。やはり、力こそが絶対服従の道具」
坂城は拳銃を取り出し、紅葉の左肩へと銃口を定めた。
「「!」」
場の一同全員が驚きを隠せなかった。坂城はヤク使いか? 言ってることが矛盾している。
「ふん、激痛にのた打ち回って静かにしとけばよかったのだ。私は気が短いのだ」
坂城が片目を閉じてトリガーを引こうとした時、
「紅葉ちゃん!」
西園寺はそう叫び、
「ぐあっ」
と、西園寺を拘束していたリベリオンの一員が奇声を上げて崩れ落ち、そのまま倒れた。
ドン!
「うっ!」
「未来さん!!」
「ちっ」
「未来ーーー!!」
坂城が放った弾丸は紅葉の前で立ち塞がった未来の脇腹をとらえ、坂城はそれを見ながら舌打ちをした。
綾夏は未来の負傷に驚きを露にし、驚愕の表情を浮かべていた。
「くそ、おい、今だ!」
俺は大声を上げて、ほかの全員に合図を送る。俺は自分を捕らえていたリベリオンの一人を蹴り倒した。
刈谷、静香、綾夏もそれぞれ己の能力を使って自由を取り戻した。
刈谷は一目散に、脇腹を抱えながら倒れる未来を慌てて介抱しかけている紅葉と坂城の間に割って入り、地面に自分の両手を伏せて叫んだ。
「我らを守りたまえ、大地の盾!!」
刈谷が触れた大理石の床は盛り上がり、俺たち六人と坂城率いるリベリオンたちは刈谷の大地の盾で遮断された。
つまり、俺たち六人の背後にはさっき入ってきた扉と、前方には大理石が隆盛してできあがった壁があるのみだ。
「よし、ひとまず外にでるぞ!」
「わかりました」
「紅葉さん、大丈夫か!?」
「は、はい! で、でも未来さんが……!」
「未来は大丈夫。刈谷くん、一緒に……」
「ああ、わかってる。西園寺さん、しっかりしろよ」
「うぅ……ん」
刈谷は西園寺を肩に担ぎ、綾夏は自分の制服の一部を噛み切って西園寺の傷口に当てて縛った。
「うっ……」
西園寺は多少顔を顰めたが、今はそんなに悠長にしてはいられない。
「俺と静香とで活路を開く。刈谷と綾夏は西園寺の安全の確保。紅葉は俺たちのサポートに回れ!」
「了解」
「へっ、せいぜい俺の道を開けろよな、萱場」
「うん。頑張ろうね、みんな!」
「わかりました。私、頑張ります!」
「よろしくね……」
西園寺はどうやら、大丈夫そうだ。
「行くぞ!」
俺は扉を押し開けて、目の前では俺たちに振り返るたくさんのSP、いやリベリオンの兵士がいた。
「なんだ、お前達!」
「あれは、壁?」
動揺しきった兵士達のトランシーバーから騒音、雑音が飛び交い事情が理解できた兵士達は各々に銃を取り出し始めた。
しかし、俺たちはそこまで緩慢に物事を正視していただけではない。
「深き海原より蘇れ、水龍!!」
俺は水龍を自分から離反させ、暴れまわしている内に刈谷と綾夏は西園寺を静香がサポートしていた。
「闇針影止!」
「ぐぁっ! か、体がうごかない!」
「な、なんだこりゃ!」
混乱が混乱を呼び、水龍の出現に加え、意味不明の金縛り。リベリオン兵士達は俺たちの攻撃を夢見るような表情でただ呆然と眺めていた。
「紅葉、今だ!」
「はい! 曇空・翳霞・白霧・薄煙・濃霧。我が身を覆え、白昼煙夢!」
紅葉がそう唱え、刈谷の時同様、俺たち六人と兵士達は濃い霧で隔絶された。
俺は無言で目だけを、白煙が視界を覆う寸前に全員を茂みの中へ、竹林の傍まで先導させて隠れた。
紅葉の技の威力からして、この霧が消えるまで10分程……。それまでにやるべきことをやる必要がある。
「いいか、よく聞け。刈谷、先ずは西園寺の治療を」
「言われなくても、するさ。オロチ、大地の癒塊」
刈谷は地面の土を手一杯に掴み、西園寺の傷口に掛け、西園寺の出血は治まった。
「よし、いいな」
俺は刈谷の声を聞き、全員に目を配らせて言葉を放った。
「よし。西園寺の傷は治ったが、完治した訳じゃない。だから二班に分かれる」
静香がすかさずサポートに入る。
「では、一つの班は未来さんをここから連れ出すのと、坂城の陰謀をくいとめる班ですね」
「ああ、その班組みは……」
俺は取り巻く霧の中で、今からの作戦内容を説明した。