第百三十六話 消え行く記憶 蘇る思い出(三)
晴菜さんが一騎当千の腕前で次々と施設内の兵士を撃ち倒して行き、私は自分の片手に持った手動銃を持て余していた。
でも、さすがに晴菜さんも疲れてきたのか薄らと汗を額に伝わせ、微かにでも息が上がってきていた。
それを見逃さなかった一人の兵士が晴菜さんに向かって自分の銃を投げつけてきた。
晴菜さんはそれを見事な反射神経で避けた。でもそれを見逃さずして他の兵士が背後ががら空きの晴菜さん目掛けて銃口を定めた。
そして一発の銃弾が放たれた。
驚愕の目をみはる晴菜さんが見届けたのは白煙が立ち上がる一つの銃とその銃が飛ばした銃弾。
私は無意識の内に手動銃のトリガーを引いて、晴菜さんを狙っていた兵士の眉間の間を撃ち抜いていた。
「やっぱりね。あなたはすごいわ」
「え? いえ、こ、これは」
私は、今起きた出来事を理解するのに時間がかかった。 しかも初めて持つはずの銃で私は的を正確に射抜いていた。それも神業ともいえる的確さで。
私は自分が恐くなった。人を初めて撃ったはずなのに、良心が痛まない。そんな自分の心に。
私の脳が覚えていなくても、体が知っている。
一体私は誰なのか?
私の記憶はどこを彷徨っているのか?
しかし、今はそんなことを気にしている時間はなかった。
そう、今、私にできることは晴菜さんの背後を守って、ここから抜け出すこと。
私はまたも駆け出す晴菜さんの後をしっかりと銃を両手で握り、追った。周りからは怒号と爆発音に加え銃弾の嵐が舞っていた。
時と場所が移り―――
日本の首都、東京
地面から雑草のように聳え立つ高層ビルの数々。
それを一瞬の狂いもなく、無意識的に駆け巡る人々。
ここ、東京では立ち止まることすら許されない。
人もビルも各々の関係もただただ直進し、交差していく大都市、東京。
そんな中、俺はひとまず休憩を取る為適当なデパートの中に入って喫茶店で腰を下ろしている。
「はぁ、やっぱ広島から東京までは長いな。ま、飛行機だったぶんマシかな……」
俺はそんなことを小さく呟きながら昨日あった出来事を思い出していた。
「悪いがカリヤ、お前に東京まで来てもらいたい」
「はい?」
俺はスペース、第二広島ルネサンス支部の中にある通信用モニターで東京ルネサンス本部総司令のダイテツと連絡を取っていた。
「任務の内容は言えぬが、お前には明日にでも我が本部に出頭してもらう」
ダイテツ総司令はいきなりそんなことを言ってきた。
なんで俺が東京に行かなきゃなんねぇんだ?
「それって、出張ですよね? 移転だったら拒否しますけど」
「無論、出張だ。だが、まあ一、二週間は滞在すると思うがな」
「そうですか。わかりました。それじゃ、明日」
「いいか、必ず明日の1800時に出頭してくれ」
「出頭っていっても、捕まるわけじゃないですよね?」
「ああ、まあ、時と場合によるがな」
「はい!?」
「それでは、明日」
切りやがった……。
なんだよ、時と場合によるって? なんか問題でも起こしたか?
ま、考えても仕方がねぇ。準備してとっとと行くか。
今は夕方の六時、行くのは明日の始発でいいな。
でも久しぶりに飛行機に乗るな。それはそれで楽しみだ。
回想終わり
「なーんて、意気込んで来たのは良いものの……東京も変わったな。おかげで疲れた」
そう、羽田に到着して電車で今は本部のある品川まで来てるんだが東京は人が多い。
多すぎる……強いて言うなら押し寄せる波みたいに。
それでこんだけのビルの数ってのも頷けるな。でもその割にはどのビルも人の数が少ない。
ま、そういったもんなのかも知んねぇな。
俺は頼んだアイスティーとカツサンドを頬張りながら時計を見た。
時計の針は昼の二時半を指していた。
残り三時間半か。ここで買い物でもして時間を潰すかな。
俺が今いる喫茶店を見渡しても利用客は少なく、見えるのは冬なのに半袖シャツで汗を掻いている中年のサラリーマン、親子なのか二人共黒いロングコートを着ている女性二人、そして俺のみだ。
ま、二時半ともなれば会社の休憩時間も終わるということなんだろうな。
俺はさっさと料理を食べ終わり、冬なのにミニスカートで頑張るウェイターに代金を払った後、店を出た。