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燃えた夏  作者: Karyu
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第百三十七話 消え行く記憶 蘇る思い出(四)


 俺の荷物はダイテツ総司令に一、二週間の滞在ということで小さなキャディーバッグ一つだ。


 他のものは大抵今着ているジーンズやジャケットのポケットの中だ。


 今回はスーツの着用を義務付けられてないため私服だ。なので、荷物の中身の大半はスーツと携帯品がほとんどを埋めている。


 俺はころころとキャディーバッグを引きながら、先ずはCDなどが売られている階まで下りてみた。


 予想通りこの時間帯、人はいないらしい。店の中は逆に店員の方が多いのではないかというぐらい空いていた。


 建物の方がこんだけで外があれだけってのはどうなってんだか、まあこっちの方が人込み少なくて俺は好きだけどな。


 俺は早速今流行りのアルバムを探しだして、他にも最新のシングルを購入して店を出た。


 そしてCDをその場で取り出して持ってきたCDプレーヤーの中に入れて聞き出した。


 やっぱ、いいよなこの曲。ポップ程盛り上がるジャンルはねぇ。


 CD購入後、俺は隣の本屋に立ち寄り出ていた漫画十数冊とスポーツ雑誌を買った。ずっしりとビニール袋が本の重みが伝わってくる。


 俺は多少先程購入したCDに酔いしれながらも、昨日スペースにたまたまいた木宮さんに頼まれた品を買うために化粧品売り場まで下りた。


 はぁ、やっぱり女子ってのは化粧好きなんだろうな。木宮さんはそんなに付けてるっぽくないのに。


 まあ、買わなきゃ後が恐いからな。


 俺はそこにいた女性店員に木宮さんに頼まれた商品名を頼み、かしこまりましたと告げた店員が戻るまで待った。


 ふぅ、やっぱこんな所で買物しないから緊張するな、柄にねぇけど。


 そして戻ってきた店員から商品の確認とカードの署名を済まして俺は木宮さん所望の物を買いおえた。


 時計に目をやるともうすでに四時を回っていて、俺はデパートの外に出た。


 確か本部はこのデパートの前のバス停から行くんだったな。


 俺は肌寒い東京の風に当たりながらバス停の傍でバスが来るのを待った。


 口から漏れる息は白い吐息となり消えていく。手袋をしていない手もすぐさま赤くなって俺の手に食い込むデパートの紙袋の所為で箇所は白くなっていた。


 俺は小さな溜息をつきながら、俺の横を通っていく人々を眺めながら物思いに耽っていた。


 昔誰かが言ってたけど、人と人の違いは意識の問題のみだっていってたな。


 そいつが言うように人は皆同じ入れ物で、形が違うだけ。そう、例えば消しゴムの分類に数限りない種類があるように。


 ただ人と消しゴムの違いは、人には意識があって自動的に考える能力を保持しているという事実だけ。


 それが人をヒトと認識させる唯一の手がかり。


 確かにな、俺も以前はそう思ってた。


 でもそれだけじゃないように俺は思い始めていた。


 でもその何かは俺にはまだわからねぇ。


 まったく俺は何を考えてんだか。こんなこと考えたって何もはじまんねぇじゃねぇか。


 俺は俺。他は他だ。もしかしてそれが答えなのかもしんねぇけどな。


 そんなことを考えているといつの間にかバスが来ていて、さっき喫茶店で見かけた黒いロングコートの親子の背の高い女性が後ろから俺に問うてきた。


「あの、お乗りになるのですか?」


「あ、はい! すいません、乗ります」


 俺は慌ててバスに乗り込み、それと同時にバスのドアは閉まった。


 俺は空いている席に腰を下ろしてさっき声を掛けたロングコートの二人組みを視界に捉えた。


 あれは親子なのか? 一見そう見えるがもしそうだとすると親の方は若すぎるな。


 俺が親だと思う女性は背がもう一人より高く、整った顔立ちとスタイルをしていた。髪は透き通るような滑らかな黒。


 もう一人は少し背が低いのだがわかるのはそこまでだった。なぜならもう一人は鍔のでかい黒い帽子を被り、見えるのは鼻から下のみだった。


 でもそれでも端整のある顔付きで垣間見える髪からして女だってことがわかった。


 それにしても、黒いロングコートの下に黒いスーツか……どっかで葬式でもあったのか?


 そう思わせるほど二人組みは全身を黒で覆っていた。


 ま、俺が気に止める必要もないか。俺はその二人から視線を外して窓の外の景色に目をやった。


 やっぱり冬の東京はグレーだな……。それだけは昔とあんま変わんねぇか。


 SC西暦に入ってから東京は日本の重要都市の一つとして益々高度成長し、万が一に備えて日本の国民すべてを三十年間東京で収容することのできる施設まで完成している。


 一体どこにそんな金があるんだか、ま、すげぇが呆れる話だな。


 東京ルネサンス本部はこのバスが終点に到着した次のバス停だ。


 なのでこのバスが終点に到着した時点で下りなかった連中が関係者ということになり、関係のない一般人は本部の隊員であるバスの運転手によって強制的に降ろされる。


 そして終点に着いたバスに残ったのは驚いたことに俺と、さっきのロングコートの二人組みに一人の青年だった。


 俺は残った青年が俺の案内役だということは察知したが、この二人は一体誰なんだ?


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