第百三十四話 消え行く記憶 蘇る思い出(一)
本当に本当にすみません、申し訳ありません、更新が遅れてすみません!!!!(泣
ちなみに「始まりの冬」の方は更新が無くなる可能性が今のところ大なので、急いで追いつこうと思います
中国の首都北京。
そこに一人の少女がいた。
彼女は腰までかかる長い蒼紫の髪を靡かせ、一人、公園のベンチに座っていた。
彼女の周りには人もいず、また何の気配をも感じることがなかった。
北京の空は灰色の雲に覆われ、特有の、肌を凍らせる風が吹いていた。
少女の名は…………彼女自身も知らない。
「私はここで何をしていたのでしょうか?」
彼女は、しかし、流暢な日本語で喋っていた。
ただただ色を失せつつある時間が彼女の周りで過ぎて行く。
少女が膝に抱える鞄の名札には中国語で
【小民攪 香梁】
と、書かれていたが彼女は虚ろな瞳でその名札を手に取って眺めていた。
「私はどこの誰なのでしょうか?」
一吹きの旋風が公園内を奔り、香梁は立ち上がった。彼女は学校からの帰り道、ふらっとこの公園に立ち寄り生気のない目でベンチに座っていた。
香梁は目の前に掛かった髪を耳下までかき上げ、少女は公園から出て行った。
私には半年前ぐらいからの記憶がない。
そして、何故か私は日本語しか喋れない……。私は中国人であるらしいのに。
時折、日本人なのかと思うときもあっても、私はこの国の人間として登録されている。
そして私は何故か研究室に預けられ、様々な実験に身を呈していた。
記憶喪失は私が小さい頃から実験に携わっていた後遺症と聞かされてはいますし、記憶が抜けているのは薬物の副作用の原因、私が実験体として研究されているのは私が特殊な人間だから、そして日本語が喋れて言語の中国語が喋れないのはそれも薬物の原因であるらしい。
そして私はもう一人の私自身に会う。
それは夢の中で、断続的、そう走馬灯のように私はおぼろげにもう一人の自分の人生を振り返っている。
そしてこのことはまだ誰にも話したことは無い。
私は一体誰なのでしょうか?
そう私は毎日疑問を抱き、でも明日になると忘れてしまう。
私は同じ疑問を問い続けるのでしょうか?
私は公園から出て三十分ほど歩き、私の家、私を必要としている施設に戻った。
施設の中では怒号を散らしながら慌しく働く中国人の研究員が多数いた。
その中で私を視界に捉えた一人の女研究員が私のほうに駆け寄ってきた。
「大丈夫、香梁?」
女研究員、彼女の名前は晴菜。
ここにいる唯一の日本人研究員で私が話せる数少ない人間の一人。
「はい」
「今日も色々大変かも知れないけど頑張ってね」
「はい……」
「大丈夫?」
「は、はい。晴菜さん」
「なに?」
「この後、少しお話できますか?」
「え? ええ、いいわよ」
「ありがとうございます。それでは行ってきます」
「わかったわ、それじゃ後でね」
「はい」
そして、約三時間の実験を終えて、私は自分の部屋に戻った。
「今日もきつかったですね……」
毎回毎回この実験につき合わされると自分の中からなにか大事な物が抜けていくような気がする……。それは体力的にではなく、精神的に。
それが段々と恐ろしくなってきて私は今日、晴菜さんと話ができないか聞いてみたのだ。
そして五分後、私の部屋をノックする音と共に、
「香梁、良いかしら?」
「はい、どうぞ」
晴菜さんは可動式ドアのスイッチを押して私の部屋に入ってきた。
「相変わらず、殺風景な部屋ね」
「ええ、私は自分の趣味がわかりませんから」
「そう。それで、話って何?」
「あ、はい」
私はもう一度自分に問いだしてみた。
本当にこんなことを聞いてもいいのだろうか?
私にはこんなことを言う権利があるのだろうか?
でも、聞かずにはいられなかった。
「晴菜さん」
「なに?」
「私は誰なのでしょう?」