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燃えた夏  作者: Karyu
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第百三十一話 動き出す世界(四)


 俺は久夾の指定した場所に走って行った。


 雪が降らない日、北海道は過酷な寒さに覆われる。


 冷たい風が吹き通る道路の中、俺が辿り着いたのは久夾御用達の漫画喫茶だった。


 もうすでに久夾はジャンバーを着こなして、中で漫画を読みつつ待っていた。昔から変わらず漫画オタクな奴だ。


「よ、尊」

「ああ、待たせたな」

「いや、いつものことだからな、行くぞ」

「ああ」


 久夾は髪を淡い蒼で染め、背は平均より高い170cm弱、顔は見た感じいかついが近くで見ると端整の取れた顔つきをしていると俺は思う。


 そのまま久夾の後を俺はついていくといつもとは違った個室に案内された。この漫画喫茶は小規模のわりに漫画の種類が豊富で、いくつもの個室が設けられている。しかし、今目の前にある個室のドアは言うなら作業員以外立ち入り禁止といった風な雰囲気を醸し出していた。


 個室の中は四方三メートル程で、真ん中には丸いテーブル、そしてその周りには座り心地の良い椅子が四つある。


「ん? ここって」

「とにかく、まあ座れ」

「ああ」


 俺は半信半疑ながらも久夾の言うとおりに席についた。


「じゃ、下行くぞ」

「はっ?」


 久夾が個室の中のテーブルの下に手をやり、なにかを触るとともに俺の座る椅子と久夾が立っていた場所、というよりも部屋全体が下に下降していった。


「な、なっ!?」

「ま、落ち着け」

「落ち着けられっかよ! なんだよ、これ!? 新しいドッキリか!?」

「ん〜、ま、今はそう思っとけ」

「は?」


 そのまま、元個室? はどんどんと下に行き一分ほどで止まった。


「ついたぞ」

「ここ、どこだよ?」

「お前が来たがってたリベリオンの本部だ」

「はっ!?」

「だから、お前が血眼になって捜しているルネサンス一角の元北海道リベリオン本部、今言う北海道ルネサンス本部だよ」

「はっ、おい久夾冗談よせよ。漫画オタクのお前が今や天下のルネサンスの一員だって言うのかよ?」

「ああ、それに俺はここのリーダーだ」

「なっ!?」

「知らなかったか?」

「し、知るわけないだろそんなもん!」


 こ、こいつは何を言ってるんだ?


 や、やばい、思考がさだまらねぇ。く、久夾がルネサンスの北海道本部のトップだって!?


 あの、いつもどこか抜けてて漫画ばっか読んでたオタクが!? じゃなくて、久夾が?


「お帰りなさいませ、リーダー」


 個室の扉から一人の白髪の若い男が入ってきて久夾に向かって一礼した。その光景、まさに軍。


「ああ、今帰った」

「お客人でございますか?」

「ああ、わかったなら出て行け」

「わかりました。それでは報告は後ほどに」

「ああ、頼む」


 白髪の男はまたも一礼し退室した。


 俺はその様子をただ見ていただけだった。


「どうした、尊?」

「なんで、なんでこのことを俺に教えてくれなかったんだよっ!?」


 俺は知らない内に久夾に殴りかかっていた。


 その一発を久夾は軽々と避けて、


「すまない。でも俺はお前に危険な目に遭ってほしくなかっただけだ」

「そんなの、俺が惨めじゃねえか! 俺たちはダチじゃなかったのかよ!? 大阪からずっと一緒だったのに……!」

「……………………」


 俺は打ちのめされていた、外傷的にではなく精神的にだ。俺がいつも一緒にいた久夾は、俺が見てきた久夾は、俺がからかってた久夾はなんだったんだ……?



「尊……」

「お前が俺に見せてきたお前はなんだったんだ……?」


 俺の心は葛藤しまくっていた。俺が知ってた久夾も、今の久夾も一緒だ。そう頭は言っているのに俺はそれの判断すらまともに行えなかった。


「そ、それは……」


 久夾が後ろめたそうな表情で俺に応えようとする。違う、俺はそんなことが聞きたかったわけじゃない。


「ったくよ、なんだっていつもお前はおいしいとこばっかとって行きやがって」

「み、尊」


 俺は泣いてるんだろうな。頬がちょっと冷たい。情けないぜまったく、俺は男だ。男は最後の最後まで泣いちゃいけねぇからな。


「もういい、お前にもお前の事情ってのがあるんだろ?」


 俺はそうやって切り分ける。


「ああ、許してくれるのか?」

「勘違いするな理不尽を許したつもりはねえ。だから利用させてもらうぜ。お前の知り得るすべてのものをな」


 心はもうすっかり落ち着き、いつもの俺が、欲の深い探求心が戻り始めた。



「やっとお前らしさが戻ったか尊」

「なに笑ってんだよっ!」


 俺は手馴れた動作で久夾の後頭部をどついた。


「いてっ!」

「十六年分の裏切りの報いだ」

「へっ」


 俺と久夾は互いの手をがっちりと握り返し、普段のように笑いあった。



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