第百五十話 始まりの日々―primary days
ここからはまた新たなる章に突入です!!
新しく入ってきた女子生徒、紅葉青海。
ルネサンスに所属もせずにチルドレンで、紅葉は半年前に中国に拉致監禁された全日本首相の一人娘らしい。
それで今、俺はスペース内にいる。他の四人も一緒だ。
他の面子も全員揃ってソファに座っている。各々がなにか考え事をしている模様で俺もその一人だ。
俺が色々と思考をめぐらせていると、いきなり西園寺が立ち上がった。
「あー、もう! ようは、紅葉ちゃんをこっち側に引き込めばいいんでしょ? だったら特攻勝負よ!」
「ちょっと、未来。それじゃ、駄目だって! それに青海ちゃんをさっき脅してたの未来でしょ!? それにハヤブサさんが言ってたのは護衛で勧誘じゃないって!」
「え~! でも、そんな、だってもどろっこしいー」
西園寺が綾夏と頬を膨らませながら口論してる。この二人は何があっても仲がいいな……。
そういや、二人のこんな風景久しぶりに見たな。なんて俺が感慨深げに傍観していたら、やっぱり火の粉が飛んできた。
「萱場君はどう思う~?」
「流騎くんもなんとか言って!」
「え?」
なんで、俺なのかはわからないが……とにかく解決策がいるな。
「とりあえず、ここに紅葉を連れ戻したらどうだ?」
「おっ、そりゃ良いな。萱場、お前もたまには良い事言うな」
刈谷が横から入ってきた。そういや綾夏と西園寺が騒いでる最中、刈谷と静香も話し合ってたからな……。
ちょっと、待てよ。なんだか俺だけ蚊帳の外じゃないのか?
「黙れ、刈谷。俺はいつでもお前より数倍マシな判断してるさ」
「なにを! てめぇ、またっ! て、怒る気にもなんねぇけどな」
刈谷の奴、なんともまあ……。
「刈谷、お前、成長したんだな」
「黙れっ!」
俺は笑いながら刈谷の髪を豪快に撫でてやった。
それを刈谷の奴、頬を赤らめながらも怒りながら俺の手を跳ね除けた。
「くそ、調子狂うぜ」
「秀明……」
ふてくされた刈谷を見守りながら静香も微笑を浮かべていた。
「ほんと、二人が戻ってきて良かったよ」
俺の口からは自然とそんな言葉が出ていた。
俺の言葉が聞こえたのか、スペース内一同が俺のほうを、え? といったふうに問いながら振り返った。
俺は皆の視線を浴びながらも一人、一直線に遠くを見つめ、
「西園寺と静香が戻ってきてくれて、俺たちはまた一つになれた。経緯はどうあれ、敵だった西園寺、消えた静香がここに戻ってきてくれた。それで俺たちはこんなにも良い感じになった」
俺が言い終わると、暫く沈黙が続いた。
そしてその沈黙を開口一番破ったのは刈谷だった。
「お前、何感慨深げにそんなこと言ってんだよ。うおぉ、聞いただけで痒くなってきたぞ、俺は……!」
刈谷は演技交じりに大げさに振舞った。
俺も自分の言った言葉を思い出して、思考が停止した。多少脳が恥りを知る。
「い、いや、深い意味はないぞ! 俺はただそうおもっただけであってでな!」
「慌てるなんて、流騎くんかーわいい~」
西園寺がそう言って、俺は益々自分を責めた。くそ、柄にも無い。無さ過ぎる。
俺もこいつらと会って、変わったのかもな……。
「私も流騎くんと一緒だよ。私も皆といれてうれしいし」
綾夏はそう言って俺をフォローしてくれているのか、それとも本心を言っているのか、どちらにしろ俺の緊張は多少ほぐれた。
「でね、だから紅葉さんが私達と一緒になってくれるんならもっと楽しくなるんじゃないのかな? 同じチルドレンなんだからさ」
綾夏は心底、そう思っているのだろう。確かに、事情なんてものは後からわかる事だし、それを事前から探ろうなんてしても無価値だ。それに知ったところでどうこうすることはないしな。
「そうだな。だったら俺が紅葉さんをここに引き込んでやる」
「わ、私も負けません、秀明」
刈谷はソファから立ち上がりながら意気込み、それに続くように静香も立ち上がった。
なんかほんとにデレデレだな静香。まあ面白いけど。
「お、静香も頑張るか! なら尚更負けられねぇ」
火に油だったのか、刈谷は益々奮起した。刈谷のやつ最近、いや静香が帰ってきてからどんどんと熱くなってきたな。ま、もともと熱血タイプだからかもしれないが。
「よ~し! だったら私も頑張っちゃお! 絶対青海ちゃんをルネサンスに入れてみせる!」
「だ、だったら私も頑張る! 絶対、絶対、未来には負けないんだからっ!」
そして遂には西園寺と綾夏までもが闘志を露にした
まったく、こいつらは……。だが、
「だったら、俺が一番になってやる」
俺も流されるがままに乗った。
「よし、これで五人全員が参加だな。題して、「誰が一番早く紅葉青海をこっち側に連れ込むか!」大作戦の決行だ!」
刈谷は自信満々気にそう言い張った。
「刈谷、お前、少しは考えてから物を言った方がいいぞ」
「は? なにを言ってやがる。ピンポイントすぎるだろ?」
「い、いや、刈谷くん。それはちょっと……」
「そうだよ、ちょっとそれはね~」
「私もそう思います」
刈谷は俺たち四人からの集中砲火を受け、多少たじろいだ。
「な、なんだよっ!? だったら誰か良いタイトルでもあるのかよっ!?」
刈谷は苦し紛れにもそう叫び、俺たち一同はまたもや沈黙に駆られた。
「んーっと、じゃあ「紅葉青海ルネサンス勧誘ミッション」は? どう?」
綾夏の提案にすぐさま西園寺が賛成した。
「いいね、それ! さっすがクラス委員長!」
「え、いや、そんなことないよ……」
西園寺の絶賛に綾夏はハニカミながらも照れ笑いを浮かべていた。
「いいですね。それでいきましょう」
「ああ、俺もそっちの方がいい」
俺と静香もそれに賛同し、残された刈谷はというと、
「くそっ、俺のやつのほうが……」
と、ぶつぶつ呟いていた。
俺たちがそうやって談笑を続けていると、スペースの入り口のところで一人の影が映る。
俺たち一同、五人はそれに気付き、
「「あっ……」」
と声を漏らした。
そう、一人こちらの中の様子を窺っていたのは紅葉青海だったからだ。
俺たちは急いで扉を開けて紅葉を中に入れたが、当の本人は
「どうせ私のことなんてわすれてたんだ……」
と多少でかい声で呟いた。
それを微妙な心持で受け取った俺たちは黙りこくってしまった。
はぁ……。端から本末転倒かよ……。先が思いやられるな。
俺は救いを請うように天を、いや天井を仰いだ。