第百十六話 リベリオンMBS襲撃事件(六)
「ぐっ! てめぇっ!」
シコンは振り返り、俺たちを、というより俺を睨んだ。
その形相は激怒の念で染められ、歯を食いしばり苦痛に耐えているように思えた。いや、実際そのはずだ。そうじゃなかったらシコンは化け物決定だ。
シコンは右肩の皮膚を抉られ、大量の血を流していた。
「油断したな。まさかそんな大砲を隠し持ってるとは。最近のガキは物騒だぜ。悪いが、蒸発させてやるぜ」
シコンは左手で右肩の傷口を押さえながら右手を宙前方に向けた。
俺は覚悟を決めたが、モモが震えていたのでモモの俺を支えている手を握った。
「悪いな、モモ。こんなのにつきあわせちまって」
「ううん。シルキと一緒だもん。こ、恐くないよ」
霞んでいく視界のなかシコンの右手からは大量の火種が舞散り、巨大な火の玉が出来上がっていた。
「死ね」
シコンが宙高く右手を上げ、振り翳そうとしたとき俺たちの後ろから巨大な水の弾が通り過ぎていった。
「!?」
シコンは避けれないと悟ったのか、自分の右手の火の玉で飛来してくる水の弾を防いだ。
一瞬にして灼熱の炎と寒冷な水が衝突したせいで廊下は水蒸気で埋め尽くされた。
当然俺とモモの視界も白い靄で覆われた。
そして俺たちは後方から近付く足音と共に後方へと大勢の人数によって移動させられた。
間もなくして、シコンのいる廊下のほうへまだ視界が覆われた中、銃声が鳴り響き放たれ
た。
暫く連れられた後、俺とモモは至近距離なら見渡せる程度のところまで来て降ろされた。
「お前たち、大丈夫か?」
太いが頼りになる威厳の声は一般隊員のリーダー格を勤めるタキであった。タキは暗視ゴーグルを装着していて、周りの隊員も皆がそうであった。
「桃は大丈夫。でも、シルキがっ!」
「お、俺は大丈夫だ……」
俺は自力で立ち上がろうとしたが皮膚が引き裂かれるような痛みに見舞われ立ち上がるどころか呼吸すら困難だった。
「無理をするな。トーチ、頼む」
「いいっすよ。しかし、これまたこっ酷くやられたなシルキ」
トーチは同じオーパーツ課のチルドレン隊員で、専らもう一人のチルドレン隊員ハガネと組むことが多いが今は一人であった。
トーチは補助系の技のスペシャリストで、特に修復・回復系の技が専門だ。
トーチは俺の傍に屈み、目を閉じた。
「炎羅秋冬・療医治痕」
トーチは俺の火傷痕に手を当てた。
「いつっ!」
「我慢しろ」
トーチの手からは温かな光が灯り、俺の傷口はゆっくりと癒着し、火傷も段々と修復されていった。
そして五分も満たないうちに俺の傷口は完全に回復した。
俺の意識は薄れ、傷は全治したのに安堵感を覚えたのか眠ってしまった。
起きたらそこはMBSの医療棟であった。
「ん……」
真っ白に光る蛍光灯が俺の視界を照らした。
深呼吸をすると微かに肺に痛みが生じたがそれほど重度のものではなかった。
そして起き上がろうとしたら左手元に微かな重みを感じた。
俺は枕の上に鎮座する頭を横にずらし、左の方を向いた。
そこには頭をベッドに任せ、椅子に座りベッドに寄りかかりながら熟睡しているモモの姿があった。
モモは俺の左手の上に自分の両手を置いていた。
「モモ……」
自然にモモの名前が出た。
「ん…………」
モモは眠たそうな瞼を開き、頭をベッドに置きながら俺の顔を直視した。
「シルキっ!!」
「そんな大きな声出すなよ。一応俺はけが人だぜ?」
「ご、ごめん。でもよかった。よかったよ」
「モモも無事でよかった。ありがとな」
俺は言葉で説明するよりもモモの頬に左手で触れて、モモは応えるように俺の目を見つめ返した。
「ううん。だってシルキがこうなったのも桃のせいだし」
「そんなことない。モモがいてくれたから俺もいまここにいる」
「シルキ……」
「へっ、そんなしけた顔するなよ。それでどうなったんだ?」
「うん、リベリオンは追い払ったよ。でも、被害は大きいんだって。たくさん死んだって。カゲフミさんも現場に行ってる。シコンには逃げられちゃったけど」
「そうか。これが新たな戦いの始まりにならなきゃいいんだけどな……。くそっ……!」
俺はまたも自分の無力さ、非力さを思い知った。
絶対のし上がってみせる。絶対俺は強くなってみせる。俺が守りたい者の為に、そして俺自身の為に。
何があっても!
作者です。どうもです。今回は誰も出しません。なんか自分だけ損してるだけみたいなので……。
次回で、リベリオンMBS襲撃事件を終えます。というか次回はおまけですねw