第百五十一話 晴れ渡る空―vivid sky
空が青いなー。
私こと、紅葉青海は今日転入してきた鳳凰高校の屋上に来ています。
「なんだったんでしょう。あれは……?」
そうなのです。何故かあの後スペースなる部屋に連れ戻された後、皆さんに殺されかけたので逃げてきたしだいなのです。
怖かったです、あの人たち。なんか人ならざる者の目でした。
私、なにかしたんでしょうか? 私はただMIKOTOさんとの約束を果たすためにチルドレンになっただけなのに……。
でも本当逃げてきて正解でした。
五人の中で髪がちょっと長めの黒髪の男の人、身長は175cmぐらいで程よい筋肉の発達が垣間見えていて端整な顔の人は私をじーっと眺めてたし―――。
もう一人の男の人、身長が170cm強、茶味ッ気の掛かった短い頭髪、何気に気になる目立った犬歯を持った人は私にいきなり大声を上げてきたし―――。
髪が腰まで掛かりそうな紫蒼の髪をした170cm弱の大人しそうな女の人は、物静かな顔で私を正視していて、ある意味怖かったし―――。
金髪のやたらにテンションの高い165cmの女子は私をいきなり青海ちゃんって呼んできて私を片手に帯電した電気で攻撃しようとしてきたし。あの人は確か、西園寺さんは要注意人物です―――。
それでもって最後の橙色の綺麗な髪を持ってて、私のクラスの委員長を務めています。えーっと確か木宮さんは和やかな雰囲気で話しかけてくれたから好きです。でもやっぱり他の人たちと一緒なのかな―――?
そんな感じで私はさっきまでその五人に問い詰められていたのです。もう、なにがなんだか分からなくなってしまいました。しきりに勧誘っぽいことを揶揄されたような……?
でも私はそれに負けるわけにはいきません。だってそんなことをしたらMIKOTOさんの決死の願いを叶える事ができなくなってしまいますからっ!
私がやれることは少ないかもしれませんけど、あのルネサンスっていう組織に入ってしまったら本末転倒になってしまいますから。
「あむっ、やっぱり食パンはおいしぃですぅー」
はっ、いけません。つい、いつものくせで……。
お父さんが総理大臣だったせいもあって私は多少の海外経験を持っています。でもやっぱりこういった成り立ちなのでお友達はできませんでした。
そんな時、私を支えてくれたのがネットで出会ったMIKOTOさんと日本の食パンでした。
この二つのおかげで私はここまでやってこれました。ホントに感謝です。でもそのせいであんまり体が成長しなかったんじゃないのかって一回MIKOTOさんに苛められましたけど……。
でも、思い返すとあんなやりとりはもうないんですね……。私の唯一のお友達……。
「あ、あれ? なんでだろう、急に涙がでてきました―――。う、う、ぐすっ……」
私は自分のハンカチを取り出して涙を拭きましたが、涙涙って目からは透明で悲しいしずくが頬を伝っていきます。
私はこの時、初めて別れを知ったと思います。こんなにも悲しくて、儚くて、あっという間の出来事………。実際会ったことのない人ですが、でもそれでも私の大事な人だったのです。
「なんで、なんでいなくなってしまったんですか? MIKOTOさん―――?」
この三年間、私の支えでいてくれたあなたはもう、本当に消えてしまったのですか? あなたがいなくなって初めて判りました。あなたは私にとって、本当に大切な人だった。
私がそう屋上のベンチの上で蹲っていると、一陣の風が吹きました。まだ二月の終わりの冬の風は肌寒いです。
そしてそれとともに、一人の生徒が屋上の扉から入ってきました。
「ここにいらしたのですね、紅葉さん」
「え………?」
私が扉の方へ振り返るとそこには紫青で綺麗な髪を持った背の高い女子生徒がいました。あの人はさっきスペースにいた五人組の一人。
私はきっとあそこ(・・・)へ連れ戻されるんだ―――! と思いつつ警戒心を保ってその人にきつい口調で言い返しました。
「な、なにしにきたんですか? やっぱり私を連れ戻しに……」
前方の美女は少しきょとんといったような表情を浮かべて、小さいけど優しい笑みを浮かべていました。
「いいえ。誰も紅葉さんを連れ戻そうとはいたしません。私が来たのはお詫びと少しお話をしようと思っただけです」
「お詫び?」
「はい。先程は失礼な態度をお見せして申し訳ありませんでした。私が四人の代わりに謝ります」
髪が紫青の美女さんは、外見通りなきちんとしたお辞儀をしてくれました。
でも、なんか私のほうが悪く感じてきました……。
「い、いいえ! わ、私の方こそいきなり逃げ出してしまって申し訳ありませんでした!!」
私は全力で腰を折り曲げしてぺこぺこと謝りました。
それを見た美女さん(名前なんていうのかな?)はまたも私のことをきょとんとした顔で見て、今度は小さいけれど声をあげて笑いました。本当に綺麗な人です。
「あ、あのどうかしましたか?」
私はちょっと怖くなって聞き返したら、
「い、いえ。すみません。紅葉さんは本当にかわいいですね」
「え?」
知らず知らずの内に自分の頬が火照ってきたのがわかりました。
「そ、そんな! わ、私がかわいいだなんてっ! え、えーっと………」
「申し送れました。倉木静香です」
「し、静香さんの方が私より断然綺麗です!」
私がそう言い切ると、ちょっとの間沈黙が続いて、静香さんは穏やかな笑みを浮かべて、
「それは、ありがとうございます」
と丁寧に返してくれました。
なんででしょう? 私、物凄く心臓がドキドキしています。こんなに綺麗な人にあったことがないからでしょうか? さっきは、特にあの西園寺さんや怖い男子生徒二人のせいでわからなかったけど……静香さんはホントに美人さんです。
「そちらへ行ってもよろしいですか?」
「あ、は、はい! ど、どうぞ!」
私は自分の座っているベンチの片方ぎりぎりまで移動して、静香さんが座るところの確保と、掌でその場所を掃った。
「ありがとうございます」
静香さんは軽くといっても私にとってはすごく価値のあるお辞儀をした後、私の隣に座りました。
「あ、あのそれで、な、なんのお話でしょうか……?」
私が静香さんの横顔を眺めると、軽やかな風にも靡く髪がとっても軽やかです。いいシャンプーの匂いもします。
あ、それともトリートメントの匂いでしょうか?
「あの、紅葉さん?」
「あ、は、はい! すみません」
「それでは本題に入りますがよろしいですか?」
「はい!」
「それでは、お聞きします。紅葉さんはチルドレンなのですよね?」
「あ、は、はい」
「なんの能力なのですか?」
「えっと、水だと思います」
「そうですか」
「静香さんはどの能力なんですか?」
「闇です。昔は光も使っていましたけど」
「昔ですか……?」
「ええ」
静香さんはどこか物悲しげそうな、でも後悔はしてはいないような表情を浮かべ、微笑んでいました。