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燃えた夏  作者: Karyu
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第百四十一話 消え行く記憶 蘇る思い出(七+)

おまけですw


 俺と静香は互いに抱き合ったまま暫く無言を通し、互いの体温を感じ取っていた。


 駅の入り口前ということもあり通行人は多く、明らかに俺たち二人は邪魔になるんだろうがそんなことは今は関係ない。


 それからまた暫くした後、俺はゆっくりと静香を放した。


「行くか」


「ええ」


 俺は微笑を返してくれる静香の右手を取って東京駅の中に入っていった。


「変わったな」


「そ、そうですね」


「まだ記憶は完全に戻らないか?」


「ええ、ですが段々戻ってきています」


「そっか」


 俺と静香は異様に大きな東京駅に戸惑いつつも俺は自分のトランクを空いている右手に引きながら切符売り場へと向かった。


「あの秀明?」


「ん?」


 静香は困惑した表情で俺を見上げてくる。


「これはどうやって使うのですか?」


「ああ、静香もしかして電車乗ったことなかったか?」


「え、ええ」


「そっか。ならちゃんと見とけよ。俺が電車のありがたさを伝授してやるよ」


「お願いします」


 俺は簡単に静香に切符の買い方と行き先の確認の仕方を教えた。記憶がなくなっていても物覚えの要領はさすが鳳欄高校、木宮さんに次ぐクラス委員だ。


 俺と静香は無事良く地下鉄に乗り込むことに成功した。というのも電車に乗るときに静香が怪訝そうな警戒心まるだしで説得するのに時間が掛かったからだ。


 二人揃って横向きの席に座り、窓の外の景色をぼんやりと見つめていた。だが地下にいるため窓に写るのは俺と静香の反射だけだった。


 俺は静香の右側に座っていたため静香の右手を握り、声を潜めた。


「静香」


「はい?」


「俺はもう静香のことを手放さない」


「……」


「俺は強くなる。もうあんなことは繰り返さない」


「はい……」


「だから覚悟しとけよ」


「はい?」


「俺がいる限り静香は俺の傍を離れられないってことだよ」


「そ、そんなこと……い、今こんな場所で言わないでください」


 静香の頬は朱に照らされ、来ている黒いロングコートの裾を握り締め俯いていた。


 俺はそんな静香のしぐさを観察しながら、


「静香ってもしかしてツンデ―――」


「それ以上言ったら怒りますよ」


「わ、わりぃ」


「それに、こんなことできるのは……ひ、秀明の前だけです……」


 すでに赤くなっていた静香の顔は更に赤みを増していた。


 俺は静香の側へ寄り、俺たちの肩が直に当たるようになった。


「静香」


「な、なんですか?」


「かわいいな」


「ひ、秀明!!」


「わりぃ、わりぃ」


 俺は笑いながら静香の頭を引き寄せた。


「まったく」


 静香は不満の声を漏らしながらも離れることもなく俺のなすがままに頭を俺に預けてくれた。


 そんな感じで時間を過ごしていると電車内アナウンスは俺が予約しておいたホテルの近くの駅の名前を告げた。


 電車は除除に速度を落とし、停車してから俺たち二人は電車から降りてホテルへと向かった。


「なんで本部からこんなに離れたところにホテルをとったんですか?」


「うーん、一応知り合いがやってるホテルでな。結構いいとこだぜ、ここ」


「そうですか」


 俺たち二人の前に鎮座する巨大な建物は俺の友人の親が経営しているホテルの一端なので宿泊代はただだ。ただほど安いもんはない。昔の奴はいいこというぜ。


 二人してロビーに向かい、俺は自分の部屋の鍵を受け取った。ロビーのホテル員は俺に頭を下げつつも怪訝そうな視線を向けてくる。


「あの秀明」


「ん?」


「それは誰の化粧品なのですか?」


 俺達はエレベーターの中で、静香は俺が木宮さんに頼まれて購入した化粧品の袋を指差していた。


「ああ、これは木宮さんに頼まれてたもんだ」


「本当に?」


「本当だって。俺のことが信じられないか?」


 俺はワザとらしく静香に顔を近づけて意地悪げな笑みを浮かべた。


「か、からかわないでください。し、信じます、信じますから」


 かわいいな静香。こんな時ぐらいか、俺が静香をからかえるのは。


 エレベーターが無事にホテル最上階に辿り着き、予約していた部屋に入る。


「一人の割りには大きな部屋ですね」


「そう言うなよ。これでも多少遠慮したんだからな」


 そう、俺の部屋はかなり豪勢なスウィートだ。最初はキングを用意すると言われたときはさすがに俺も遠慮してこうなったんだが、すごい部屋だな。


 俺は持ってきたトランクを隅に置いた。静香はホテルには慣れたものなのかあまり部屋をうろちょろせずにすぐさまベッドに腰を下ろしていた。


「秀明」


「ん?」


「これからどうしますか?」


「静香は何がしたい?」


「私は、別に、これといってもしたいことはないです……それより今、この世の中はどう変わったのですか?」


 ま、予想していた質問だな。俺は静香にわかりやすいようにざっと新西暦にはいってからの世界情勢を説明した。


 結構時間が掛かってしまい、窓の外は暗くなっていた。雪はまだ降り続き、東京にしては珍しい光景が窓の外には広がっていた。


「そうですか。そんなことになっていたのですね」


「ハルナはそういった話をしなかったのか?」


「はい、どうやら本部に着いてからすべてを話すつもりだったようで」


「そっか。さて、そろそろ寝るか」


「もう、ですか?」


「ああ、明日は早いからな」


「どうし―――」


 俺は疑問府を浮かべる静香の顔に接近し唇を重ねた。


「!?」


 俺はゆっくりと重なり合った唇を離した。


「明日はデートだからな。時間はたっぷりあったほうがいいだろ?」


「っな、なにをいってるんですか! も、もう、わた、私は寝ます! 変なことしたら容赦しませんからねっ!!」


 動揺しまくりの静香は着ていた黒いロングコートを脱いで、そのままベッドの中に潜ってしまった。


「はいはい」


 それから一時間、沈黙が続き、俺は呆然と静香を見つめていた。なるべく音を出さずに俺はトランクから着替えを取り出した。


 もう眠ってしまった静香の隣に腰を下ろす。ぎしっと俺の重みでベッドが軋む。俺は少し慌てて静香の顔を覗き込んだがどうやら起きなかったらしい。


 俺はほっとしてもう一度静香の寝顔を確認して頭に手を置く。自然と笑みが零れる。


 中奇戦の時、俺は自分の弱さのせいで静香を瀕死状態にしてしまった。過去の過ちを二度と繰り返さない。俺はそう自分の心に誓った。


 ベッドから立ち上がり、俺は自分が寝るソファの上に座った。


 窓から零れる月光が俺の頬を撫でる。俺の目は次第に細まり、安堵感に当てられながら眠りについた。





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