第百二十六話 夢を蝕む悪魔(二)
私が溢した黒い液体はガソリンと油性ペンの液体を混ぜたもので簡単には落ちない。
なんでこういったことをしたかというと……。
「これで出てくるだろうな。なにせ綺麗好きの妖怪だ」
そう、妖魔精はその力が強ければ強い程綺麗好きだっていう特性があるらしい。
そして異変はすぐに生じた。
「きゃっ!」
家が地震でもあったかのように震えた。
「構えとけよ綾夏! 来るぞっ!」
「うん!」
私は自分のホルスターからS&W M28を取り出して構えた。
家の震動はすぐに止んで、家のリビングの真ん中に白い生き物が宙に浮いていた。
その生き物は純白で白い羽を持っているのに顔は蹲っているから見えなかった。
『あなたの夢はなに?』
そう妖魔精は口を動かさずに喋った。
「お前に語る夢なんてない」
流騎くんは自分のホルスターから取り出した45mmもの銃口を誇るS&RA MXを妖魔精に向かって撃った。
でも銃弾は妖魔精の目の前で止まった。
「!?」
私も続けて撃ったけどおんなじように止められてしまった。
「流騎くん、どうするの?」
「ああ、相手の出方を窺う」
『あなたの夢はなに?』
妖魔精はまたも同じことを言った。
今度は顔を上げて。
「!」
妖魔精の顔はぐちゃぐちゃだった。目や鼻、口がある場所は想像できても原型を留めてなかった。
でも大きく開いた口には鋭い牙が並んで、嗤っていた……。
『あなたの夢はなに?』
私の心は少し揺らいだ。
それを見抜いた流騎くんは、
「綾夏、あいつの言葉に耳を貸すなっ!!」
「えっ!?」
そして妖魔精が動いた。
『あなたの夢は儚いね』
「え?」
「綾夏っ!!」
そこで私の意識を途切れた……。
私は真っ白い世界にいた。
「ここは?」
私の問いかけに答えるように目の前の宙に今度は黒い生き物が現れた。
それは妖魔精と同じ顔をしていた。
「妖魔精?」
「ニンゲンはそう呼んでるみたいだね」
「え?」
「あなたの夢を見せて」
「え?」
目の前の妖魔精は手を広げた。
その手から長い爪が伸びて私に迫ってきた。見るからに敵意まるだしだ。
「火星の神マーズよ、我に御加護を与えたまえフューゴ・ペール!!」
私の目の前には炎の壁が現れて妖魔精の足を止めた。
私は炎を操作して私の影を映さして妖魔精の背後に回ったのに、そこにはいなかった。
「大丈夫、今のあなたはあなたの夢」
「え?」
妖魔精は上空から爪を振り下ろしながら落下してきた。
「フレイムレイピアッ!」
私はその縦横無尽に振り下ろされる爪をフレイムレイピアで弾き返した。
「くっ!」
「あなたの夢は今のあなた。それを殺してあなたを食べる」
硬く鋭い物同士がぶつかりあう音が実体のない世界で響いた。
「ほらっ!」
妖魔精が振り下ろした爪が私のフレイムレイピアを弾き飛ばした。
でもそれは空中で燃えて消えていった。
妖魔精は両手の爪の先端を合わせて槍のように構えて突き出してきた。
私は咄嗟に身を屈めて避ける。
でもその時私は肩に激痛が走った。
「うっ……!」
私の目前で妖魔精は自分の長い爪に付いた私の肩の血を長い舌で舐めていた。