第百四十六話 日常(一)
(1)
~流騎~
俺はもうすでに慣れ親しんだアパートのベッドの上で目覚めた。
頭上の窓からは朝の柔らかな陽光が降り注いでくるが今は視界を邪魔するただの光だ。
「さ、さむ」
俺はもう一度布団の中に潜り込んでベッドの温もりを体感した。
「やっぱ冬は寒いな」
そう言いつつも今日は学校。行かなければ、また遅刻だ。
ただでさえ今、欠席続きで停学になりそうだっていうのに……。
やばい、元はといえば任務の一貫で入っただけの学校に俺はマジになっている。
まあ、でも学生をやるというのも任務の一つに入っているんだろうな。カゲフミのおっさんのやつ、総司令終わった後でも任務が続くとは思ってもいなかった。
俺は寒々ベッドから出て制服に着替え、昨日準備しておいた味噌汁を温めて飲んだ。
「冬こそ味噌汁だな。最近の俺のブームだ……マイブームっていうのか?」
なんて独り言ぼやいているとさすがに寂しいな。
俺はさっさと食事を済ませてアパートを出た。
そして学校に登校する。
ふう、二月といってもまだまだ寒いな。アスファルトの道路はひんやりと凍え、冬独特の足音が路を鳴らす。
俺が呼吸する度に出てくる吐息は白い靄となって俺の頭上で霧散する。
~綾夏~
ピ、ピ、ピ、ピヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨ!!
鳴り響く電子音、そして
ガチャッ
私は右手を伸ばして目覚まし時計のスイッチを切った。
「眠い………」
でもそんなこといってられない。私は一応クラス委員長だし、副委員長は新しい子が就いたし。静香ちゃんはもういないんだよね。
ごはんはどうしよう? カロリーメイトにしよっかな。朝はあんまし食欲湧かないんだよね……。
私はのそのそ制服に着替えてカロリーメイト三箱を食べながら登校した。
学校は以外と近くだし、朝は少しゆとりを持てるからいいんだよね。
そんなこんなで学校に着いて職員室の前を通り過ぎたら担任の教師に呼び止められた。
確か……高ノ原先生。だって本当に影が薄いんだもんこの先生。
「はい、なんですか?」
「ああ、すまんが今日、朝のホームルーム時間空けといてくれないか?」
「え? ということは先生が自らいらっしゃるということですか?」
「いや、まあ、その時わかるさ」
高ノ原先生はぼさぼさの髪を掻きながら立ち去っていった。
「先生」
「ん? なんだ?」
先生は振り返りながら聞き返してきた。
「シャワーを浴びることをお勧めしますよ」
私は人差し指を立てて先生の髪を指す。
「余計なお世話だ」
高ノ原先生はそそくさとまたどこかへといってしまう。
私は止めてた歩を進めて教室へと向かった。
そしていつもどおりのホームルームが始まった。
流騎くんも今日は来てて、確か昨日任務で東京に行ってた刈谷くんも自分の席にいた。
未来の机は相変わらず空で、静香ちゃんの机も空だった。
でもそんなにしょげてちゃいけない。私はいつもの笑顔で元気よく委員長ぶりを発揮する。
「はい、皆さん。今日はちょっと何かあるみたいです」
「なにかって?」
「え? なになに?」
「授業が潰れるなら俺は大いに結構」
などなどクラスメイトは様々に呟いていた。でも最期の男子、ホームルームじゃ授業は潰れないんだよ。
「はいはい、静かに。もうちょっと待っててください。高ノ原先生が来るはずですから」
「高ノ原って?」
「担任でしょ、それぐらい覚えときなさいよ」
クラスメイトはまたざわめき始めたけどすぐに納まった。
そしてその数秒後に教室の扉が開けられた。
そこにいたのはここの制服を着た女子三人。
私は目を見張った。だって、こんなのって……!
「はいはーい、皆元気だったー? 西園寺未来でーす! またまたよろしく~」
「どうも皆さん長い間留守にしてしまいまして、申し訳ありません」
「こ、こんにちは……。あ、おはようございます………。あ、じゃなくて、は、初めまして」
私の視界には左から未来、静香ちゃんとまったく知らない女の子がいた。
「み、未来? それに静香ちゃん??」
「綾夏、久しぶり~」
未来は私に駆け寄って抱きついてくる。
「綾夏さん、お久しぶりです」
静香ちゃんはいつもどおりの礼儀良さ。
「え、えっとよろしくおねがいします」
そして知らない子はとても可愛らしくて、小さい。
「え? ちょっと、待って。あなたは誰?」
私は未来と静香ちゃんの隣にいた小さな女の子に話しかけた。
「は、はい! 私、今日転入してきた紅葉青海です。よろしくお願いします」
「え……?」
私はもう訳がわからないまま混乱してきた。