第百四十二話 若りし頃(一)
遅れてすまい申し訳ないです。
ただいま半年を以て書いていたポケモンのファンフィクションの小説が終わったので、こっちを完結させる為に尽力する次第です。
「ふぅ、一服するかな」
私は自室の椅子から立ち上がりタバコを点ける。紫煙が目の前で揺れ、消える。
「秀明のやつ、どうしているかな?」
私は自分の息子のことを想い、部屋の壁一面を仕切る窓から外界を見渡す。下界には様々なビル群が連なり、その中央に位置するように私の会社、刈谷コーポレーションが存在する。
私のいる場所は広島。私が初めて興した会社のビルはアメリカにあるツインタワーを想わせる形をしている。その社長室から眺める景色は絶景だ。丁度夕陽が沈みかけている頃だな。
「秀明は東京か……せっかくロンドンから帰ってきたというのにつれない奴だな。ま、MBS……じゃなかった、ルネサンスは忙しいってことだろ」
私は半年前ほどに秀明がMBSに入ると言ったときのことを思い出した。
「やはり血は争えないか」
私がルネサンス、いやMBSの言葉を聞く度に一人の親友の名が浮かび上がってくる。
萱場義流。私の親友で唯一信頼をよせることのできたパートナー。
そう、私はMBSに所属していたことがある。そして日本で始めて確認されたチルドレンだ。だが、そうなるとあの時私と義流の世話をしてくれていたカゲフミさんはいつチルドレンになったんだ?
謎が今になって浮かび上がってくるなんて私も年かな?
うん、時間もあることだし秀明が帰ってくるまで(たしか連絡通りだと夜には戻るみたいだしな)過去を振り返ってみるのも良いかもしれない。
私と義流がチルドレンにされ、MBSに勧誘されて幾年か経った後。
「ねえ、義流」
「ん、なんだ大地?」
「僕達ここに来てどれくらい経つのかな?」
「う~ん、もう十年やそこらは過ぎたんじゃないのか?」
「そんなに、経っちゃうのか」
「なんだよ、急にしんみりしちまって。年か?」
冗談交じりの苦笑を義流は向けてくれる。
「ううん、そんなんじゃないんだ。ただ、ね……」
「?」
義流は訝しげな表情をつくるけど、僕はそこで言葉を閉じた。
義流は今なら普段通りの元気が戻ってきた。なぜなら義流はMBSにつれてこられたとき、お母さんと妹をMBSに殺されたから。
僕だったらそんな自分の家族を殺した組織にいることは絶対にいやだ。でも義流はあえてここにいることを望んだ。その理由は僕にもわからないけど義流は男の意地だとか言っていたな。
そんな僕達二人はまだMBSだと新米なんだけど貴重なチルドレンの為、優遇はいいんだよね。でも毎日任務が絶えない。いいように使われてるだけなんじゃ?
でも僕は義流と一緒だから苦じゃない。
今日も任務から帰ってきたばっかりで疲れてるけど昨日に比べたら楽だったかな?
義流は家がなくなったからここの鳥取MBS本部で生活している。僕はさすがに無理だから家に住んでいる。
「さあ、じゃあ俺は帰るかな」
僕の隣の義流は立ち上がってそう言った。
「もう?」
「ああ。今日は疲れた」
「そう?」
「ああ」
どうしたんだろう? 元気ハツラツがとりえの義流があんな任務で疲れるわけないのに。なにかあるんだろうか?
「それじゃな、大地」
「うん、それじゃ明日ね。義流、宿題やってくるんだよ」
「わかってるって」
「じゃ」
僕はそのまま本部から出て帰路についた。
いくら、鳥取に住まなくなった義流でも地元の学校には通ってる。僕と義流はどちらも高校三年生になって皆は受験だと慌てているけど僕達には関係ないんだよね。
どうせ卒業してもMBSに務めることになるだろうからね。
でも、義流はなにかやりたいことがあるみたい。なんかここの総司令ともごたごた言い合ってるし。
明日はどんな任務があるんだろう?
僕はただそんなことを考えながらMBSを自分の生活の一環として受け入れてしまっていた。