第百三十三話 動き出す世界(六)
「なあ、久夾」
俺は地面に片膝をつき、項垂れたまま俺の傍に立つ久夾の名前を呼んだ。
「なんだ?」
「俺は初めて、人間知らない方が幸せな場合もあるってことに気付かされた」
「ああ」
「そして嘘をつくことも人を幸せのままでいさせることができるってこともだ」
「ああ」
「でも、俺はこれを皆に発表する」
「そしたら尊が」
「いいんだ。俺の行動で、チルドレンでもない俺が告発することで久夾や他のチルドレン達が幸せになれるんだったらな」
「尊……」
「俺の勝手なおせっかいかもしれない、いや絶対そうだろう。でもな、俺は黙ってられない性質なんだよ、昔からな」
「そうだったな」
久夾は微笑を浮かべ、俺に手を差し伸べてくれた。
俺はそれを軽く、でもしっかりと受け取って立ち上がった。
「よし、それじゃ付き合ってもらうぜ。俺が真実を知り尽くすまでな」
「わかった。それで尊が幸せになれるんだったらな」
「へ、男から聞いても嬉しくなるような台詞じゃないな」
「まったくだ」
俺は久夾の手に未だ納まっていた鉄の球を取り、
「これはもらっとく、お前と俺の形見だ」
「ああ、そうなるのか……」
久夾は微笑を浮かべつつもその瞳には悲しみの念が渦巻いていた。
そしてその後、三時間もの時間を掛けて俺は久夾と話をした。
MBSやリベリオンの関係、ルネサンスの実態、チルドレン、オリジナルの存在、中奇戦の裏に隠された真相、今の世界がどうなっているか。そしてチルドレンの運命―――。
俺は久夾に最期に別れを告げて、北海道ルネサンス本部を後にした。
外に出た俺は、無意識の内に呟いていた。
「俺もヤキが回ったもんだよな、こんなこと知って国が黙っているわけもないしな。でもやるなら今しかない。俺が、表の世界の密告者になってやる」
そう俺はいき込みながら、帰路についた。
「尊の奴……」
俺は自分の部屋に帰り漫画で囲まれた自分の席に座り込んだ。
すると、俺の部屋をノックし、入ってきた男が、
「よろしいのですか? あ奴をあのまま行かせて?」
男はさっき俺と尊の前に現れた白髪の男、シラクサ。ここ、北海道ルネサンス本部の幹部的存在だ。
「いい、あいつは俺のダチだ。心配する必要はない。それにあいつはもうここには来ない」
「そうですか、わかりました」
「わかったなら、とっとと出て行けっ」
「わかりました、リーダー」
シラクサは俺に一礼して、俺の部屋から出て行った。
「頑張れよ、尊。日本を変えれるのは、今はお前しかいない」
シラクサは部屋から出て、自らの携帯を取り出した。
「先程のガキをなんとしてでも今日中に消せ」
「はっ、わかりました」
携帯の向こうではそんな返答が聞こえ、切れた。
早速家に着いた俺はパソコンを立ち上げて、脇目も振らずにキーポードとマウスを操作した。
そして、俺が最後に伝えておきたかった二人の人間にメールを送った。
一人はネットで知り合って俺を必要としてくれた人へ、俺のすべてを託して。
そしてもう一人は俺のことをいつでも受け入れてくれた人へ。
そして操作が終わって、パソコンのデータもすべて消去した時、背後で軽い音が聞こえ首に冷たく鋭い物が通り抜けたような気がした。
俺の視界は一瞬で暗くなった―――。
翌日、ある少年の死体が通告された。
少年は自宅で殺害され、何故か二階にいた彼の部屋でその少年はコト切れていた。その日、両親ともに在宅であったのに関わらず何が起きたのか判らないという。
少年の名は木城尊、頸部を刃物により一閃されていた。あいにくも、頭部は完璧に切断されておらず骨も断たれてはいなかった。
彼の死に場所は自分の机の上で、発見された当時彼のPCは壊されていた。
PCのメモリーは消され、机の中も荒らされた形跡があった。
この事件には不可解な点も多く、そして何より犯人の証拠が残されていない手際の良さを踏まえて迷宮入りの事件となった。
事件現場では他にも人間業の成せることができないような不可思議な痕跡も残っており、謎が謎を呼ぶ事件となったのだ。
しかし残された最大の謎は少年の死に顔であった。尊は何かをやり遂げたと言わんばかりの笑みを浮かべていたのだった。
彼の右手がマウスの左クリックを押していたことと尊が左手に鉄の球を握っていたことを踏まえてこの事件は迷宮入りを果たした……。
み、尊が死んじゃった・・・う、うぅ
流騎「そんなに悲しいならなんでころしたんだよ」
そのほうが、話に臨場感が出ると思って・・・
流騎「なら自業自得だ」
ひ、ひどい・・・