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燃えた夏  作者: Karyu
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第百四十五話 若りし頃(四)


「なんなんだよ一体っ! くそっ!!」


 義流が悪態をつく、僕も内心同じだ。こんな無差別にも程がある殺戮。一体誰がこんなことをしてるっていうんだ……。国会議事堂内は正面入り口が大破したのみで中はその重鎮な物腰を悠然と構えていた。


「一端出るか?」

「ううん、多分そんなことしたら相手の思惑に嵌っちゃうかもしれない」

「そうか。ならやっぱり強行突破あるのみだな。力押しはキライじゃないぜ」

「僕もね。やるからには盛大にだよ」


 僕と義流は笑みを浮かべた。やっぱり実力を隠しておくってのはストレス上良くないからね。そんな点では切り替えの早い僕達だ。


「それじゃ本気でいくとするかっ」

「うん」


 僕達は互いに独自行動に移ってターゲット撃破をどちらが先に討伐できるか勝負することにした。


 僕は両腕を床のコンクリートに再度浸けて腕に巨大な塊を実現させた。これで何も恐れることはない。ただ猪突猛進するだけ。


 その信念に従いながら僕はただ進んだ。銃を向けて発砲する兵士を右腕のアッパーだけで脆く吹き飛ばせる。


 そう……明らかにこの任務はおかしい、そして狂ってる。でも僕にはそれに逆らう力もないからせいぜい足掻くだけ足掻いて自分を納得させる。


 そして僕は目的地に辿り着く。部屋の中には数々の政治家や軍関係者だと思わせる服装に身を包んだ人がいた。


「たくさんいるね」


 僕は両腕の岩塊を小型大砲に変えて、チャージを始める。


「な、貴様どうしてここに!? 兵はどうした? ここなら確実で安全だと言われていたのに!」

「残念でした。悪いけど皆さんには死んでいただきましょうか」

「に、逃げろっ! ば、化け物だっ!!」


 僕は勢り席を立って逃げ惑おうとする中年政治家を背後から撃ち殺す。


「大丈夫ですよ皆さん。すぐ冥界へ送って差し上げますから」


 僕は笑顔を絶やさずにゆっくりと両腕を広げて両手に形成された銃を連射する。いくつもの悲鳴が当初聞こえてきたけど僕の射出したコンクリの弾丸は部屋中を崩壊させた。


 轟音が辺りを震動させ、部屋の中には僕以外の生命は存在しえなくなった。死体の山にはニュースで見かけるような顔ぶれも揃っていたが、僕には関係ない。全部任務のうちだから。


 遅れて義流がやってくる。


「あっちゃー、負けちまったか俺」

「へっへー、僕の勝ち」

「はーあ……やっぱあの時助けなきゃよかったのか?」

「どうかしたの?」

「ああ、小さい女の子がいてな。どうみても被害者ぽかったから救出してMBSの一般隊員に預けてきてた」

「そうなんだ。でも勝負は僕の勝ちだからね」

「わかってるって。それよりビワ任務隊長どこいったか知らないか?」

「え、いないの?」

「ああ。他にも数人の隊員がいなくなってる」

「もしかしてあのビームにやられたんじゃ……」

「俺もそれを考えてみた。でも明らかに数が合わない。消えた人数のほうがあの時正面突破を任されていた隊員より多いからな」

「じゃあ一体、誰が……」

「わからないな。大地、ここで一つ提案があるんだ」

「何?」


 僕は部屋の中を振り返って惨状を見渡した。でもなんの感情の揺れも生まれない。


「今回の任務は謎が多すぎた。カゲフミのおっさんにも問い詰めなきゃいけないとも思ったんだが俺はMBSを抜けようと思う。丁度頃合だ」

「えっ? な、なんで急に」

「俺はオリジナルを追おうと思ってる。チルドレンが生まれて、その先はMBSにこき使われるか自分の能力を隠し通して生きていくしかなくなる。俺たちはそういう類の人間だ。いや人間ですらないのかもな」


 僕は暫く義流の言葉に耳を傾ける。


「いいよ。じゃあ僕も一緒に抜けるよ」

「いいのか?」

「うん。でも僕はここに止まって義流のサポートにつくよ。流水香さんと流騎くんの世話も大変だろうしね」

「そうか、悪いな。大地はやっぱり変わらない」

「義流もね。あ、でも義流は前より少しやさしくなったかな」

「そうか?」

「うん。これに関しては流水香さんと流騎くんに感謝しなきゃね」

「そう……かもしれないな」


 義流と僕はそのまま国会を出て、姿を暗ました。

















 眼下を展望すれば夕陽の残光が一筋の線となって山の向こうへと消えていく。部屋には紫煙がもくもくと立ち上り特有のニオイが充満している。


 私は自室の革張り椅子に腰を下ろして回想を終える。


「あれから十三年経つのか。そういえば私もその頃は結婚して秀明も生まれていたな。義流はあの後すぐに消息を絶った。流水香さんは義流を追うといって流騎くんと一緒にどこかへ行ってしまった……。だがまさか流騎くんがMBSにいたとは………。これも運命なのかな、なあ義流?」


 私はもういない旧友の名を呟き、鳴った受話器を手に取る。


「社長、秀明坊ちゃまがお帰りになりました」

「おお、そうかっ! 今行くから待っていろと伝えておいてくれ」

「かしこまり―――」


 私は秘書の言葉を最後まで聞き遂げずに受話器を下ろし、軽快な足取りでエレベーターへと向かった。



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